(18)保護者込みでの話し合い

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 大まかに浮遊球の管理者のことと浮遊球そのものについての話を終えたところで、部屋から出していたエルモや護衛たちを呼び戻した。

 ここから先はエルモも必要になる話で、主にリチャード国王がしておきたかったことである。

「――出たり入ったりと済まないな、エルモ」

「いえ。元々は息子が言い出したことですから。必要なことは話し終えたということでよろしいでしょうか」

「そうだな。今後も話し合いの場は必要だろうが、今回のように二人きりということは……場合によってはあり得るか」

「そうですか。それで、私への話というのは何でしょうか」

「エルモへの話というか、ルーカスも含めて二人への話ということになる」

 ここで一度話を区切った国王だったが、ルーカスやエルモからの反応が無かったことでさらに話を続けた。

 

「当初の予定では、二人の許可を貰えればルーカスを余の養子にと考えていた」

「陛下、それは……」

 突然すぎる言葉に、エルモは言葉を詰まらせた。

 国王がルーカスの後ろ盾になるという話は聞いていたが、まさか養子にするというところまで考えていたとは思ってもいなかったからだ。

 

 当然だが、国王が養子を迎えたからといっても王位継承権は一切発生しない。

 そんなことを認めてしまえば、力のある貴族が無理やりに自身の血縁がある者を無理やりに押し込むことが出来てしまうからだ。

 それにこの世界において重要な存在になる王種は王族の血縁にしかなつかないという問題があるので、無理やりに養子を据えて継承権を与えるという手段は取ることはできない。

 余談ではあるが、貴族家は血縁そのものではなく『家』自体を残すことを重視しているので養子による継承は子供が出来なかった場合などでは普通に行われている。

 

 継承権を与えられないとはいえ、国王の養子という立場が与える影響はかなりのものだとルーカスやエルモにも想像することができる。

「早まるでない。あくまでも予定としてそう考えていただけのことだ。それに、先ほどルーカスから話を聞いてそれでは駄目だと思い直した」

「それは、どういうことでしょう?」

 ルーカスと国王で話した内容を知らないエルモは、少しばかり警戒するような顔になってそう問い返した。

「はっきり申せば、ルーカスの得たものが大きすぎて我が国一国で抱えるには問題があり過ぎる。主に他国から我が国が責められるという点でな。まだ先々の話だが、恐らく同盟を結ぶことになるであろう」

「同盟……まさか、ルーカスを一国の王として認めると?」

「おかしな話ではあるまい。ルーカスは既に王種を得ているのだ。それを考えれば、我が国と同じようにある程度自在に移動が可能な新たな土地を得ることもあり得るであろう。そこらの海賊どもとは違うからの」

 リチャード国王の話に、エルモだけではなく周囲にいる側近たちも驚いている。

 彼らにしてみれば王種の一体だけを手に入れた子供という認識しかないために、ここまでのことを国王が考えていたという認識が全くなかったのだ。

 

 ちなみにこの世界にも海賊は存在している。

 彼らだけが知る浮遊している島を拠点として海賊行為をしているのだが、どこへと進むかも分からない島で暮らす生活ということ自体が自殺行為ともいえる。

 ただ浮遊球の存在を知ったルーカスにして見ると、中には自分と同じように浮遊球を得た者が海賊行為をしている可能性も考えている。

 そうして海賊行為を繰り返して徐々に規模を大きくしていけば、いつかは国として関係各国に認められるようになるという算段だ。

 

 ルーカス個人としては、海賊行為をしていくことは最初から切り捨てている。

 拠点となる島が大きくなるまでの犠牲が多くなる過ぎる上に、博打行為に近いのはいただけない。

 何よりも自身に対して協力的な国王が傍にいるので、わざわざそんな手段を取ることもない。

 ルーカスが真っ先に考えたのは、どうすればガルドボーデン王国に対して利益を与えながら自らを大きくすることが出来るかということだった。

 

 そんなルーカスの考えが、リチャード国王の予定を大きく変えたのはいうまでもない。

 とはいえ先ほど話した内容はまだまだ外には漏らせないので、リチャード国王は今のところ表に出せる情報だけを出して説明をしていた。

「――養子として迎えることは出来ぬ。だが今のまま何もせずにいるのも色々な意味で危険すぎる。そうした理由を鑑みて、ルーカスには王花褒章を与えることを軸に考えるつもりだ。二人はそれを受けるかどうか、決めて欲しい」

「王花褒章ですか。それはまた」

 養子とはまた別の意味で騒ぎになりそうな国王からの提案に、思わずルーカスが口を出してしまった。

 エルモは養子以上の衝撃を受けたのか、驚いた顔のまま黙り込んでいる。

 

 王花褒章とは、簡単にいえばそれぞれの代の国王と個人的に繋がりを持っている場合に与えられる褒章になる。

 問題なのはその褒章を与えられること自体が稀で、他の褒章とは段違いに価値があるように見られていることだ。

 考え方によっては養子にする以上に個人的な繋がりと認められる褒章だけに、歴代の王たちもおいそれと与えることはしてこなかった。

 中には誰にも与えなかった王もいたくらいなので、珍しいという意味でどれほど価値が高いかがわかるだろう。

 あくまでも国王との個人的な繋がりを示すための褒章なので権威的な価値はないはずなのだが、周囲はそうと見ることがないという意味でも珍しい褒章となる。

 

「――そなたは本当に驚きだな。まだ子供であろうに、王花褒章のことまで知っているとは」

「陛下、私は船乗りですよ。名誉を求める乗組員もおりますので、褒章の類はよく話に出てきます」

「なるほど。確かに、かつては探索者の中で王花褒章を得た者もいたか」

 ルーカスの知識の源を知って、リチャード国王は納得したように頷いていた。

 当然ながら王花褒章なんて存在は前世の記憶にはないので、完全にルーカスが今まで生きて来た中で仕入れた知識になる。

 探索者や冒険者は学がないと思われがちではあるが、中にはルーカスがこれから通うことになっている中央の学校を卒業した者もいたりするので脳筋だけが集まっているというわけではない。

 

「ルーカスの知識は置いておくとして、王花褒章を得るかどうかはこれから二人で話し合って決めるとよい。そなたの後ろ盾になりたがっている者は余だけではないであろうしな」

「選択権は私にあると考えてよろしいのですか?」

「そうだな。そなたが選ぶ道もあるであろう。その中で、より良い選択をすればよい。そのほうが我が国の国益にも適うであろうからな」

 完全に先ほど話した中継港のことを意識しているリチャード国王の発言だったが、ルーカスも素知らぬフリをして頷いていた。

 

「それとは別に来年から通うことになるであろう学校のこともあるが……通うのであろう?」

「一応そのつもりです。ただ私は今現在町の学校には通っていないので、中央の学校でやっていけるかはわかりません」

「そなたなら大丈夫であろう。駄目だったとしても学力も勿論重要ではあるが、そなたが学校へ通う目的は他にもあろうであろうしな」


 ルーカスが通うことになる学校は、前世の記憶である小学校高学年あたりからの知識からスタートとなる。

 その学校に入るためには、読み書きや四則演算をはじめとした基礎的な知識があることが前提となっている。

 貴族であれば家庭教師がつくことが当たり前になっているので問題はないが、平民や家庭教師を雇うことが出来ない貧乏貴族などはそれぞれの町にあるいわゆる寺子屋のようなところで基礎知識を学ぶぶことになっている。

 ルーカス自身はその前提条件を省いた状態で試験を受けることになるわけだからこそ多少焦っているのだが、何故かリチャード国王はあっさりと「大丈夫」だと断言していた。




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