(12)異種族
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魔族(管理者)と王種について二人の王族から釘を刺されたことで、Aクラスでは通学初日の朝から張りつめた空気になった。
王花褒章を持つルーカスと国王の繋がりは知っていたとしても、王族全体でバックアップに入っていると表だって知らされたのはここの場面が初のタイミングとなった。
これで子供たちの口から王族の立ち位置や考え方がそれぞれの親世代に伝えられることになる。
それを受けて親たちがどのように行動するのかは今のところ分からないが、色々な思惑を持って動くことになるのは間違いない。
学校という場で政治的なやり取りが出てしまうのはいただけないところだが、主だった貴族家の子女が集まる場だけに致し方のないことでもある。
そもそも中央の学校は社交の前段階、訓練の場だと考えられているので、ここで迂闊な行動をとれば将来に影響を及ぼすことになるのは変えようのない事実だ。
微妙に張りつめた空気の中で、テリーの話は続けられていた。
「――基本的には卒業までこのクラスが続くことになるけれど、成績によっては年度ごとに入れ替えがあるので注意するように。特に必修科目を落すようなことになれば、間違いなくクラス替えになるからな~。まあ、このクラスにいる以上は大丈夫だとは思うが」
軽い調子でさらりと言っていたが、内容自体は生徒にとっては重い。
中央の学校のAクラスにいたということは将来にとっての影響が絶大で、どの道に進んだとしても良いことしか起こらない。
逆にAクラスから落ちたとなれば、いつまで経ってもそういう目で見られることになる。
テリーが話題を変えたことで、生徒たちはまた違った意味で真剣に話を聞き始めた。
「必修科目はこの教室で同じメンバーと受けることになるが、選択科目はそれぞれの教室に移動して受けることになるからな。それぞれ間違った教室に行かないように」
テリーから配られた用紙を、それぞれの生徒たちが真剣な表情で見ていた。
必修科目はともかくとして、狙っていた選択科目の授業が重なっていたりすると次の年度で取らなければならなくなる。
もっともこの世界ではそこまでガチガチに授業が組み込まれているわけではないので、余程のことが無い限り授業が重なるなんてことにはならない。
配られた担当教科表ではテリーの担当教科は星獣になっていた。
王族である以上は星獣だけではなく王種についても詳しいはずなので、ルーカスとしては二番目に気になる講義だといえる。
ちなみに一番は魔道具関係の講義で、独学だけだとどうにもできなかった分野でもある。
魔道具は技術を秘匿することが基本なので、どこかの工房に入るか弟子入りでもしないと独学では限界があったため今まで道具の開発をすることを諦めていた。
受ける授業に関しては、それぞれの生徒によって全く違って来る。
ギチギチに詰め込む者もいれば、必修科目しかとらないという強者もいたりする。
Aクラスにはさすがにそんなことをする者はいないだろうが、それでも余裕を持ったスケジュールを組むというのが当たり前の感覚になっている。
そもそも中央の学校では社交も重視されているため、下手に授業を詰め込むだけでは後々の評価には繋がりにくいということもあるためだ。
そうしたことを踏まえたうえで、ルーカスはテリーから受け取った授業票を見ながら自身の講義スケジュールを組み始めた。
ただ今すぐにスケジュールを組まなくては駄目というわけではなく、これから一週間ほどは必修科目だけの講義が続く。
そのスケジュールもかなり余裕を持って組まれているので、空いた時間を使って学校の様子を見ながら今後の予定を考えることになっている。
一つ付け加えるとすれば、ツクヨミがいるルーカスは星獣に関する講義が必修扱いになっていることだろうか。
そもそも星獣がいるからこそ学校に入ることになったのでそれに対して文句を言うつもりはない……というよりも早く受けたいという気持ちの方が、当初と比べても大きくなっている。
星獣の講義でどこまで王種に触れるかは分からないが、今後のことを考えれば絶対に必要な科目であることは分かり切っている。
そんなことを考えつつスケジュールを組んでいたルーカスは、おなじみのチャイムの音が鳴ったことで最初のコマが終わったことに気が付いた。
そのルーカスに対して、隣の席のアルフが話しかけて来た。
「――随分と集中していたな」
「こうやって見ると色々受けたい授業が出て来たからな。やりくりが結構大変になりそうだ」
「あれもこれもと詰め込むと後で泣きを見るからほどほどがいいと兄貴が言っていたぞ」
適当な助言のようにも聞こえるが、身内に中央の学校に通っていた者がいるらしいアルフからの助言はルーカスにとっては有難かった。
その気持ちを込めて「有難う」とお礼をしたルーカスだったが、ここで何故かアルフが何かを言いにくそうな顔になってから決心したように口を開いた。
「あの、済まなかったな。さっきのは少し無神経だっただろ?」
「さっきの? ……って、ああ。先生が来る前の会話のことか。あれだったら全然気にしていないぞ。そもそもアルフは馬鹿にするような言い方はしていなかったじゃないか」
それがルーカスの偽らざる気持ちだったが、アルフはホッとした顔を見せた。
「――あの二人からああも念押しをされると気になるのは仕方ないと思うけれど、普通に話してくれる分にはこっちは気にしないからな」
「そうなのか? てっきり触れることも駄目なのかと思ったぜ」
「種族の違いなんていくらでもあるじゃないか。このクラスに限ってもエルフだったりドワーフがいるし、他のクラスを回ればもっと珍しい種族も多分いるだろう?」
「あ~。種族の違いをいじってくる奴はいくらでもいるよなあ。了解。とにかく普通に接していればそれでいいってことだな」
どの範囲が『普通』に当たるかは個人差があるので何とも言えないが、この世界にも常識はあるのでそれに沿っていれば問題はない。
むしろヒューマンに限らず多くの人種が存在している世界だからこその接し方があるため、差別に関してはルーカスが知る元の世界よりも厳しい面があるときもある。
ルーカスとアルフがそんな種族問題について話していたところで、一人の生徒が近づいて来て話に混ざってきた。
「その話、ワイも混ざっていいか?」
「ええと……確かアークラ子爵家のエルッキ様でしたか」
先ほどの時間でそれぞれの自己紹介を行ったのだが、ルーカスは全てのクラスメイトを覚えたわけではない。
エルッキのことを覚えていたのは、彼の種族がドワーフだったからだ。
「様も敬語もいらん。クラスメイトだろう。それよりも種族の話だ。ワイらは過去の実績もあってそこまでではないが、やっぱり苦労する者はいるだろう」
「このクラス、というか学校自体に種族を元にして揶揄するような真似をする人はいない……と思いたいけれど、どこにでもいるでしょうからねえ」
「だから敬語はいらんというに。それはともかくルーカスの言うとおりだな。この学校が何故社交に重きを置いているのか、時に分かっておらん者がいたりするらしい」
エルッキが言ったように中央の学校で社交が重要視されているのは、貴族と平民との接し方を学ぶのと同時に、種族による違いを受け入れてどう接していくかを学ぶためでもある。
この学校を出て文官などの職に就くことがあれば、多種族とのやり取りを行わなければならなくなる者も出て来る。
そうした場合に何も知らずに接してしまうと大きなミスになりかねないことから、学生のうちから学ばせるという方針を取っているのだ。
ルーカスとしては、管理者たちについてもそうした種族差として受け入れてもらえればいいなと考えている。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
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