(9)入寮

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 中継港の移動は、ツクヨミから得た浮遊珠のエネルギーを使って行うことになっている。

 ただし島に住む予定になっている住民の移動は、島自体の移動を行う前に王国の傍で行われた。

 住人たちのほとんどは島で管理する予定になっている農民たちで、一部港の管理や宿などを行う商人がいる。

 港の規模に対して住人の数が少なすぎるのだが、一気に移民たちを受け入れても混乱することになるのでこればかりはどうしようもなかった。

 最初から港を大きめに作ったのはいいとしても、当面の間は受け入れる船の数を最低限に絞って運用するしかない。

 とにかく今は島の運営を軌道に乗せることが重要なので、少数精鋭で運営していくことになっていた。

 そして、そんな住人たちの受け入れよりも少し前に浮遊球の管理者の人数も増やした。

 当面の間は、彼ら彼女らが行政の部分を担っていくことになっている。

 

「やれやれ。やっと落ち着けたか」

「特に何事も無く入れましたね。多少なりとも嫌味なりがあると予想していたのですが」

 そんな会話をしたルーカスと藤花は、春から通うことになっている中央の学校の寮に入っていた。

 やはりというか寮までの道のりはジロジロと見られている感覚が強かったのだが、寮に着いてからはほとんど何事もなく手続きが済んだ。

「多分だけれど、上から色々と言われているんだろうね。もしくは最初から気にしない管理人がいるところが選ばれたのか」

「この寮は、貴族がほとんどということらしいですから国王から直接話が来ているのかもしれませんね」

「そうだろうね。もしかしたら管理人も貴族の一員かもしれないな」


 さすがに初対面で聞くことはしなかったが、ルーカスたちが寮に着いた時に案内してくれた管理人(男)は平民にはない品のようなものを身にまとっていた。

 幼少のことから教えられていないと身につかないような身のこなしだったので、恐らく貴族出身なのだろうとルーカスは予想している。

 そもそもルーカスたちが入った寮は貴族の子供がほとんどらしいので、平民に管理人を任せるはずがないということもある。

 この寮に入ることができる平民は、星獣を得た子供のなかでも比較的裕福な暮らしている子供に限られているらしい。

 ちなみに寮とはいっているが造りは完全に独立した部屋がそれぞれに与えられているので、集団生活をするという感じにはなっていない。

 寮によってはそれこそルーカスがイメージする集団生活をするところもあるらしいが、藤花がいることもあって独立した部屋を与えられている。

 

「それにしても、必要なものは受付に言えば届けられるというのは予想外でした」

「確かに。でも考えてみれば、貴族なんかは自宅に商人を呼びつけるのが当たり前だから当然かも知れないな。あと寮がたくさんあるから商売としても損は無いんだろう」

「なるほど確かにそのとおりですね。――ところで、ツクヨミ様はあのままでよろしいのですか?」

 藤花の視線が部屋リビングの片隅に移動するに合わせてルーカスがそちらを見ると、ツクヨミがペットの犬や猫のようにウロチョロと嗅ぎまわって(?)いた。

「いいんじゃないかな。新しい場所だから色々と確認しているだけだろうし。そのうち落ち着くだろう」

「そうですか。マスターは放任主義なのですね」

「放任というか、単に縛り付けるつもりはないというところだな。躾もせずに放置しておく気はないし。もっともツクヨミは賢いから、やったらダメだと教えたら二度と同じことは繰り返さないぞ」


 正直なところルーカスとしては、ツクヨミが賢過ぎてペットという認識は薄れてきている。

 その割にはルーカスにつかず離れずでいるので、感覚としては小学生の子供に懐かれているといった感じだった。

 もしかすると精神年齢はもっと上なのかもしれないとさえ思っているが、ツクヨミの行動原理がどういうものなのかはまだ分かっていないので敢えて放任しているということもある。

 

「そういえば、中にはツクヨミのことをモノ扱いする奴も出て来るかも知れない。俺の傍を離れることはないと思うが、いざという時は頼む」

「確かにそうですね。注意しておきます」


 ルーカスにとっては既に大切な家族の一員だが、人によっては浮遊珠を生み出してくれる道具としか見ない者もいる……かもしれない。

 今のところ王国関係者でそんなぞんざいな扱いをする者は見たことがないが、これから先は分からない。

 中央の学校に通っている子供たちは年齢的には中学生を超えているのでバカなことをするとは思えない……思いたいが、ただの金のなる木と思い込むことはあり得ない話ではない。

 特に親がそういう価値観を持っている場合には要注意といえるだろう。

 

「学校は送り迎えしてもらうだけになるだろうからいいとして……そういえば、転移陣の設置はどうなった?」

「問題なく終わっております。念のため取り外しができることも確認しておきましたから万が一退去を命じられても問題ないでしょう」

「それはよかった。俺たちしか起動できないと分かっていても、分析するだのなんだのと理由をつけて追い出される可能性もあったからな」

「親切心の押し売りにも気をつけないといけないですね」


 ルーカスが目を付けられることになる要因は、王種であるツクヨミだけではなく浮遊球関係の全てが対象になる。

 リチャード国王は浮遊球のことを公表するつもりはないらしいが、藤花と行動をしている限りは目を付けられることは間違いない。

 色々と問題を抱えているが、どちらかといえばこれまでルーカス自身が選択した結果でもあるのでトラブルが起こることは覚悟の上だ。

 とはいえこうして対策を色々と練ってはいるが、それらのトラブルが起こるかはその時になってみないと分からないことでもある。

 

 今から無用の心配をし続けても仕方ないと気分転換のために、ルーカスは再度ツクヨミへ視線を向けた。

「ピュイ?」

 ルーカスからの視線を感じたのか、あるいはたまたまだったのかは分からないが、部屋の隅でゴソゴソしていたツクヨミが振り返ってその鳴き声と共に飛んできた。

「そういえば、お前のその声もどこから出しているんだろうなあ……?」

 食事はしっかりととっているので口はあるツクヨミだが、どう考えても発声器官があるようには思えない。

 風の魔法に近い何かを使って音を出しているのではないかと調べたこともあるが、結局分からないままで終わっている。

 

「フフッ。ツクヨミ様ご自身もよくわかっていないようですから、調べても何も出てこないのではないでしょうか」

「それは、確かに。さすがに解剖までする気はない……うわわ! ツクヨミ、ごめんて! そんなこと絶対にしないから!」


 自身の言葉に慌てて距離を取ったツクヨミに、ルーカスは慌てて付け加えた。

 その後は『本当に?』という感じで恐る恐る近づいて来て事なきを得たが、これだけ見てもツクヨミにルーカスの言葉が通じていることがわかる。

 よくわからないのは、時折ルーカスの以外の言葉が通じていないか、もしくは聞こえていないそぶりを見せることがあることだろう。

 聞こえないフリをしているようにも見えないので、もしかすると自分の言葉だけははっきりと届くようになっているのではないかとルーカスは考えている。

 

 解剖云々は論外として、ツクヨミのことをきちんと知っておかなければならないのは星獣を得た者としては当然のことだ。

 王種のことはともかくとして、星獣に関してはこれから通う学校で学ぶことになっているのできちんと学ぼうと改めて決意するルーカスだった。




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m(__)m

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