(10)学友たち

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 登校初日。ルーカスは名目上の護衛兼侍女である藤花と共に、学校の校舎に入った。

 ルーカスが通うことになっている学校は一クラス三十人で一学年に十クラスあり、通う年数は四年になるので全校生徒は約千二百人ほどになる。

 千二百人と聞くと非常に多いと思えるのだが、それらの卒業生が今後の国を担っていくということを考えると少ないようにも見えて来る。

 さらに卒業生の一部は地元の領地に帰って官僚として働くことになるので、中央に残る人数はもっと少なくなる。

 ガルドボーデン王国では一口に『官僚』といっても武官も含まれているので、ルーカスの元の世界でイメージする文字通りの官僚はさらに少なくなる。

 もっともルーカスが元の世界で生きていた日本とはそもそもの規模が違いすぎるので、単純な数字だけで比較することはできない。

 中央の学校の生徒数が多くなる理由の一つに平民を受け入れているからという理由もあるので、絶対数が多かったとしてもいわゆる『役職持ち』になれるのは基本的に貴族であることには違いない。

 中央の学校に通っている平民のうち中央の官僚を目指す者は、そうした貴族の補佐役として就くことが常となっている。

 

 ルーカスが入る教室は、一学年のAクラスとなる。

 Aを頭にしてJまでの十クラス分が同学年として入学したことになる。

 一(初)学年は全ての生徒が同じ基礎を学ぶことになっているが、二学年から先はそれぞれ分野に分かれて専門的なことを学んでいく。

 もっともそれはあくまでも座学に関してであって、実技はまた別の扱いになる。

 そもそも座学自体も必須科目だけを取るようにすれば、午前だけで終わるような内容しかなかったりする。

 逆に初学年が全校生徒同じ内容を学ぶことになっているのは、今後確実に縦割りになるのをある程度防ぐことを目的とする――というのが中央の学校を作った初代国王の意思ということになっていた。

 

 中央の学校のクラスは、入試時の成績順に分けられているルーカスのクラスはAクラスだ。

 そのクラスのドアの前までついたところで、藤花がルーカスに頭を下げて言った。


「それでは私は使用人用の部屋に向かいます」

「わかった。何かあるとは思わないけれど、万が一が起こった場合はきちんと知らせるように」

「畏まりました」


 藤花の場合、きちんと言葉にして伝えておかないと『内々に』処理をしてしまいそうなのではっきりと伝えておいた。

 ここでなあなあにしてしまうと、ルーカスに迷惑をかけるかもしれないと理由をつけて一人で勝手に始末をつけてしまいかねない。

 それが別に悪いことだとはルーカスは考えていないが、藤花を含めた管理者の立場を変えるという目的からは逸れてしまう可能性が高い。

 下手に藤花が独自に動くと、『やはり魔族は魔族でしかない』というごり押しがまかり通ってしまうこともあり得る。

 だからと言って自己防衛をするなとまで言うつもりはないのだが、その辺りの加減は悩ましいところではある。

 

 藤花と別れたルーカスが指定された席に座ると、右隣に座っていた男子学生が話しかけて来た。

「なあなあ。少し話しないか? あ、俺の名前はアルフな」

「まだ先生は来ていないからいいが、俺は……」

「ああ。お前の名前は知っているから言わなくても大丈夫だ。というか、このクラスでお前の名前知らない奴なんていないんじゃないか? そのちびっこいのがいる時点で」

 ツクヨミが小さいかどうかは置いておくとして、アルフが言ったもっともな理由にルーカスも「そうか」と返して頷いた。

「それで? 何か聞きたいことでもあるんだろう?」

「あ、やっぱわかる? 話したくなかったらそれでいいんだけどさ。ルーカスが連れて来た侍女? ――は、大丈夫なのか?」

 色々な意味が込められたの「大丈夫か」という問いに、ルーカスは一瞬何と返すか悩んだ。

 これが直球で魔族だと馬鹿にする態度を取って来るのであれば反発しただろうが、どう考えても気を使っているように見えたからだ。

 

 アルフだけではなく周囲からも聞き耳を立てられていると理解したルーカスは、折角の機会だからと多少の牽制の意味も込めて正直に話をすることにした。

「うーん。そうだなあ。大丈夫か大丈夫じゃないかでいえば、大丈夫だと思うぞ。ここの学校に国王にたてつく勇気がある人がいるなら別だが」

「こっ……!? ちょっ、待て! それってここで言ってもいいことなのか?」

「それこそ大丈夫だな。というか一部の生徒は知っているんじゃないか? きちんと国から認められていることだから」

「それはまた、用意がいいというか……。良く認められたな」

「俺も驚いている。それもこれもこいつのお陰だとは思うが」

 こいつと言うのと同時に視線をツクヨミへと向けたルーカスを見て、アルフが納得した表情になっていた。

 

「けど、そうか。となると言葉を口にしたら即罰せられるとかか?」

「さすがにそこまでは行かないんじゃないか? 俺もその程度で訴えたりするつもりはないし。普通通りに接してくれたらそれでいいだろうな」

「ふーん。その普通というのが……ああ、そうか。珍しい種族と会ったと考えればいいのか」

「そうそうそんな感じで。ただ彼女たちがどういう種族名で呼ばれるかは決まっていないみたいだけどな」

「なるほどな。とにかく教えてもらえて助かったよ。いや、もともと馬鹿な真似をするつもりはなかったが」

 

 Aクラスにはもともと優秀な人材が集まっているので、ルーカスもそんな感じはしていた。

 ただし貴族の場合は親から何かを言われている可能性もあるので、クラスメイト全員を信用しているわけではない。

 余談だがアルフをはじめとして平民枠で入って来ている生徒は見た目と態度で分かるようになっている。

 

 学校を卒業すれば間違いなく平民と貴族の『差』は生まれて来るので、きちんと学生でいるうちから変な勘違いをする者が出てこないようにするため平時から意識させるようになっている。

 ただし身分差はあってもルーカスの知る過去の地球のような差ではなく、あくまでも背負っている『義務』の違いにより『一定の権利』も得ているといった感じだ。

 恐らく初代国王による影響だろうが『法の下による平等』という理念はきちんと存在していて、貴族だからと平民の命や財産をむやみやたらと奪ったりすることは出来ない。

 ――というのが建前で、以前の公爵のように『国のためになる』とか『領地のためになる』と理由をつけて無理難題を押し付ける貴族がいることもまた事実だったりする。

 理想と建前が混在しているのはどの世界でも同じなのだろうというのが、ルーカスの今現在の考え方の基本になっている。

 

 そんなことを考えていたルーカスの元に、さらに別の男子学生が近づいてきた。

 名前までは分からないが、その態度で貴族の一員であることが分かった。


「おい、お前。王種を連れているからって勘違いしているかもしれないが、変に国王の名前を出して誤魔化すんじゃねえぞ」

「誤魔化すというのはどういう意味でしょう。私は嘘偽りなど言ったつもりはありませんが?」

「フン。国王の名を出せば簡単に引くと思っているところが平民らしい。嘘かどうかなど貴族である俺たちが確認すればすぐに分かることだからな!」

「お待ちなさい」

 

 Aクラスにも馬鹿な考え方をする奴はいたかと心の中で呆れたルーカスが言い返そうとしたその瞬間、別のところで話をしていたとある女子学生が割り込んできた。

 その女子学生の顔を確認したルーカスは、これ以上は自分が口を出すことではないと開こうとした口を閉じることになった。




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m(__)m

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