(17)大まかな方向性
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人によっては禁忌の存在と口にする者さえいるだけに、藤花たち管理者の扱いについての話は続いていた。
「――とにかく管理者たちについて余が口を挟むことはない。どうするかはそなたが決めるがよかろう」
「それはいいのですが、もともとこの国にいる管理者たちについてはどうされるのですか? 少なくとも今の扱いが変わらない以上は、表に出て来ることはないと思われますが?」
「なんと。そう言うということは、会うことができたのか。……難しいところだな。余としては出来る限り交流は再開したいところだが……難しいであろうな」
「やはりそうなりますか。彼ら彼女らがいないとこれ以上の土地の拡張は難しいでしょうに」
「それも既に知っておったか。それに簡単には浮遊球の存在を明かせない以上、管理者の立場を持ち上げ続けるのは難しいからな。今は良くとも次代以降で戻ってしまっては意味が無かろう。それに人は自らを上に置きたがる生き物であろう?」
「それでは、確約は出来ませんが陛下と個人的な繋がりを作るというのはどうでしょうか。それであれば代が変わって元の関係に戻ったとしても大きな問題は出ないのでは?」
ルーカスが昨夜のうちに考えていたことを話すと、リチャード国王は「むっ」と唸って考え込むような表情になった。
管理者との繋がりは喉から手が出るほどに欲しいのだろうが、貴族たちも含めて周りがどう動くのかが分からな過ぎて迂闊に答えを出すことが出来ない。
国王という立場上、秘密裏に動くこともそう簡単に出来ることではない。
国王の悩む姿を見て、ルーカスは少し早まり過ぎたかと反省した。
「そもそもこの国を維持している管理者たちの話もあまり詳しくは聞いておりませんので、今すぐに結論は出さなくてもよろしいでしょう」
「そうか。余もどうするべきか考えておく。そなたが言うように、一度どこかで秘密裏に直接会って話したいとは思うが……それも含めて話を聞いてもらえるか?」
「それは恐らく大丈夫でしょう。管理者同士で連絡を取る手段はあるようなので、一度打診してみます。ここの土地がある限り浮遊球は必ず存在しているでしょうから、取れる手段はあるとは思います」
「言われてみれば確かにそうだな。……いかんな。これまでは手に届く存在ではないことが当たり前であったのに、手が届きそうだと分かると欲が出てきそうだ」
「今の管理者がどう考えるかはわかりませんが、相容れないところまで行けばこれまで通りに戻るだけではないでしょうか」
「そう上手く行けばいいのだがな。とにかく今は話し合いの場を作ることが優先であろうな」
浮遊球の今後の運営をどうするかにいきなり踏み込むのではなく、まずは会って話す場を設ける。
それが一番の目的だとリチャード国王が決めたので、ルーカスもまたそれを主軸にして話してみることになった。
そもそもルーカスからすれば話し合いの場を作るだけでも十分で、王国を作っている浮遊球のことにまで口を挟むつもりはない。
ルーカスとしては、まず今代の管理者たちがどう考えるかも分からない状態なのでそこから話を聞いてみるつもりでいる。
話し合いすら拒否するようであればそれはそれで構わないと国王からも確約を貰うことは出来たので、ルーカスとしても多少は気楽に繋ぎを取る事ができる。
管理者のことについてはまず会って話してみないことには決められないという結論になったことで、次は浮遊球そのものについての話題に移った。
「こちらの管理者との関係は良いとして、そなたは浮遊球をどう扱うつもりなのだ? 別に答えなくともよいが、今後のことを考えると聞いておいたほうが良いであろう?」
「私もいきなり浮遊球に引きこもるつもりはないので、お話しますよ。ただしまだまだ勉強不足なので、漠然とした考えしか持っていません」
「それはそうであろう。昨日今日で、この先のこと全てを決めているとは余も考えおらぬ」
戦争という非常事態は除けば物事一つを決めるのにも多大な労力と時間がかかる国家の運営のトップにいるだけに、リチャード国王の言葉には実感が伴っていた。
「まずは大前提として、国家どころか領主レベルの土地をいきなり持つことは難しいです」
「む。まずはそこからか」
ガルドボーデン王国の広さは大体四国くらいの大きさで、それが分割されることなく一続きになっている。
それだけの広さを管理している王国だけに、領主レベルとなるとそこそこの広さの土地を管理していることになる。
「はい。陛下であればお分かりになるでしょうが、それだけの土地を維持するための浮遊珠を得るために王種を増やして行かなければなりません。さらにその王種を維持するための土地が必要になります」
「まるで鶏が先か卵が先かの話のようだな。初めから王種と土地がいた余とは前提がまるで違う」
「そうですね。近年新しい国家が誕生している形跡がないのは、隠れて力を蓄えているのか、そうなる前に潰されている可能性があるのではないでしょうか」
「余もその辺りの話は聞いたことは無いが、確かに表に出る前に潰されている可能性はあるな」
浮遊球を得ているルーカスと一国の国王としてはかなり際どい会話をしているが、二人はお互いに潰しあうことを考えていないことが分かっているので遠慮なく話をしている。
現状の力関係を見れば、一方的にルーカスが負かされる可能性が高い。
ただリチャード国王にも言ったように、ルーカスにもとれる手段はある。
それが『隠れる』と表現したことで、光学迷彩なりを使って見えないようにしたうえで実力行使が難しい遠方へ逃げてしまえばいい。
今のところルーカスはその手段を取るつもりはないが、一つの手段として方法があることをリチャード国王に知ってもらえればそれでいい。
リチャード国王もその辺りは察しているのか、ルーカスが「隠れる」と言ったことを敢えて無視して話を続けていた。
「そういう事情がありますので、私としてはあまり大々的に動くつもりはありません。ですが、一つの案として考えていることはあります」
「ほう。それは聞いてもよいのだな?」
「勿論です。むしろガルドボーデン王国の協力があってこその話になりますから。それに、一方的にこちらを庇護して欲しいという話ではなく、お互いに利があると考えております」
お互いに利になるとルーカスが言うと、リチャード国王も王としての顔になっていた。
「良かろう。まずは話を聞いてみよう」
「そんなに難しい話ではありませんよ。まずは小さな島を用意して、中継港として利用しませんかという話です。王国としてはより遠くに行けるようになって利も大きくなるのではないかと考えております」
「……なるほど。一端の
この世界では周辺地域から多くの資源を得ることは、国家を維持するという観点から見ても非常に重要な役目になる。
資源を多く得られればそれだけ多くの人口を抱えることができるので、それがそのまま国力に繋がるといっても過言ではない。
ただこの案はガルドボーデン王国の利になるだけではなく、諸刃の剣になる可能性も秘めている。
何しろルーカスの気分次第で中継島の存在をなくすと言ってしまえば、それを当て込んで得ていた資源を得られなくなるのだから。
リチャードも当然のようにその可能性について思いついてはいるが、それでも王国が得ることが出来る利益は莫大なものとなるので話を進めたいと言ってきた。
とはいえ今はまだ思い付きだけでしかないので、今の浮遊球の能力でどこまでの島を持てるのかなど詳細に詰めなければならないことは山ほどある。
ルーカスがそのことを口にすると、リチャード国王も今すぐに決められる話ではないと理解したのか、それ以上話を進めることはなかった。
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