(7)契約(条約?)締結
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全ての受験生が試験を受け終わってから一週間後には結果が発表された。
ルーカスの順位は全体の十位で、思ったよりも上だったことで驚くことになった。
歴史系と法律系の点数が低くなったことは予想通りだったのだが、実技で思っていた以上の点数を獲得できたことが予想よりも上の順位になった。
それでも小さい時からコツコツ勉強してきた他の貴族たちよりも上位をとれたのは、前世の記憶にある勉強法が大きかったのは間違いない。
他の転生者たちのお陰で知識チートなども含めてあまり活躍して来なかった前世の記憶が今回は役に立つこととなっていた。
もっともルーカスは、前世の記憶があることを邪魔だと考えたことは一度もない……どころか有用に活用させてもらう場面の方が多い。
とにかく試験の結果は紛れもなくルーカス自身の力なので、これで胸を張って学校に通うことができる。
とはいえルーカスが王種を得ているという色眼鏡で見られることは確定しているので、変に肩ひじを張ったりすることなく自分らしく活動していくための一つの手段となると考えていた。
そして試験結果発表から数か月後、学校が用意している寮に入ることが決まっているルーカスはいよいよ入学式を迎え……る前に藤花と共に王城へと来ていた。
今回はただのルーカスとして来ているわけではなく、浮遊球の
それほどのメンバーが集まっているのは、以前から進めていた中継港の目途がようやく立ちそうになったからだ。
中継港にある各施設を管理するためには人手が必要になるので移民も含めてこれまでも何度か話し合いがあったが、これほどのメンバーが集まったのは初めてのことになる。
「――ふむ。全員集まっているな。それでは始めようか」
最後に入室してきたリチャード国王の言葉から始まって、文官が事前に用意してあった書面がルーカスのところへと回ってきた。
その書面には、一言で言ってしまえば王国と結ぶ条約が書かれている。
ただルーカスはまだ建国を宣言するつもりなどないので、内容的には王国に属さない独立したギルドとの契約ということになっている。
書面の内容については以前から何度も内容を詰めて来たものなので、今この場で細かいやり取りをすることは無く単にサインを書くだけになっている。
一応これまで話してきた内容と変わりがないかだけを確認してからサインすることになっているので、それなりの時間はかったのだが。
そしてサインの応酬が始まってから数十分が経った頃になって、ようやくリチャード国王が一息つくように大きく息を吐きだした。
「これで用意した書類は全てであるな?」
「ハッ。これから先も細かいものは出て来るでしょうが、大筋は終わりになります」
「初めてのことなので仕方がないが、予想以上に多かったな。ルーカスも疲れたであろう?」
「それこそ国王が仰ったとおりですよ。初めてのことなのでこの量になるのは仕方ありません。むしろ今後のためにもお互いに食い違いがないようにしておくことは大切ですから」
前世で社会人として働いてきた経験があるルーカスも、契約書の重要性は十分に理解している。
それが国が関わることとなると、量が増えるのも当然だろうと考えていた。
ルーカスの浮遊球はまだまだ規模は小さいのだが、今後のことを考えた内容で契約を結べたのは有難かった。
むしろ王国の重鎮たちが自分のことを軽く扱うどころか、下手をすれば一国と認める勢いで話を進めて来たことに驚いていたほどだ。
この件で中心となって話を進めていた桃李が、予想以上に話が早く進んだと喜んでいた。
「そう言ってもらえるとありがたいな。もっとも今後も似たようなことは出て来るだろうが」
「それは仕方ありません。独自に島が持てると分かっている以上は必要なことですから。皆さんも気になることはすぐに相談して下さい。そのための管理者でもあります」
ルーカスは、これまで行われて来た王国との話し合いには必ず桃李が出席するようにしてきた。
ルーカス自身が受験のための勉強で時間が取りにくかったということもあるが、王国内にある『管理者=魔物』というイメージを払しょくするためでもあった。
その成果があったのか、あるいは元から重鎮たちの管理者に対するイメージが一般のものとずれていたのかは分からないが、ここまで話し合いがスムーズに済んだのは管理者に対する見下しなどが無かったからだ。
逆に多少なりとも管理者に対する差別的な発言なり見下したような態度が見られた場合には、今回の契約自体が無くなっていた可能性もあった。
ただ管理者についての事柄を見極めていたのは王国側も同じはずで、お互い様だったともいえる。
お互いに慣れたあとは、国同士の話し合いと変わらない調子で進めることが出来たとルーカスに笑いながら言った重鎮もいたくらいだった。
「管理者が有用であることはもう皆も分かっているとは思うが……今すぐにガルドボーデンの管理者を表に出すのは難しいであろうな」
「それは私が関知する話ではありませんよ。重鎮に皆さまもそれはよく分かっておられるのではありませんか?」
リチャード国王が個人的にガルドボーデンの管理者と会っていることを既に知っている重鎮たちは、ルーカスの言葉に顔を曇らせていた。
ガルドボーデンの管理者が表に出てくれば、必ず馬鹿なことを考える貴族や組織が出て来るのは目に見えてわかる。
それで管理者が気を悪くしてしまえば、元の木阿弥よりもさらにひどいことになりかねない。
だからこそ国王も含めて、未だに表立って行動することを控えている状態なのだ。
管理者の問題については、一朝一夕に解決することは出来ない。
それがこの場にいる者たちの共通の認識なので、これ以上話が進むことは無かった。
それよりも集まっていた重鎮たちは、中継港へ意識が向いているようだった。
「――農地の様子はいかがですかな?」
そう聞いてきたのは、王国で農畜産物を統括している大臣に当たる人物だった。
「農業用の土地自体はもう用意が出来ています。収穫期の短い作物から植えていくつもりですが、それまでの間の食料は既に確保しておりますので心配はいりません」
「やれやれやはり管理者の能力は魅力的ですな。私にはどんな方法で作られているのかすら想像ができません」
「そこはリチャード国王へ聞いてください。もしくは、私がばらしてもいいのならばらしてしまいますが?」
「御戯れを。そこについては触れてはならないことがあるというのは、我々の共通認識ですからな」
大臣の一人がそう言うと、幾人かの同等の立場にいる者たちが頷いていた。
『王種の一族』というのは、その言葉通り王種の星獣を管理できる資格を持った者たちのことを言う。
現在の王国でいえば、王族たちとルーカスがそれにあたる。
その王種の一族がこの世界で土地を持ち管理することが出来ているのは星獣の王種以外にも何かしらの理由がある――というのは、一定以上の立場を得ている者が持っている共通の認識らしい。
だからといってルーカスに問いかけた大臣のように冗談で済ませているのは、下手に手を出すと火傷どころでは済まないと分かっているからである。
その火傷どころでは済まない火を起こす権限を持っているリチャード国王は、大臣とルーカスの会話を笑みを浮かべながら聞いていた。
その笑みが『余計なことを聞こうとすればただでは済まない』と言っているように見えたのは、決してルーカスの気のせいではないはずだ。
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