(18)各国の動き
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スキップ制度のテストが開始されたのは、ルーカスたちの入学式が行われた日からちょうど一週間が経ってからだった。
それだけ時間が空いているのは、もともとこの国の学校のスケジュールが緩いこととテストを受ける生徒たちのために時間を作っているためだ。
もっとも二学年以上で最初からスキップ制度を狙っている生徒は、前年度から情報を集めてテストに挑んでいる。
一年生たちはその分の割を食うことになるわけだが、そもそもここで慌てるような生徒はスキップ制度を受けること諦めて素直に授業を受けろという示唆でもある。
実際ルーカスも駄目な教科は駄目だと諦めて、特に必修科目についてはテストすら受けずに授業を受けることにしている。
これから先、浮遊球の運営を行っていくことを考えればどの教科も大事になってくることは分かっているので、手を抜くつもりはない。
問題はそれにルーカス自身の頭がついて来るかどうかだが、駄目なものは駄目ときっぱり諦める潔さも持っている。
特に暗記科目については浮遊球の記憶媒体に頼ればいいと考えているので、多少は気楽な気持ちで落第しない程度に授業を受けるつもりでいる。
そんなこんなで一週間近くをかけてテスト勉強に追われていたルーカスだったが、別にそれだけをしていたというわけではない。
王国との契約も終わって本格的に移民の移動が行われていたわけで、それがついに終わっていよいよ島ごと目的地に移動が開始された。
現状どのくらいの速さで移動できるかは浮遊球の試算で予測は出来ているが、敢えてゆっくり進むように指示している。
こちらの能力を知られないようにするためという目的もあるが、何よりも初めてのことなので敢えて時間を掛けて慎重に進むことにした。
テスト勉強に一区切りをつけてからリビングに出て来たルーカスは、それら諸々の報告を藤花から受けていた。
「――とりあえず順調なようで良かったかな」
「海賊には気を付けていますが、今のところは何事も無く進めているようです」
「出来たばかりの小さな島だと舐めてかかってくることもあるだろうから、油断は出来ないだろうけれどな」
島そのものには何も防衛施設が置かれていないが、浮遊球自体に攻撃施設は整っているので小さい島を守ること自体は問題ない。
そう自信を見せる藤花に、ルーカスもそれもそうかと納得した。
浮遊球に備わっているのは科学兵器ではなく魔法兵器で、数隻程度の船であれば一度に撃ち落とすことができる。
それに進行予定の場所には海賊の住処も確認されていないので、大きな問題が起こることはまずありえない――というのが外交担当の桃李の説明だった。
とはいえ何もかもが順調に行っているわけではなく、時にルーカスの判断が必要な場合も当然のように出て来る。
「ライフバート王国とハリュワルド王国から識別標の提供打診か。さすがに動きが早いというべきか。当然といえば当然だろうけれどな」
「どちらもガルドボーデン王国と近しい距離にある王国です。この段階でこちらの情報が手に入っていることも不思議ではないでしょう。むしろガルドボーデン王国が今までしっかりと情報の秘匿が出来ていたことの方が驚きです」
「島の存在を公にした段階で打診があることは予想していたけれど、提示されている内容がなあ……」
大地によって固定されていないこの世界の島々は、放っておくとフラフラとあちこちに漂い続けている。
そのためそれぞれの島の位置を特定することは難しいため探索者という存在が活躍しているわけだが、それだと国同士のやり取りなどが難しくなる。
それを可能にしているのが識別標という魔道具で、それぞれの場所を指し示すように対になっている道具になる。
これがあればお互いの島に行き来ができるようになるため、ある意味では大使館の設置と同じくらいに重要な外交交渉のカードとなっている。
「一応島の規模を考えて、多くの船を受け入れるのは難しいとは言っているんだよな?」
「それを押してということでしょう。島の規模も既に見ているでしょうから、分かっていて打診してきているのかと思われます」
「ガルドボーデン王国の影響力を削ぐという意味でも、今のうちから他国の船を受け入れるのはうちとしては良いんだが。問題は王国が良い顔をしないということだろうなあ……」
「王国側もこうなることは最初から見越しているでしょう。どちらかといえば、私たちがどう対処するのかを見定めているのかと思われます」
早くも始まった外交的なやり取りに頭を抱えたくなってきたルーカスだったが、そもそも中継港を用意すると決めた時点でこうなることは目に見えて分かっていたことだ。
相手があることなので都度対応を変えて行かなければならなくはなることが、きちんと事前に幾つかのプランを話し合っておいたものがある。
「今はまだガルドボーデン王国の機嫌を損ねたくはないから先に話を通しておこうか。話の持って生き方としては、それぞれの国に識別標を渡すことを前提としたうえで。駄目だったらそれを理由に断れるから」
「それは構いませんが、そうなると属国扱いされかねませんよ?」
「そう見てもらえたほうが有難いかな。今はまだ。どうせ小さな島しか持っていないんだし、向こうもそうとしか考えていないだろう」
ルーカスの管理している浮遊球は、未だ国としてどころか組織としての名前さえまともに決めていない。
そんな状態で外交交渉も何もないという考えもできなくはないが、色々な意味で影響力が大きくなりそうな島を持っているということも現実としてある。
「それならいいのですが、むしろこれから先のことを考えているということもありえるでしょうね」
「そこまでは考えたくないなあ。今から対策されたら雁字搦めにされる可能性もある。そうなったらいっそのこと小さな島のままでいたほうがいいな」
「それはそれで構いませんが……出来れば浮遊球自体は大きくしてほしいですね」
「今の状態で隠し続けることが出来るんだったらそれもありじゃないか? 無理に人族が住む土地を増やす必要性もないだろうからな」
現在の浮遊球は、光学迷彩を含めて最大限の秘匿機能が使われている。
その状態でいれば、他の浮遊球がどれほど機能を増やしたとしても『破壊することはできない』状態だそうだ。
もっとも浮遊球は管理者たちの生活空間でもあるので、種族の存続を第一に考えている存在としては浮遊球そのものを破壊することを考えること自体が考え辛い。
浮遊球が維持できなくなったとしても外から管理者一族を受け入れることもあり得るため余程のことが無い限りは浮遊球が壊されることはない……というのが管理者たちの意見だった。
その真偽はともかくとして、浮遊球を隠す方向で強化していくことはルーカスも賛成している。
まずは浮遊球を育てることで人が住める島も大きくできるようになることに加えて、王種を安全な場所で育てるようにすることを考えると浮遊球そのものに住まわせるようにしてしまえばいい。
問題は、この世界で生きているルーカスが旅立つことになった時に王種をどう管理していくかになる。
そう考えるとやはり今あるそれぞれの国々のように、国を作って王種を守って行くのが良いということも理解できる。
今後どうなって行くかはまだまだ分からないが、とにかく力をつけることが第一であることは間違いない。
そのためにもツクヨミに頑張ってもらわなければならないわけで、ルーカスとしては多くの王種が暮らしていけるための環境を整えて行かなければならないのである。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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