(3)筆記テスト

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 中央の学校の受験当日。ルーカスは、一人で受験者の集団に紛れつつ会場へと向かった。

 ガルドボーデン王国を建国した初代国王(伊藤蒼汰)が力を入れていた分野の一つが学校だと言われていて、中央の学校は王国で一番古い学校になる。

 この『中央の学校』が特に固有名詞も無く呼ばれているのは、そもそも初代国王が名前を付けることをしなかったからとされている。

 今では王国内に複数の学校があってそれぞれに名前が付けられているのだが、中央の学校がただ『中央の学校』と呼ばれ続けているのにはそうした背景から来ていた。

 初代国王が何故名前を付けなかったのかは不明で、いくつかの説が考えられている。

 とにかく王国内で一番古い歴史を誇る中央の学校は、中央官僚入りを目指す人々が受験する一番人気の学校となっている。

 ……というのが平民の子供たちの受験生事情で、貴族の子女にになるともう少し事情が変わって来る。

 貴族生まれだからといって自動的に入れるわけではないのだが、平民よりもはるかにハードルが低くなっているのは紛れもない事実だ。

 

 そんな貴族と平民の扱いの違いはともかくとして、星獣(王種)を得たルーカスも受験結果に関わらずの入学が許可されている。

 それでもルーカスが試験会場に来ているのは、試験の点数でクラス分けがされることになっているためだ。

 つまりは試験そのものをサボることは出来るが、いわゆる下級クラスになりたくなくないのであれば試験で高得点を取らなくてはならない。

 もっともそんなルールが無かったとしても、大人として生きた記憶があるルーカスとしては勉強する楽しさを重要性を理解しているために勉強をしてきただろう。

 

 周りに多くの受験生がいるのを見ながらルーカスが『倍率はどれくらいになるのだろうか』と他人事のように考えていられるのは、入学が約束されているからだ。

 その高い倍率を潜り抜けるために猛勉強をしてきた子供たちには申し訳ないという気持ちもあるが、こればかりは王国のシステムとして成り立っていることなので受け入れて対応していくしかない。

 ここで声高々に身分による差別は駄目だと叫ぶのも意味がない。星獣の王種がいてそこから得られる浮遊珠が必須という世界である以上は、何かしらの区別は必要になるためだ。

 元の世界だと『王種を全ての人々に開放すべきだ』と主張する団体なんかも出てきそうではあるが、そんな主張は王種のことを全く考えていない身勝手ない意見だということも今のルーカスは理解している。

 

 そんな与太話を考えながら試験会場に用意された自分の席に座ったルーカスは、時間と共に試験を進めていった。

 試験科目としては四則演算や簡単な法律、歴史など幾つかの分野に分かれている。

 元の世界と違って理系文系などの分かれかたはされおらず、座学と実技を含めた全ての科目の合計点で合否が決まることになる。

 上位を目指すなら全ての科目を網羅しなければならないのだが、合格を目指すなら得意科目だけに絞って勉強するという方法もあるとルーカスは聞いている。

 

 試験のスケジュールとしては初日に座学のテストを終わらせて、残りの数日を使って実技を行う。

 受験者全ての実技を行うとなるとさすがに一日だけでは終わらずに、数日変えて行っていくという形になってる。

 中央の学校は地方から受験に来る者も多いので、そうした地方受験者から実技を終わらせていくのが通例になる。

 もっとも合格発表が試験から一週間後に行われるので、多くの者は故郷に戻らずに宿に泊まったり近隣に用意されたテントサイトのような場所にテントを張って寝泊まりしている。

 

「――よし。初日はこれで終わりだな」


 初日に行われるテスト全てを終えて思わずそう呟いたルーカスだったが、周りの反応も似たり寄ったりだった。

 まさに悲喜こもごもといった感じで知り合いと盛り上がっている様子を見ると、前世でもよく見たことがあるテスト後の反応と全く変わらなかった。

 平民の彼ら彼女らにしてみれば今後の人生にも関わるので、そうなる気持ちはルーカスにもよくわかる。

 もっとも中央の学校は別に一発勝負というわけではなく、再チャレンジすることは出来る仕組みになっている。

 落ちた場合にまた受験をするかどうかは最終的には本人次第ではあるが、中には経済的理由で受けらず今回が終わりと決めている者もいるだろう。

 

 そんな受験生たちの間をすり抜けつつ一人で帰宅するルーカスだったが、別に同年代の友達がいないというわけではない。

 ルーカスの知り合いは基本的にエルモと繋がっている探索者仲間の子供だったりするので、わざわざ中央の学校へ通おうとする子供が少ないだけだ。

 ここで重要なのは『少ない』だけで、決して全くいないというわけではない。

 年上の知り合いの中には見事に合格して学校に通っている子もいるし、年下の中には数年後の受験を目指して勉強を頑張っている子もいる。

 同年代の友達の中には別の学校に入学することを決めている子もいて、たまたま中央の学校の受験をする友人がいなかっただけだ。

 ただしやはり蛙の子は蛙というべきか、親と同じ職業を目指す子供が多いので、以前のルーカスのように学校には行かなくてもいいと考える子も一定数存在している。

 

 ルーカスの筆記テストの結果がどうだったかといえば、感覚的には満足のいく出来だった。

 数学というか算数はさすがに満点に近い点を取っている自信はあるが、やはり歴史や法律などは準備期間が短かったこともあって高得点を取れている自信はない。

 もっとも歴史にしても法律にしてもそこまで常識はずれな問題は出てこなかったので、あとは長文回答などでどこまで得点を伸ばせるかというところだろう。

 あとは他の受験生がどのくらいの結果を残すかによって順位が変わって来るので、気分的には運を天に任せるという気になっている。

 

 そしてルーカスとしては満足のいく結果を得て気分よく帰宅してからしばらく時間が経った王城の中のとある一角では、王国のトップたちが集まって話し合っていた。

「――今日は筆記テストだったが、結果はどうだった?」

「まだ全ての採点が終わったわけではありませんが、公爵令息・令嬢をはじめとして注目されている者たちは順当の結果を出しているようです、国王」

「それは上々であるな。今年は逸材が多いと聞いておるが、しっかりと結果を残したというわけか」

 担当官の答えに満足げに頷く国王だったが、周りに座っている重鎮たちも似たり寄ったりの反応を示していた。

 彼らの中には自身の子供たちが試験を受けている者もいるので、他人事ではなく話を聞いていた。

 

 そんな中かで国王がとある質問をしたことにより、重鎮たちの表情が政の中枢を担うものへと変わった。

「王種を得たルーカスも一般枠でテストを受けているはずだが、結果は出ておるのか?」

「勿論です。一般枠は受験者が多いので探し出すのは苦労いたしましたが、採点自体は終わっております。無論、おかしな介入が入らないように回収して採点を行っております」

「それでよい。余計な忖度など必要ないというのが本人の希望だからな。それで、結果はいかがだったのだ?」

「法や我が国独特の歴史が若干苦手と見ましたが、数学や魔法理論などでカバーしているので、結果として十分に十位以内を目指せる結果になっていると思われます。その順位を維持できるかは、明日以降行われる実技次第で決まると思われます」

「ほうほう。教師たちからの言葉でも予想は出来ていたが、本番でもきちんと結果を残せたか」


 そう言いながら何度か頷いていたリチャード国王に対して、それを見ていた重鎮たちの反応は様々だった。

 それらの表情を観察しながらリチャード国王は、今後彼らがどう動くのかを見極めていた。

 ガルドボーデン王国に現れた星獣の王種を得た少年が王国や彼ら自身にどう影響を与えることになるのか。

 この場にいる国を動かしている人物たちが、それを考えないことはほぼあり得ないことなのである。




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