(2)管理者の扱い

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 リチャード国王、エルアルド殿下と別れて自宅へと戻ったルーカスは、その足で浮遊球へと向かった。

 より正確にいえば、浮遊球への移動は転移陣を使って行われるので好きな場所で魔法を展開して移動することが出来る。

 転移陣による浮遊球への移動は、完全に管理者(マスター含む)の特権になっていて島の上で生きる人々には使うことが出来ない。

 管理者以外の人族が浮遊球へと入るには、許可を得たうえで物理的に入るしかない。

 もっとも浮遊球の中に入れたとしても管理の権限は管理者しか持たないので、ただただ『閲覧(見学)』することしかできない。

 これはマスターとなったルーカスでも変えることが出来ない仕様で、一度でもマスターが設定された浮遊球は別の人物を指定することは出来なくなっている。

 逆にいえば設定されたマスターが亡くなってしまえば、例外を除いてそれ以上の発展をすることは出来ない。

 どうしてそんな仕様になってるのかは藤花たちにも分からないらしく、別世界で生きた記憶を持つ転生者がマスターとなることがこの世界で定められたルールとなる。

 

 ちなみに例外が何かといえば、マスターが存在している浮遊球が別の浮遊球を取り込むことを行った場合だ。

 ただ別の浮遊球を取り込むにしてもその分の浮遊珠エネルギーは必要になるので、早々簡単に出来るわけではない。

 例えばルーカスがガルドボーデン王国の王家をそのまま王種ごと取り込めばエネルギーの維持ができるが、そんな簡単に行くわけがないことは誰が考えても分かることだろう。

 別の浮遊球を取り込むということは、この世界においては戦争で土地を奪い取るのと変わらない行為なので、現状ちっぽけな島しか持たないルーカスの望み通りにすることなど不可能である。

 

「マスター、お帰りなさいませ」

 ルーカスが転移陣がある部屋に着くと、そこには芙蓉がいて優雅に一礼をしてきた。

 このタイミングで戻ることを知らせていたわけではなかったのでタイミングよく芙蓉がいたことに驚いたルーカスだったが、芙蓉は行動が読めない時があるのですぐに納得して軽く右手を上げた。

「ただいま。藤花は今何をしているかな?」

「藤花でしたらコントロールルームで島についての話をしているはずです」

「そうか。それだったらそっちに向かうよ。芙蓉はどうする?」

「ご一緒いたします」

 それが当然だと言わんばかりに言ってきた芙蓉に、ルーカスは軽く頷いて同意した。

 

 小さな島ではあるが中継港の元となる島を得たことで、今では管理者を二人増やしている。

 ただ島の管理は外務の担当になるので、内務担当の芙蓉はそこまで忙しくなかったりする。

 もっとも管理者が浮遊球内で生活していくための物資やその他の用意は全て芙蓉が担当しているので、全く仕事がないというわけではない。

 今後島を大きくしていくか、小島(中継港)を増やしていくかなどの方向性はまだ決めていないが、管理する島が大きくなるか増えるかするたびに管理者が増えていくことになる。

 そうなると芙蓉も忙しくなっていくので、内務担当の管理者が増えていくことになる。

 

 ルーカスと芙蓉がコントロールルームに入ると、そこでは藤花と桃李が何やら話し合っていた。

「「マスター」」

「ああ、ごめん。何か話していたんだろう? 続けていいよ。俺は仕様書見ているから」

「いえ、仕事の話をしていたわけではありません。数分前までは島についての話をしていたのですが、ちょうど終わって雑談をしておりました」

「マスターのツクヨミが浮遊珠を生み出してくれているお陰で、島の開発も順調に進んでいるからな。今のところは全く問題なく稼働している」

 

 ツクヨミは来てからひと月ほどで一つ目の浮遊珠を生み出した(?)のだが、今のところははっきりした原因は分かっていない。

 今のところ分かっているのは、数か月に一個という割合で生み出してくれるということだけだ。


「そう。それは良かった。となると後の問題は、人手くらいになるのか? やはり人族を呼び込むことは必要になるか」

「そうだな。俺たちだけですべてをまかなうのは不可能だから、いずれはそうなるだろう。そうすると問題になるのは、俺たちが前面に出るかどうかというところになる」

「なるほど。そうすると、それに関して丁度いい話を持ってきたことになるかな?」

 桃李の上げた問題点についてルーカスが答えを返すと、三人がどういうことかという視線を返してきた。

 

「以前から藤花に学校で付き人をやってもらうと話していたが、国王の許可が降りた。もしかしたら藤花には面倒な思いをさせることになるかもしれないけれどね」

「いえ。もともとは私から言い出したことです。それに、許可が無かったとしても一緒に行くつもりだったのですよね」

「まあね。ただ向こうもこっちの思惑を利用したいという考えもあるのかな」

「あちらの管理者との話し合いは何度か行われておりますが、やはり今の扱いが変わらないと動けないでしょうから」


 ルーカスが提案していたガルドボーデン王国の浮遊球の管理者たちと王族の話し合いは、今のところ平行線が続いていた。

 いくら王族と個人的に友好関係を結んだとしてもそれが続かなければ意味がない、というのが管理者側の意見なのだ。

 リチャード国王も納得しているのか、今は無理に話を進めようとはせずに定期的な話し合いの場だけを続けようとしている。

 国内での管理者の扱いが『魔族』のままだと無理に話を進めてもすぐに破綻するのは目に見えているので、ルーカスとしてもリチャード国王の対応は当然だという認識でいる。

 

「――向こうの思惑はともかくとして、こっちとしては必要なことだからな」

「そうだな。人族を使うにしろ、アンドロイドを使うにしろ、管理は絶対に必要になるからな」

「そういうこと。というわけで、藤花には苦労を掛けることになる」

「構いません。そもそもマスターからお話が無ければ、私から提案しようと考えておりましたから。マスターをお一人にするわけにはいきません」


 ルーカスの安全を考えれば藤花の主張は当たり前のことで、桃李も芙蓉も反対することはない。

 問題があるとすれば、管理者が傍にいることで余計なトラブルが起こる可能性があることだった。

 今回国王のお墨付きを得たことでトラブルが起こったとしても、藤花側に否がなければきちんと『処理』が行われると宣言されたことになる。

 もっとも国王の了承を得ているといっても己が持っている常識や感覚だけで突っかかって来る人種もいるはずなので、絶対に安全というわけではない。

 

「出来ることなら管理者が言い伝えられているような、むやみやたらに襲い掛かって来るような存在ではないと分かってくれればいいんだけれどなあ……」

「魔族という認識が人々に根付いている以上は中々難しいでしょう。だからこそ学校と中継港の両方からアプローチをするわけですね」

「芙蓉の言う通り。……なんだけれど、そうそううまく行くかどうかはわからないな」

「根付いた認識を変えるのはどうしても時間がかかるものです。気長にやっていくしかないでしょう」

「そうだな。――藤花には一応言っておくが、無理に自分を抑え込む必要はないからな。管理者に対して何をしても怒ったりしないと勘違いされたらたまったもんじゃない」

「よろしいのですか? 場合によっては『力』を使うことになりかねませんが」

「構わないさ。やられたらやり返すくらいのことはしないと、必ずお馬鹿さんが出て来る。むしろそこは人族と変わらないと認識してもらわないと」

 

 藤花がルーカスの護衛として表立って動くことによって、学校で何が起こるかを完璧に予測することは難しい。

 それでもルーカスにとっては利になる方が大きいと判断したからこそ、むしろ藤花には自由に動いて欲しいと考えている。

 人族の中で暮らしていく以上はのルールに沿って動いてもらう必要はあるのだが、そこは藤花の匙加減次第で構わないというのがルーカスの想いだった。




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