(20)浮遊球と浮遊珠

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 リチャード国王からルーカスにされた提案は、素直に受けることに決まった。

 王花褒章を持つということは国王が後ろ盾にあることを証明することに変わりはなく、さらに妙な勧誘も少なくなることが予想できる。

 現時点では両者にとって最善といえる状況になるだけに、断る理由がないとともいえる。

 何よりも現時点でリチャード国王が他国との関係性を気にして動いているということも大きい。

 ルーカスが浮遊球を使って島を持てば、必ず他国が接触してくることは間違いない。

 しかも中継港を作ろうとしていることが、他国との関係を意識せざるを得なくなるのは当然の結果だといえる。

 中継地点に出来る島が本国から離れた場所にあるということは、探索者を含めた新たな資源を求めて周辺探索できる範囲が広がることに繋がる。

 探索範囲がこれまで以上に広がればそれだけ有用な資源を見つけることが出来ることになるわけで、広い土地を運用している国々にとってルーカスがやろうとしていることは見過ごすことができないことになる。

 逆にいえば、だからこそ中心にいるルーカスをどうにかしようと強引な手段に訴える国や勢力が出てこないとも限らない。

 結果として王花褒章を受け取ることが、ルーカスにとっては身を守るうえで重要な役目を果たすことになるわけだ。

 

 国王関連の話はこれで一旦落ち着いたので、ルーカス本人はようやく出来た空き時間を使って浮遊球へと向かった。

 この浮遊球もすべてを指している名前なので、ルーカスが得た浮遊球は識別するための名前が必要だと藤花から言われている。

 その話を聞いて思わずここ最近名前を付けてばかりいるなと考えてしまったルーカスは悪くないだろう。

 ツクヨミと藤花のことに加えて、浮遊球に新たに加わった二名の管理者の名前も付けたばかりだったのだ。

 芙蓉と桃李と名付けた管理者二人は、それぞれ浮遊球の内務と外務を担当することになっている。

 

 そんなわけで浮遊球の名付けを後回しにしたルーカスは、三人の管理者と今後についての話をしていた。

「――とりあえず前にも話した通り、適当な大きさの島を見つけることが初めの仕事かな」

「それは俺の仕事だな。島を探すために浮遊球も動かしていいんだな? 相応のエネルギーを使うことになるが」

「まずは島がないと何もできないから仕方ないな。エネルギーは……ツクヨミに期待するしかないか」

 ルーカスの言葉に他三名の視線がツクヨミに集まったが、当の本人は「キュピ?」と体全体を斜めに倒していた。

 恐らく言われていることは分かっているのだろうが、ツクヨミ本人もどうすれば浮遊珠を生み出せばいいのか分からないといったところだろう。

 

 ツクヨミのことに関しては、いずれ時が解決するだろうとルーカス自身は特に気にしていない。

 問題は浮遊球のエネルギーだが、実はこちらも今すぐにどうこうなることもないと考えている。

 今の浮遊球は、ただその場に浮いているだけだとエネルギーを消費することがない。

 より正確にいえば、使用したエネルギーを完全に回収して浮遊球内で再利用することが出来るのだ。

 

 初めてその事実を知ったルーカスは一体どんな永久機関かと驚いたが、実際に目の前に存在している以上は否定しても仕方ない。

 有難くその性質を利用することにして、今あるエネルギーはできる限り消費しないことを決めていた。

 極端なことをいえば、移動さえしなければ永久に存在し続けることが出来るので、新たなエネルギーを得るまでは動かなければいい。

 とはいえ今のままだと中継港を得るという目的が果たせないので、先の会話に繋がることになる。

 

「出来れば王種のことについても情報があれば良かったんだが、残念ながら端末には情報が無かったからなあ……」

「浮遊球にあるのはあくまでもそれに関する情報だけですので、王種のことに関してはマスターご自身で見つけていただく以外にはありません」

「ああ。ごめん、ツクヨミ。別に君たちを責めたわけじゃないから。王種と浮遊球は別個の扱いと分かっただけでも良しとしよう」

「マスター。それはよろしいですが、やはりエネルギーの消失は長期的に見ればやはり問題ではあります」

「芙蓉、確かにそれはそうだけれどね。無い以上はどうしようもない。今はあるものを使ってやりくりするしかないな」

「確かに今蓄えられているエネルギーにはある程度の余裕があるのでいいのですが、いずれはその余裕が無くなることも忘れないでくださいね」


 そう優しく語りかけて来る芙蓉は、どこか『お姉さんキャラ』のようだとルーカスは勝手に考えている。

 今こそ厳しめのことを言っているが、普段はおっとりとしていて常に微笑みを絶やしていない。

 対する桃李は筋肉質な体つきで、初対面だといつでも剣を振り回していそうなイメージがある。

 実際には文武両道どころか頭脳派だと藤花から教えてもらった時には、ルーカスは『人は見かけによらない』という言葉を真っ先に思い浮かべていた。

 

「そうなんだよなあ。やっぱりエネルギー問題は早急に考えないと……ああ、だからツクヨミは落ち込まないで。他に方法がないわけじゃないからな」

「その通りですよ。何もツクヨミ様が生み出す浮遊珠だけがエネルギー源ではありません。効率は悪いですが、浮遊しているものから得ることもできるのですから。今は中継港を得るために土地が必要なだけですよ」


 そう藤花のフォローが入ったが、間違ったことを言っているわけではない。

 浮遊球のエネルギーは、何も王種が生み出す浮遊珠だけではなく世界を漂っている島々から得ることは可能である。

 効率を考えればやはり浮遊珠が一番なので、ツクヨミが期待されているだけだ。

 そもそもツクヨミが浮遊珠を生み出してから動き出せばいいのを、今すぐに動こうとしているのは完全にルーカスの都合でしかない。

 

 ただルーカスとしても、何の打算も無く動こうとしているわけではない。

 それは別にツクヨミのことを期待して待つわけではなく、別の手段を使って今回のことを乗り切るつもりでいた。

「――目標の島を見つける前に、幾つか小さめの島を見つけるつもりでいる。端末で確認したが、一応浮遊珠の代わりになるんだろう?」

「そりゃ、なるが。あくまで代わりでしかないし、やはり浮遊珠には劣るぞ。それにそんな簡単に島が見つけられるのか?」

「絶対にとは約束できないが、小岩程度のものだったら幾つかは見つけられるだろうさ。――というわけで、早速行ってみようか」

「早速って、おい? 今からか!?」

「そうだよ。何のために時間をやりくりしてきたと思っているんだ」

 それなりに忙しい時間を過ごしているルーカスがこの日丸一日を用意してきたのは、浮遊球を使って中継港として使える島を見つけるためだ。

 もし船に乗って探せば一週間単位でかかる島探しだが、端末で浮遊球の情報を調べた結果、一日あればどうにかできると考えてのことだった。

 

 すっかりやる気になっているルーカスに対して、桃李が胡乱気な視線を向けて来た。

 そんな桃李に対して、ルーカスが言葉にするよりも早く藤花が口を開いていた。

「桃李。マスターが行くと仰っているのです。我々が拒否する理由などありませんよ」

「それは、そうだが……ああ~。仕方ねえか。マスターのその自信に期待するとしよう」

 そう答えながら桃李がガリガリと頭を掻き始めて、芙蓉は優しく微笑んでいた。

 その二人を見て藤花が満足するように頷いてからルーカスを見て来た。

 

 そのやり取りを見て一応管理者たちの納得が得られたと判断したルーカスは、改めて浮遊球を動かすように指示を出した。




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m(__)m

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