(16)再びの国王

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 ルーカスが浮遊球を得た翌日の午前中のこと。

 この日は国王に呼ばれて城に向かうことになっているわけだが、自宅前にしっかりと迎えが来ていた。

 初代からの贈り物を渡し終えたからなのか、前日と違って迎えの馬車は普段王族が使用する紋章入りのものになっている。

 この紋章入りの馬車は王族が使用するだけではなく、王族の客人を迎えるためにも使われている。

 国王が使う馬車はまた別に用意されているので価値としては一段下がるが、その馬車は国王だけしか利用が出来ないので迎えに来た馬車は国王以外が乗れるものとしては一番価値が高いものとなる。

 この馬車を見たルーカスとエルモは、リチャード国王が本気で自分を迎え入れるつもりだと察していた。

 そうでなければわざわざこの馬車を用意するはずもないだろうし、何よりも周囲にルーカスのことを喧伝するために使っていることがわかる。

 これで国内では逃げ隠れすることはほぼ不可能になってしまったルーカスだったが、そもそも王種ツクヨミを連れて歩くことになる以上、遅かれ早かれなのでむしろ有難く利用させてもらうことにした。

 

 ご近所さんが集まる中、馬車に乗り込んで出発した。

 二人の自宅がある旧市街から王城まで距離的にかなり離れているので、時間はたっぷりある。

 前回馬車に乗った時とは違って国王がいるわけではないので、変に気を使う必要もない。

 といっても道中で話した内容はルーカスの周りをフワフワと漂っているツクヨミのことで、他に知られても当たり障りがないことだった。

 

「――それにしてもツクヨミが何でも食べてくれれるのは助かったな」

「主に肉食みたいだけれど、野菜類も全く食べないわけじゃないみたいだな。肉食寄りの雑食かな?」

「どうだろうな。好みの味とか趣味嗜好はありそうなのか?」

「あると思う。さすがにまだ時間が短すぎて把握し切れていないけれどね。食費が抑えられるのは本当に助かる」

「本当だな。だが、お前が出すってことでいいのか?」

「それが役目だからな」

 

 ツクヨミの食費に関しては、ルーカスのお小遣いから出すことで決まっていた。

 そもそもルーカスは船乗りとして一定以上の役割を果たしていてそれなり以上の金額を貰っているので、ツクヨミの食費を出すくらいは問題ない。

 それでも時折小遣いアップのおねだりをするのは、社長に給与アップの交渉をするのと変わらない。

 事情を知らない大人が見れば微笑ましい親子の会話にしか見えないのだが、金額の桁が違うことを知ればまた違った見え方になるだろう。

 

 そんなエルモ家の懐事情は横に置いておいて、二人がそんな会話をしている間に馬車は目的地である王城についていた。

 王城に着くとすぐに出迎えの執事さんらしき人物が待っていて、すぐに二人を中へと案内し始めた。

 探索者であるエルモとその子供であるルーカスがいるには場違いこの上ない場所なのだが、執事の態度はごく真っ当なものだった。

 国王に付いている執事ともなれば身分が貴族であってもおかしくはないのだが、そんな雰囲気は全く感じさせない。

 もっとも王家にはそれこそ初代の頃から執事として仕えて来た一族もいるはずなので、二人を案内している彼が元貴族かどうかまでは分からない。

 

 そんな彼に案内されて着いた部屋は、城で働いている国家の重役たちに会う前に通される予備室的な部屋……のはずだった。

 エルモもルーカスがツクヨミを得る前に登城する機会が何度かあったので、この部屋のことを知っていた。

 それなのにいきなり国王が登場したので、エルモが揃って驚く羽目になったのは当然だといえる。

 

「何だ、エルモ。そなたでもそのような顔をするのだな」

「……はっ。も、申し訳ございません」

「謝る必要などない。それにしてもルーカスは驚かなかったな」

「私にはそもそもこの部屋に意味もあまり分かっていないので仕方ないと思われます」

「……言われてみればその通りだったな。次からはもう少し考えて行動するとしよう」


 ニンマリとした笑顔で言われると、リチャード国王が狙ってやったことだということがはっきりとわかった。

 勿論、二人を驚かす以外に今いる部屋を使っている理由があることは分かるのだが、一番の目的は驚かすことだったと言われても納得できるくらいの顔だった。

 以外なのか元々そういう人物だったのかはルーカスには分からないが、少なくとも今の国王がお茶目な一面を見せることは分かった。

 

「それはいいのですが、わざわざ私たちに悪戯を仕掛けるために呼んだのでしょうか」

「ルーカスも余に対して中々言うようになってきたな。それはまあいいとして、そんなわけが無かろう。まずは昨日あの後で何があったのかを聞くためだ」

「それについてはきちんと話すつもりがあるのですが、今この場で話をしてもいいのか判断がつきません」

「それはどういう……なるほど。そういうことか」


 ルーカスがちらりと護衛やメイドさんたちに視線を向けると、リチャード国王は納得した表情になって彼らを下がらせた。

 特に護衛たちは最後まで渋る様子を見せていたが、そこは国王という立場を使って部屋の外に追い出していた。

 それにルーカスがエルモにも外で待っているように言ったことも、護衛たちが最終的に部屋を出て行った理由の一つになっているはずだ。

 一般的に見ればルーカスはまだまだ子供なので、国王と二人きりになっても命の危険はないと判断したのだろう。

 その子供であるはずのルーカスが魔法の使い手だと知っていれば、また違った対応をしていたかもしれない。

 そのことを事前調査で知っているはずの国王が敢えて言わなかったことから、護衛たちにはルーカスが魔法が使えたとしてもちょっと使える程度と考えたのは仕方のないことだった。

 

「――それで周りを排除してまで言うべきこととは何だ?」

「浮遊球について……と、この国では魔族と呼ばれている存在についてといえばお分かりになりますか?」

 その言葉に国王が何ともいえない顔になったあとで大きくため息を吐いたことで、ルーカスは事前に護衛たちの退出を求めたことが正解だったことを理解した。

「そうか。あの部屋の奥にあったのは浮遊球だったか。それに魔族とな。いや、彼らを魔族と呼ぶのは間違っているのだがな」

「何故王国では魔族と呼ばれるようになったのでしょうか?」

「そう聞いて来るそなたであれば分かっておるのではないか? かつて彼らから浮遊球に関する権利をどうにかもぎ取ろうとした結果、敵対することになっただけだ。当時の国王は止めていたようだが……いや、それを言っても言い訳にはならぬな」

「そうですか。そうなると彼らを魔族と呼び始めたのは、敵対した王族か貴族の誰かかということでしょうか」

「より正確にいえば、そうであるともそうでないともいえる。そもそも当時でも他国との付き合いはあったからな。浮遊球の管理者たちを魔族と呼ぶ風潮は国外からも入って来ていた。それらの他国も似たような騒動を起こしていたのだろうな」

「想像通りといえば想像通りですが、人の業の深さも大概ですね」

「余に言わせれば、その年でそんなことを言うそなたも大概だと思うがな。たとえ見かけ通りの記憶があったとしても、だ」


 藤花たち浮遊球の管理者に関しての話は、大体想像通りだったのでそれ以上のことを国王に聞くことはしなかった。

 国王からは、今でも魔族は魔族として認識されているのでそのつもりでいるようにと釘を刺していた。

 そもそも浮遊球の存在を秘匿するつもりである以上は藤花たち管理者の存在も公にするつもりがないルーカスとしても、彼女たちが訂正を求めない限りは放置しておくつもりだった。




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m(__)m

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