(8)中継港の位置

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 当然のことながらそれぞれが貴族の一員である大臣たちにとっても、自分自身の『家』のことを考えて行動している。

 高位の貴族の当主であればあるほど、その傾向は強くなる。

 ここにいるのは国のトップともいえる人たちで、当たり前のように高位貴族が揃っている。

 国家の役職についている以上、『国』が一番でその次に『家』という順番を間違えるような者たちではないが、一族のことを考えて行動することはもはや貴族として本能レベルに染まっていると考えてもおかしくはない。

 だからこそルーカスを己の利益に結びつけようと考えることは、ごく当たり前のことだ。

 そもそもルーカス自身も今後の浮遊球のことを考えて王国や彼らの立場を利用しているともいえるので、お互い様だといわれればそれまでのことだ。

 大臣が口にした言葉はあくまでも自然な流れで出た会話とも取れなくはないが、それを自然に出来るのが貴族だともいえる。

 そこで国王が視線だけで牽制をしたのもそれぞれの立場があってのことで、あくまでも今の立場が『よそ者』であるルーカスは両者のやりとりには関係ないと貫き続けた。

 

 契約書を交わした後はそうした貴族的なやり取りがいくらか続いたわけで、ルーカスとしてはそちらのほうに気を使った。

 結果的には国王が色々と牽制をしてくれたお陰で受け流すことに成功していたが、下手をすれば余計な言質を取られていた可能性もあった。

 国王だけではなく桃李も交えての会話だったので完全に王族よりにはならずに、しっかりと浮遊球の利も抑えている。

 頼もしいと思いつつも生まれて来たばかりの桃李がどうやってそんな知識を身につけたのかと、ルーカスが内心で首を傾げたのは仕方のないことだろう。

 

 王城の会議室から出て、浮遊球に戻ったルーカスがその疑問を口にした。

「――いつも不思議に思っていたけれど、桃李たちの知識ってどうなっているんだ?」

「うん? どういうことだ?」

「いや。さっきみたいに貴族とのやり取りなんて、どうやって覚えたのかと」

「ああ、そういうことか。それなら浮遊球にため込まれている知識を植え付けられているだけだな。俺が外務で芙蓉が内務になっているのも、最初から与えられている知識が違うからだ」

「俺がコントロールルームの端末で勉強しているのと同じ感じか」

「簡単に言ってしまえばそうだな。ただ管理者として生まれ出るときに設定された知識を植えこまれる。生まれたあとはきちんと学習して行かないとだめだが」

「そこは人と同じなんだ」

 管理者の出生の不思議の一つを知ったルーカスは、納得した様子で何度か頷いた。

 

 とはいえ疑問が解決すれば新たな疑問が浮かんでくることも世の常といえるだろう。

「あれ? 管理者が蓄積した知識を受け付けられて生まれて来るのはいいとして、そもそも浮遊球自体はどこから知識を貰っているんだ?」

「それは簡単だ。というか、そもそもこの浮遊球がどこにあったのかを考えればわかるだろう?」

「あ、そうか。ガルドボーデンの浮遊球からの知識なのか」

「そうだ。折角だから言っておくと、ここの浮遊球が一定以上の規模になったら同じように別の浮遊球を作ることになるからな」

「それは何故……って、そうか。そうやって管理者なり浮遊球自体を増やして行っているってことか」

「そうなるな。浮遊球自体に自我があるかは分からないが、元からそう設計されているのか、増殖する意図があることは間違いないだろうな」

 何とも不思議な話ではあるが、それがこの世界での理のようなものだと考えれば納得ができる。

 そもそも浮遊球が無ければ人々が生きるための大地を維持することさえ不可能なのだから、自ら『増える』というプログラムなのか意思を持つことは世界にとっても大切なことなのだろう。

 

 桃李と話をしながら浮遊球にある会議室の一つにに入ったルーカスは、藤花や芙蓉をはじめとした他の管理者が集まっているのを確認してから会議を始めた。

「――特に問題なく締結式は終わったよ。これで本格的に人員の移動もできるようになるな」

 ルーカスがそう言うと、室内にホッとした空気が漂った。

「おめでとうございます。人員は予定通りお父上の船で行うのでしょうか?」

「そうなるだろうね。一番安心できるし。……少しもまけられなかったのは痛いけれど」

「フフ。さすがお父上ということでしょうか。いいではありませんか。どうせ私たちが持っていても意味のない貨幣です。使うべき時に使わなければなりません」

「そうなんだけれどね。身内なんだから多少値引きしてくれても良かっただろうに……」

 ルーカスがそう言いながらため息を吐いていたが、それを見ていた藤花たちはお互いに顔を見合わせて笑っていた。

 ルーカスとエルモの仲が良いことは既に知れ渡っているので、微笑ましいものを見た気になっている。

 

 ガルドボーデン王国と契約の締結をしたことで、今後は本格的に中継港が稼働することになる。

 今はまだ正式な発表はされていないが、人の口には戸が立てられないということわざ通りに探索者の間では既に中継港の噂が広まっていた。

 王国側も敢えて噂が流れることは止めていないようで、暗黙の了解として噂が広まっている段階だった。

 その噂の広がり方からいっても、中継港に多くの船が集まることになると予想している。

 余談ではあるが、ルーカスは値引き出来なかったと言っている件も実はきちんと身内価格にはなっている。

 エルモの船団には、ギルドを通すと掛かる手数料やら税金やらが加わる分を除いた料金を支払うと決まっていた。

 

「船の確保は出来た。第一陣の人員も確保も終わった。あとは……何かあったっけ?」

「島に住むことになる者たちと私たちの面通しも終わっております。残っていることがあるとすれば、島自体をどこに置くかということでしょうか」

「あ~、それがあったか。周囲に他の国が無ければそれに越したことはないけれど……詳しく調査しに行く時間がないなあ」


 ルーカスは、一週間後には学校の寮に入ることが決まっている。

 ガルドボーデン王国とは違って中継港となる島と浮遊球は切り離されているが、どこまでも遠くに島を置いておけるわけではない。

 浮遊球に出入りするには転移魔法を使うことになるわけだが、それも無制限というわけではなく距離の問題はついて回る。

 

「――仕方ない。人員を受け入れる日は決まっているし、適当に移動させながら当たりをつけて行こうか。どちらにせよあまり遠くには置けないし」

「そうですね。マスターがガルドボーデン王国に滞在することが決まっている以上は、浮遊球もあまり距離を離すことができません」

「中継港という役目があるからあまりあちこちに移動するのは止めておきたんだけれどな。しばらくは仕方ないか」

「浮遊球自体の規模が大きくなれば離しておける距離も増えますが……今はそこまで望んでも意味がありませんね」


 最後に言った芙蓉の言葉に、他の面々が仕方ないという顔になっていた。

 浮遊球は蓄えているエネルギーの総量によって、規模レベルを大きくすることができる。

 ガルドボーデン王国が大きな島を維持できているのは、それを管理している浮遊球の規模が大きくなっているからだ。

 ただ浮遊球の規模が大きくなればなるほど維持するためのエネルギーが必要になるので、簡単に大きくすることが出来ないところが悩みどころだったりする。

 

 浮遊球内でエネルギーが循環しているというのは、今の初期状態だからこそできることで規模を大きくすれば外部からのエネルギー補充が必要になる。

 そのための王種というわけなのだが、ツクヨミしかいない現状ではすぐにでも規模を大きくするというわけにはいかないのである。




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