(4)魔法のテスト(その1)

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 入試三日目。筆記テストを受けた初日から一日空けた翌々日には、ルーカスの実技試験の順番が回ってきた。

 実技試験は大まかに武技と魔法に分かれていて、ルーカスは魔法を選択している。

 武技の方は剣技から無手まで含めた全ての戦闘(格闘)技能を見られることになっていて、魔法は魔法技術を見極めるとされている。

 魔法が得意と自認しているルーカスは、当然後者の試験を受けることに決めていた。

 そして幾つかある魔法試験の会場の一つへと足を向けたルーカスは、きちんとしたチェックをされてから会場へと入った。

 魔法の試験は直接魔法を使うこともあって、会場全体に魔法の結界が張られている。

 魔法の存在を知ったばかりのころは結界と聞くだけでテンションの上がっていたのだが、変に騒がずに張られている結界を観察できるようになっている。

 もっとも落ち着いて周囲を観察しているルーカスを見て一部の試験官が感心していることまで気づいてはいなかったのだが。

 

 ルーカスが入った会場は四つに区切られて、それぞれに結界が張られている。

 その結界の中に数人の試験官がいて、受験者が中央に置かれている魔道具に向かって魔法を放っていた。

 誰かに聞くまでもなく放出系の魔法を試験していることは一目瞭然だったが、ルーカスは内心で首を傾げていた。

 会場に入ってすぐに結界を観察してから何人かの受験者の魔法を見れたのはいいとして、思ったよりも使っている魔法のレベルが低かったからだ。

 

 武技系の受験者が魔法の試験をしているならまだ納得できるが、ルーカスが今いる会場は魔法系の受験者だけが集まっている会場になる。

 だからこそもう少しレベルが高いと考えていたルーカスは、一般的な魔法のレベルは思っていたよりも低かったと自分の認識を改めることになった。

 そもそもルーカスの周りにいる者たちは、同世代の子供たちを除けば一流の探索者や冒険者だったりする。

 その中にいる魔法使いたちは使える魔法も当然のように一流のものなのだが、ルーカスはそれが使えて当たり前だと思い込んでいたのである。

 

(これはどうしたものか。目立ちたくなければ使う魔法のレベルを下げるのも有りっちゃ有りだけど……。いや、駄目か。どうせ国王たちにはある程度知られているし、下手に手を抜くと怒られそうだな)

 ルーカスは王種を得ているので、否が応でも目立つことは確定している。

 それならば、自衛のためにもある程度は実力を見せておいた方がいいだろうと考え直した。

 入学前からこんなことを考えなくてはならないのかと先が思いやられるルーカスだが、こればかりは自分の身を守るためなので必要なことだとと割り切っている。

 

 ルーカスが自分が割り当てられた場所に向かって手続きを済ませると、結界の外に用意された椅子で待つように言われた。

 ルーカスが座っている椅子の左右にも受験者が座れるように別の椅子が用意されていて、右側には先に来ていた受験者が四人ほど座っていた。

 受験自体は先に来たから受けられるようなシステムになっているらしく、ルーカスが椅子に座ってからすでに二人ほどが結界内に入って魔法を使っている。

 男女の比率は、ちょうど半々か少しだけ女子が多い。

 基本的に魔法使いは男よりも女の方が多い傾向にあるので、受験の段階で女子の比率が多くなるのは当然の結果だともいえる。

 ルーカスの隣に座っているのも女の子で、真剣な表情で受験者たちが使っている魔法を見ていた。

 

 そしてルーカスの右隣に座っている受験者の人数が二人になった時に、左隣に座っていた男子の呟き声が聞こえて来た。

「――つまんねえの。中央の学校だからって期待していたのに、これじゃあここまで来た意味がねえじゃねえか」

 いかにも退屈だと言わんばかりに呟かれたその声は、紛れもなく隣に座っている男子のものだった。

 とはいえルーカスの傍にいる他の受験者は、その声に反応することはなかった。

 この男子は、既に何度も同じようなことを他の受験者の試験が終わるたびに繰り返していたので、一々反応するのも面倒だと考えているのだろう。

 反応すればするだけこの男子を喜ばせることは丸わかりだったので、試験前に無駄に疲れる必要もない。

 この男子がどの程度のレベルの魔法が使えるかは分からないが、ルーカスの印象ではそこまで抜きんでた実力があるとも思えなかった。

 

 そうこうしているうちに、ルーカスの隣に座っている女子の名が呼ばれて結界内へと入って行った。

 ルーカスは、この女子の魔法の扱いが他の受験者とは一味違っていると最初から気付いていた。

 言葉にするのは難しいのだが、身にまとっている魔力がしっかり均一に流れているとか身の内にある魔力の質が違っているような感じを受けていたからだ。

 それはルーカスの周りにいる魔法使いたちにも通じるものがあって、もしかすると何かしらを起こしてくれるかもしれないと期待していた。

 

 そんな少女から数メートル離れた先には、五十センチ四方の金属板が置かれている。

 先ほどから受験者たちは、その板に向かって各々が使える魔法を放っていた。

 勿論その板はただの板ではなく、当たった魔法の威力を測定できる魔道具だ。

 板そのものに魔法を狙って当てなければならないことからも、魔法の精度を見ていることがわかる。

 

 隣の席で不満そうに見ている男子はともかく、ルーカス自身はそれなりに楽しく見学している。

 呪文を唱えてからの魔法の発動のタイミングや魔力の扱いなど、それぞれに癖というか個性のようなものが出ていて見ていて面白かった。

 所詮は魔法を習い始めたばかりの見習いとすら呼べない実力と言われてしまえばそれまでなのだろうが、そもそも本格的に習うのは一般的に学校に入ってからなのだから魔法を使えること自体が優秀な証拠ともいえる。

 勿論ルーカスのように独学で勉強をしたり、貴族の子女のように教師をつけられて学んでいる者も存在しているので、全員が全員そうだというわけではないのだが。

 

 そんな受験生事情は横に置いておくとして、一つ前の受験生の女子が使った魔法を見てルーカスは思わず「おっ」と声を上げた。

 彼女が使った魔法は、特別に威力があったというわけではない。

 ただし使ったのが水系統の魔法で、しっかりと金属板の中心を捕らえていたから驚いたのだ。

 これまでルーカスが見て来た受験生の中では、段違いに魔法を制御する力に優れていたともいえる。

 

 試験官たちもその認識を持ったのか、何やら顔を見合わせて話し合っていた。

 威力がさほどなかったのでもしかしたら減点要素になっているかもしれないが、それ以上に魔法を制御する力で減点を上回る加点要素になっているはずだ。

 ルーカスには、試験の基準がどこに定められているかまでは分からない。

 それでも彼女が平均を上回る点数を取っているのではないかと考えている。

 

 もっとも魔法を放った彼女はその結果に満足がいかなかったのか、不満げな表情を浮かべていた。

 試験で行使できる魔法の回数は三回で、彼女は既にその回数を使い切ってしまっている。

 我がままを言って回数を増やすことも出来ないので、彼女は試験官に言われるままに次の試験会場へと向かった。

 中には結果に満足がいかずに怒りをあらわにして試験官に食って掛かる受験者もいるのだが、彼女は常識的な対応をしたといえるだろう。

 

 そんなわけで順番が回ってきたルーカスだったが、定位置に着くまでにどの魔法を使うべきかと悩んでいた。

 この場での試験が魔法の威力と制御を見ていることは分かるので、どの魔法を使うのが適切なのか時間にして数秒悩んでから使うべき魔法を決めた。




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m(__)m

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