(13)受講内容
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エルッキは現アークラ子爵の次男で、長男は三つ上の学年に通っているらしい。
そんなアークラ家は、王国にいるドワーフたちの元締めのような役目を果たしている。
元はドワーフ一族の長だった子爵家の先祖が鍛冶の分野で功を立てて、子爵位を叙爵したことが始まりになる。
ただ爵位があるといっても領地を持っているわけではなく、あくまでも技術で王国を支えているドワーフを纏めていることによる貴族位になる。
ドワーフは王国内ではヒューマンについで人口が多く、多くの者たちが鍛冶をはじめとした工業系の職に就いている。
ルーカスの知るこの世界のドワーフはいわゆるテンプレのまま性質を持っていると聞いていたが、エルッキを見る限りではそこから大きく外れてはいないようだった。
そんなエルッキは、浮遊船技師を目指していると自己紹介の時に宣言していた。
浮遊船技師はルーカスも興味が引かれる分野だったため印象に残っていたというわけだ。
「――正直に言えば、技術方面だけに特化していて差別とかそっち方面に興味を示すと思っていなかった」
ルーカスがそう正直に話すと、エルッキはガハハと笑っていた。
「それも間違っちゃいないな。ただ一応ドワーフの取りまとめという地位にいる以上、それ相応の悩み事相談はしている……らしいぞ。今のところワイのところには来たことがないが」
「それはまあ……世間一般だとまだまだ子供扱いだから仕方ないのでは?」
「全くもってその通りだな。ただ親父の言いつけで勉強してきた身としては、少々拍子抜けしているがな」
「そんなことを言っていると、成人したとたんに押し付けられることになるぞ。エルッキがそれを望んでいるならそれでもいいんだが」
冗談交じりルーカスがそう返すと、エルッキは「勘弁してくれ」と身ぶるいしていた。
そもそもエルッキには三つ上の長兄がいるので、子爵家に持ち込まれる相談事は跡取りが対処することになるはずだ。
「兄貴が家を継ぐのはワイとしても全く問題はないんだが、だからといってドワーフに対する差別的な発言は無視できないからなあ。敢えて口を挟ませてもらった」
「そういうことか。ただ俺としてはあまりドワーフが差別を受けているというイメージは無いんだがな」
「俺も同じだ。そもそも技術に優れるドワーフだけに、見下すような奴はいないんじゃないか?」
ルーカスに続いて言った商家の生まれのアルフも首を傾げていた。
「そんなことはないぞな。ワイの家にも遠回しに、技術屋は黙って道具だけ作っていればいいと言ってくる奴はそれなりにいるからな」
「……そっち方面のことか。誰もかれも自分の下につけば上手く行くと公言するような奴のことだな。ドワーフに限らずありそうな言い回しではあるけれど」
「まあな。だが俺たちにとっては言われたくはない言葉であることには違いないからな」
いわゆる物作りをしている者たちである生産者に対して、物を売っている商人が「俺たちが売ってやっているんだ」と勘違いした発言をする者はどこにでもいるということだろう。
ただドワーフにとっては、その発言自体が差別的に受け止められるというわけだ。
「――話が大幅にずれたが、ワイたちも魔族だといって差別するような奴はいないぞ……ということを伝えておきたかったわけだ」
「そもそも話を聞いても実際に見たことは無い……というか、ほとんど言い伝えだけで聞いている存在に対してあからさまな態度を取る奴なんてそうそういないんじゃないか?」
「アルフはどちらかといえば平民よりだからなあ。確かに平民だったら遠巻きに見るだけで終わりそうだな。勘違いして絡んでくる冒険者とかならともかくとして」
ルーカスが言った勘違いしている冒険者(もしくは探索者)は、たとえ魔族でなかったとしても何かしらの理由を見つけて絡む輩だったりするので差別と呼べるかは微妙なところではある。
そんな輩には差別がどうのと言っても通じない――というか、話をしても無駄だったりするので最初から気にしないようにする方が対処としては早い。
もしくは、多少乱暴ではあるがさっさと力で押さえつけてしまうかのどちらかだろう。
「ま、いいさ。ここで俺たちがあーだこーだと話をしていても今すぐに解決できるようなことではないしな。とにかくさっきも言った通り、普通どおりに接してくれればいいから」
「了解」
「分かった」
ルーカスの言葉に二人が頷いたところで管理者(魔族)関係の話は終わった。
「――それよりも、エルッキは浮遊船技師を目指すんだろう? どの教科を選択するかは決めたのか?」
「ああ。ある程度はな。もっとも初年度だと職人系は選択科目はあまり変わらないぞ。二年からは専門が分かれていくらしい」
「やっぱりそうなんだ。俺も魔道具系とか取りたかったんだけれど、見当たらなかったから悩んでいたんだ」
「お? ルーカスは魔道具士志望……だけではないか。とにかく今年はそれぞれの分野の基礎理論とかを取るべきだろうな」
「なるほどなあ。……さっきのアルフの言葉じゃないが、あれもこれもと手を出すと色々と駄目そうだな」
王国の各地にある学校は、基本的には専門学校のような側面も持っているので手を出せばどんな分野でも学ぶことが出来る。
逆にいえば全くの畑違いの分野に手を出すと、それ相応に苦労をするのが目に見えている。
受講した科目全てを完璧に網羅できる頭があればいいのだが、残念ながらルーカス自身はそこまで記憶力に自信があるわけではない(と、思っている)。
「そうなるとどの科目に絞るかが重要だよなあ。……ん? 待てよ? 受講するだけして高得点は狙わなくてもいいのか」
「それだと単位はもらえないぞ。まあ、趣味のつもりで取るんだったらいいんだろうが」
「やっぱりそうなるか。どっちづかずになると困るからどれかに絞ったほうがいいんだろうな」
「だな。この学校は順調に単位が取れても四年あるんだから、それまでに好きなものを取っていけばいいと思うぞ。俺もそうするつもりだし」
中央の学校は、十三歳から十六歳までの四年間在籍することになっている。
ただし入学年は決められていても卒業年がはっきりしていないのは、単位不足の留年があるためだ。
家庭の事情を含めて様々な理由で留年してしまう者もいるにはいるので、そこまでマイナスのイメージがつくわけではない。
「……待てよ? いっそのこと単位の早期取得を目指すのもありか」
「前もって終了試験を受けて授業をスキップするやつか。あれは普通に受けるよりも厳しめに試験が作られているらしいが、大丈夫なのか?」
アルフが少しだけ挑発的なことを言ってきたが、ルーカスは胸を張って答えた。
「大丈夫かどうかはやってみないと分からん! というかこのクラスはAクラスなんだから飛び級制度を利用する奴もいるんじゃないか?」
「確かにな。と言いつつ俺も幾つか狙ってはいるんだが」
そう言葉にしたのはアルフだったが、エルッキも頷いているところを見ると同じようなことを考えていたらしい。
授業は通年で受けてこそというイメージが強いルーカスは忘れていた制度ではあるが、飛び級制度は割と普通に使われている。
真面目な生徒になるとその制度を使って空いた時間を他の教科の受講に当てて単位取得の数を増やしていく。
単位取得数だけがその生徒に対する評価になるとは限らないが、やはり優秀な生徒であると認められる理由の一つにはなる。
周囲の評価をあまり気にしてはいないルーカスではあるが、受けたい講義が多くある身としては積極的に利用して行こうと真剣に考え始めるのであった。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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