(11)魔族と王種の扱い

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 会話に割り込んできた女子学生を見て、貴族の男子学生が少しだけ息を飲むような表情をしてからニコリとした笑みを浮かべて一礼をした。

「――これは王女様。お久しぶりでございます」

 余裕の笑みを浮かべて行われた男子学生の挨拶だったが、カロリーナ王女は軽く頷くだけの返しで終わってしまった。

 さらにカロリーナ王女は、ルーカスを見てニコリと微笑みを浮かべた。

「ルーカス、お久しぶりですね。同じクラスになると分かっていても教室で会うと不思議な感じがしますね」

「確かにそうですね。それに他の方がいないところで会うのも初めてだからではないでしょうか」

「そういえば、お兄様やお祖父さまがいらっしゃらないところで会うのは初めてでしたね。そう考えるとルーカスの言う通りかもしれません」

 ルーカスの言葉を聞いて、カロリーナ王女は納得した様子で何度か頷いていた。

 

 二人の親し気な様子に周囲が驚いている間に、カロリーナ王女が少し真面目な顔になって例の男子学生を見た。

「――話を戻しますが、先ほど貴方が仰ったことは聞かなかったことにいたします」

「はっ……?」

「ルーカスが言ったとおりに藤花が護衛として国から認められていることは事実です。貴方がご両親の伝手を使って確認するまでもありません。当然、わたくしも聞いておりますから」

 

 カロリーナ王女の言葉に、クラス内が少しだけ騒めいた。

 その騒めきのほとんどが貴族グループの中から起こったのは、親から聞いていなかったのか、あるいはその親自体も知らなかったのかのどちらかだろう。

 三分の一いる平民たちが騒めかなかったのは、そんなことになっているのかとその場で納得していたためだ。

 平民なだけに突然『上』から命じられたことを受け入れることに慣れていたりする分、唐突な王女の言葉もあっさりと受け入れることができただけのことだ。

 

「そ、それは本当のことですか!?」

「ここでそんな嘘を言ってどうなるのですか。本当のことですよ。わたくしもルーカスと一緒にいるところで何度かお話しましたが、優秀な方だと感じました」

「で、ですが、彼女は魔族で……」

「魔族というと悪いイメージがつきものですが、元は魔法に優れた一族という意味だったのではないか、ということを仰る研究者もいます。その是非は専門家の皆さまに議論していただくとして、貴方のように最初から差別するような真似は止めようと国として決まったのです」


 最初から言われることを想定していたかのようにきれいに反論するカロリーナ王女に、男子学生は「うっ」と言葉を詰まらせた。

 魔族という種族全体ではなく個人を見ろといっているのも正しいことで、さらに国からの許可が出ているという事実に反論などできるはずもない。

 とはいっても生まれてからこれまでに植え付けられてきた『常識』があるために、簡単に認めることなどできないという感情があることは彼の表情が物語っていた。


「――とはいえ、すぐに受け入れろと言われても感情で納得できないこともあるでしょう。ですので、まずは彼女の様子を見ることから始めてみてはいかがでしょうか」

「様子を見る、ですか」

「先に言っておきますが、彼女はきちんと我が国の『住人』として認められております。彼女を害するような手段に出た場合には、反撃するのは当然の権利だと考えてください」


 カロリーナ王女と男子学生の会話をすぐ傍で聞いていたルーカスは、内心でこんなものかと考えていた。

 前世の世界でも人種に対する差別は、常に付きまとっていた問題だった。

 あれほどまでに法で縛られていた世界でも残る問題だったものが、こちらの世界でいきなり無くなるなんてことは全く期待していない。

 ついでにいえば、ヒューマン以外の種族がいるこの世界では魔族問題に限らず種族問題が多くある状態だったりもする。

 それを踏まえたうえで管理者たちを受け入れる余地が出来てくれればそれでいい――今のルーカスは、そう考えていた。

 

 男子学生からの反論がないと見たのか、カロリーナ王女は「お騒がせいたしました」と周囲に言ってから友人がいる所へと戻った。

 ある程度の事情を知っているルーカスからすれば茶番にも見えたが、少なくともこのクラスでは藤花に対して変な行動に出る者は限りなく少なくなるはずだ。

 登校初日の朝から起こるとは想定していなかったことだが、国王をはじめとした王家ではこうなることを見越していたからこそ、カロリーナ王女も全くの反論を許さずに言葉を重ねることができたのだろう。

 そう考えると男子学生は踏み絵に使われたともいえなくはないが、だからこそ今回の件を見逃されることになったともいえる。

 今後も同じようなことを繰り返せば、いずれは『大人』がでて来ることになるのは間違いない。

 

 男子学生はまだ何か言いたそうではあったが、王女が引いたことで自然とその場での会話は終わった。

 ルーカスの隣の席にいるアルフは何か言いたげにチラチラと見ていたが、彼が声をかける前にクラスの担任となる教師が来たことで話しかけられずに終わった。

 まだまだ始まったばかりのクラスなのでいきなりこんなことになるとは思っていなかったルーカスだったが、早いうちに起こって良かったと考えていた。

 これで完全に収まるとも考えていないが、少なくとも今回のように堂々と突っかかって来る者はいなくなる……と思いたいルーカスだった。

 

 そうこうしているうちに、教室の扉を開けて成人男性が一人入ってきた。

 年のころは三十後半といったところで、優し気な顔立ちをしている。


「……おや? 随分と静かだね。初日だから騒がしいと思ったんだけれどね。僕がこのクラスの担任になるテリーだ。――それはいいんだけれど……カロリーナ、何かあったのかい?」

 王女であるカロリーナを呼び捨てにしたことで、生徒たちの表情が引き締まった。

 カロリーナもそれが当然だという表情で頷いていたため、このクラスの担任であるテリーもまた王族の一人だと分かったためだ。

「そうですね。魔族の扱いについて少々……」

「なるほどね。まあ、カロリーナが大体のことは言っただろうから僕から何かを言うことは無いかな。君たちも国から睨まれるようなことはしないように」

 管理者(魔族)の存在を国が認めるという話が事実であることを大人であり担任のテリーが認めたことで、先ほどカロリーナ王女が話したことが事実であると裏付けされることとなった。

 

 担任のテリーは言葉通り管理者についてそれ以上触れることは無く、続けて別のことを話し始めた。

「あと僕から付け加えることがあるとすれば、今もそこにいる王種であるツクヨミについてもおかしな真似をしないように。もしおかしな真似をすれば、即王家が動くと考えて行動するように」

 口調自体は穏やかなものだったが、真剣な表情で語ったことで軽々しく王家の名を語ったわけではないことを教室内にいる全員が理解した。

 何故そこまでと考える生徒はいただろうが、続いてテリーから語られた言葉で納得せざるを得なくなった。

ルーカスの王種に手を出すということは、王家が管理している王種にもいずれ手を出す可能性がある。たとえそのつもりがなかったとしても王家はそう考える――そう思ってもらって構わない。それが先日王族全体で話し合って決まった。君たちは直接王種と触れ合う機会が多くなるから特に注意しておくように」

 たった一匹の王種のために王家全体が動いたという事実に、多くの生徒が驚いていた。

 それだけ王家が王種という存在を重く見ているということの証左でもあるが、これで軽々しく触れるわけにはいかなくなったと教室内の幾人かの生徒が心の中で息を飲むことになるのであった。




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