(6)魔法のテスト(その3)

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 五つの鍵穴に対応する魔道具と五つの鍵になりえる魔道具。

 それぞれの鍵を使って鍵穴側の魔道具に納められた『何か』を取り出せという課題。

 単純にそれぞれに対応している鍵と鍵穴を合わせるだけでは開けることは出来ず、何か工夫が必要だと気付いてから数分後。

 一つ一つ丁寧に魔道具を観察していたルーカスは、とあることに気が付いた。

 それが何かといえば、鍵に当たる五つの魔道具がさらに細かく分類することが出来るということだった。

 一度気付いてしまえば仕掛け自体は簡単だったので、壊れたりしないように魔法を使って五つあった魔道具をさらに分けて十五個にした。

 分解するときに力加減を間違えると鍵自体が壊れてしまいそうだったので、繊細な魔力の扱いが必要だった。

 さらに五つあった魔道具がそれぞれ三つずつに分けることができたわけだが、分かれた形もバラバラでパズルを分解しているようにも思えた。

 

 勿論分解しただけでは鍵として使えないので、再び元の立方体になるように組み立て直す必要がある。

 ただし元の通りに直してしまうと意味がないので、わざとごちゃ混ぜにしてから組み立て直した。

 途中で形が合わなくなったりして何度かやり直す結果になったが、なんとか元の五つの魔道具に戻すことは出来た。

 といってもこれだけで終わりではなく、今度は鍵穴に合うように魔力的に鍵の形を整えなくてはならない。

 

 ……のだが、一回目に組み立て直したパターンだと最初の時と同じでどうしても鍵が合わなくなってしまう。

 結果として、二回ほど鍵の分解からやり直す羽目になった。

 それでもどうにか全ての鍵と鍵穴を合わせることが出来て、魔道具の箱を無事に開けることができた。

 五つ目の箱を開けた時には試験の残り時間が十分ほどになっていて焦ったルーカスだったが、やり切った感が大きくて箱から出した『戦利品』を見て思わずニヤついてしまっていた。

 

「――入学試験なのに中々豪勢なことだな」

 魔道具の箱の中に入っていたのは、それぞれ形と色が違っている魔石だった。

 魔石はこの世界に生息している魔物の体内に埋め込まれている濃縮された魔力がため込まれている結晶だ。

 世界中にいる魔物が空を飛んで(浮いて)いられるのは、これらの魔石が存在しているからという学説を唱える学者もいるくらいだ。

 

「一目見ただけでその価値が見分けられる君も中々豪勢だと思うがね」

「うわっ!? ……っと、すみません」

 

 いきなり声を掛けられて思わず驚いた声を上げてしまったルーカスが、受験中だったことを思い出して思わず謝った。

 もっとも周囲からは特に責められるような視線は無く、むしろ声をかけて来た試験官が笑いながらこう言ってきた。


「謝らなくとも大丈夫だ。他の受験生は解呪が間に合わないと諦めているよ。君が最後だったんだが、どうやって解くのか見守っていたくらいだ」

「あ、あ~。そうなんですか」

「そうなんだよ。どうやら君の解き方を見て自分では無理だと判断したようだね。私から言わせれば、その判断ができただけでも十分だとは思うが」

「自分の実力の見極めも試験項目に入っているということですか」

「そういうことだ。というよりも、そもそもこの試験は受験生が解けるレベルではないはずだったんだが……まあ、解いた以上はそれが君の実力だ」


 ルーカスにそう言ってきたのは一人の試験官だったが、他の二人の試験官も笑いながらルーカスを見ていた。

 ここで改めて周囲を見回してみたルーカスは、何人かの受験者が諦めて退席していることに気が付いた。

 魔法にも得意不得意な分野があるので途中退席が認められているのだが、ルーカスの思った以上に受験生たちが残っている。

 何故だろうかと内心で首を傾げたルーカスだったが、その理由は向かいに座っていた男子の受験生によって判明した。

 

「いやー、凄かったなあ。俺、半分の時間で諦めてずっと見てたんだけれど、自分じゃ絶対解けなかったわ。途中から何やっているのかすらわからんかったからなあ」

 前の席の受験者がしみじみそう言うと、他の受験者たちも同意するように頷いていた。

 彼ら彼女らは、ルーカスがやっていることが自分たちにとっては高度過ぎると気が付いてあっさりと諦めて途中から見学に切り替えていたのだ。

「本来なら試験中なのでカンニングにもなりかねなかったのですが、魔道具を回収したうえでのことなので大丈夫でしょう」

 ――と、言い訳めいたことを口にした試験官。

 自分の実力不足を認めて途中で諦めたことがどう点数に影響するのかは分からないが、ルーカスのやることを最後まで見守っていた他の受験者たちは後悔していないようだった。

 それどろか、いい勉強になったとそれぞれが良い笑顔を浮かべている。

 

 受験中なのにそれでいいのかと疑問に思ったルーカスは、素直に聞いてみることにした。

「私がやったことが勉強になったといいますが、一応受験中なのですがいいのですか?」

「他の皆は知らないが、俺の得意科目は攻撃魔法だからなあ。どう考えてもお前みたいな精密な魔力操作は出来ないさ。他の奴らも似たり寄ったりなんじゃないか?」

「こらこら。全員が全員君と同じだと思わないように。どちらかといえば、操作系が得意な者たちの方が諦めが早かったですよ。自分とのレベル差があり過ぎると気が付いたお陰で」

 そうなのかと周りを見回したルーカスは、視線が合った数人が頷いていることに気が付いた。

 彼ら彼女らは試験官のいう『操作系が得意』な受験者のようだったが、ルーカスを見て来る視線はどちらかといえば尊敬の念のようなものを抱いているように見えた。

 

 ルーカスとしてはここで変に謙遜しても彼らのためにならないと考えて、素直に頷くだけにとどめた。

「皆の参考になったのであれば良かったです。それよりもこれで試験は終わりでしょうか?」

「そうだな。これ以上してもらうことは無い。――っと、話している間にちょうど時間になったようだ」

 チラリと時計を見た試験官が、試験時間の終わりを告げた。

 試験の終了間際まで残っていた受験生がルーカスだったこともあり、これで魔法分野のテストが終わったことになる。

 ルーカスとしては十分に満足のいく結果が出せたと考えているが、どの程度の点数になっているのかは結果発表まで分からない。

 それでも前世の記憶も含めて久しぶりに受けた『試験』は、ルーカスにとって実りのある経験になっていた。

 

 実技試験でも手ごたえを感じる結果を残せたルーカスが自宅へと戻ってからしばらくのこと。

 二日前にも似たような会議をしていた王国の上層部が、今度は実技試験の結果を興味深々に聞いていた。

「――ということは、一般受験どころか全体でも上位は確定ということか?」

「そうなります」

 受験担当の文官の短い返答に、リチャード国王は「そうか」とだけ返して周囲を見回した。

 

「だそうだ。ここにいる者たちの中にはルーカスの能力を疑う者もいただろうが、まさかこの結果にも疑いをかけるつもりはないであろうな?」

「不正も一切せず、真正面から受験した結果です。文句を言う者はいないでしょう。――少なくともこの場にいる者は、ですが」

「全ての者に納得させることなど不可能なのだから、とりあえずはこの場の皆が分かっていれば良い」

「しかしリチャード国王。この先少年が怠けるようであれば、下手にかばい立てすることは認められませぬぞ」

「それは当然だ。中央の学校は、試験の点数だけを見ているわけではないからな。これから先のルーカスの成長を見届けたうえで今後の付き合いを見据えて行けばよい」

 

 国王のその言葉を聞いて、この場に集まっていた重鎮たちはどこかホッとした表情を浮かべるのであった。




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