(19)エルモの目論見

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 リチャード国王から王花褒章に関しての話をされたところで、この日の話し合いは終わった。

 どの話もまだ具体的に進行していくものではないが、一番先に決まるのは王花褒章に関してのことだろうとルーカスは考えていた。

「――というわけで褒章は受けようと思うんだけれど、何か問題でもあるか?」

「いや。お前が受けると言うのであれば問題は無いだろう。名ばかりが先行している褒章だが、あくまでも個人間での関係を強調する褒章だそうだからな。陛下も色々と考えるな」

「ああ。養子のこと?」

「あれは驚いた。まさかそこまで考えているとはな。こう言ってはなんだが、身元もはっきりしないものを養子にした前例などないんじゃないか?」

「これを言ったら怒られるだろうけれど、そういう意味だと初代陛下も同じだと思う」

 もし周りで話を聞いていた他人がいたら目を剥いて驚かれそうなことを口にしたルーカスに、エルモは「お前な」と言いつつ呆れたような視線を向けて来た。

 

 ガルドボーデン王国のリーチ初代国王がいわゆる孤児だったことは、この国では有名な話だ。

 リーチ国王がガルドボーデン王国を建国する前から知られていた事実であったそうで、そのことも含めて国民は初代国王として受け入れたことになる。

 もっとも建国時には浮遊珠を生み出す王種を複数育成することに成功していたので、反対する勢力も無かったのだが。

 そのこともあって、孤児の扱いが他国と比べて比較的寛容になっているのはいいことなのだとルーカスは考えている。

 

「初代陛下はお立場が違うだろうが。……いや、まさかお前も同じなのか?」

 ちらりとツクヨミを見てからジトリとした視線を向けて来たエルモに、ルーカスはわざとらしく視線を外した。

「いや、まあ、うん。そもそもどうやれば王種の数を増やせるかなんてわかっていない時点で無理だな」

「……そうか。そういうことにしておいてやろう。もし目途がつくのであればきちんと教えてくれ。儲け話に乗らない手はないからな」

「そこは親として無償で手を貸すと言うべきだろうに」

「何を言っているんだ。儲けにならない話になんか乗ったら揃って共倒れになるだろうが」


 いつものごとくこの親子らしい会話を繰り広げられたあとは、少しだけ間が空いた。

 とはいえ誰もいない今がある程度の話をしておくべきことは理解しているので、ルーカスが少しだけ真面目な顔になって話を続けた。

 

「今はまだ詳しいことは言えない……というか俺もまだ出来るか分かっていないんだけれど、もしかしたら中継港になりえる島を作れるかもしれない」

「なんとまあ、中継港か。前にもあれば便利だと話したことがあったな。本当に出来るのであれば、お前に鞍替えするのもありだな」

「鞍替えって、それは出来たとしてもまだまだ先の話だからな。それよりも親父が貸し船ではなく自前の船を持っていることは大きいからな」

「案外、それを見越して俺のところに来たんじゃないか? それもこれも神の思し召しだろうさ」


 信じているのかいないのか、よくわからない顔で冗談を言うエルモにルーカスは苦笑を返した。

 ルーカスやエルモが就いている探索者には幾つかの種類があって、大別すると国からの貸し船で働いているものと完全に自前の船で動いている者がいる。

 船自体がべらぼうな値段がするのでおいそれと自前の船を持つことは出来ないのだが、エルモは先々代である祖父のお陰で自前の船を持っていた。

 その祖父については色々と込み入ったあるのだが、それはまた別の話だ。

 

 とにかく国や商人などの影響を受けずに自分の意思だけで活用できる船を持っていることは、ルーカスにとってもかなりの好条件になる。

 極端なことを言ってしまえば、今すぐにでも小さな島を用意してそこを拠点とする自前の勢力とすることさえできる。

 さすがにまだまだ準備が足りな過ぎるので、それをするのはもっと後のことになる。

 それにエルモがルーカスの勢力に組み込まれることを良しとするかはまだ分からないので、あくまでも一つの方針としてしか考えていない。

 

「神様ねえ。是非とも会って聞いてみたいところだ。何故俺だったんだとね」

「それは皆が思っていることだな。今更そんなことで動かれるとは思わない方がいい。ただお前の場合は、実際に会うこともあり得るんじゃないか?」

 神殿での儀式があるためか、この世界では神様の実在は疑いようもない事実として受け入れられている。

 しかもかつて神々に会ったという話も各所に残っているくらいなので、真偽の議論をすること自体があり得ないこととされている。

「俺がねえ……。興味がないといえば嘘になるが、積極的に会いたいとは思わないかな。少なくとも今のところは」

「おや。意見が変わったな? 前はいるなら会いたいと言っていただろう?」

「だから『今のところは』と言っただろ? とにかく忙しすぎなのと厄介事を抱えすぎて、今は神様どころじゃない」

「それはそれで不敬すぎる気もするがなあ……。お前さんらしいといえばそうなのか」

 子が子なら親も親というべきか、エルモの感想も大概なものだったがそれに突っ込みを入れる者はこの場にはいなかった。

 

「神様云々はいいとして、今のところ親父に言えることはそれくらいかな。というか俺自身もそれしか思いついていないな」

「そうか。お前がそう言うならそうなんだろうな。それほどに厄介なことなのか?」

「厄介というか、逆にやれることが多すぎてどれから手を付けるべきかという感じかな。中継港も思い付きの一つでしかないから、もし失敗しそうなら次の手を考える」

「なるほどな。それにしても中継港か。やはり最初はあまり大きくならないのか?」

「多分だけれど、そうなるかな。正直どの程度の大きさの島を持てるかも分かっていない。最低でも二、三隻は常駐できるくらいの港は欲しいよな」

「そうなると臨時で入れる船は三隻ほどになるか? あまり手を広げすぎて失敗するなよ」

「分かっているよ。出来ることなら護衛艦の一隻でも欲しいところなんだが……」

「俺の船にそれを期待するな。そもそもの役目が違うだろうが」

「やっぱりそうなるよな。島に目途がついたら兄さんか姉さんにでも頼んでみるか」


 あっさりと頼みの綱に断られてしまったルーカスだったが、さほど落ち込むことはなかった。

 エルモが指揮をしている船は、時に護衛もすることがあるが基本的には活動拠点から離れた場所を漂う資源を見つけるためのものになる。

 まさしく探索者サーチャーの名前通りの活動になるが、船での戦いがある以上は護衛という仕事が舞い込んでくることもあるわけだ。

 探索者の中にはそうした護衛を専門にしている者たちもいるわけで、ルーカスにも幾人か知り合いがいる。

 

 ルーカスが口にした『兄さん』や『姉さん』は、かつてエルモの下で修業をして一人立ちしていった者たちのことだ。

 彼らもまた一人前の船乗りとして活躍してるが、中にはエルモのような探索中心ではなく戦闘や護衛を中心にしている者もいる。

 そうした者たちであれば、きちんと支払いをすれば喜んで手伝ってくれるはずだ。

 一応彼らの本拠地はガルドボーデン王国なので王国自体を相手にした場合にどうなるかは分からないが、リチャード国王との関係を考えても今のところは対立することはないはずだ。

 とはいえ状況と立場によって状況が変わり続けるのが政治なので、いつまでも同じ関係でいられるわけではない。

 

 ――そうなったときにどう動くべきか。

 それを考えるのが、浮遊球を得たルーカスの負うべき責任ということなのだろう。




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