(15)色々まとめ

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 ルーカスが得た浮遊球は、既に初代が用意したあの場所から移動しているので、いつまでも同じ場所に居続ける意味はない。

 大人組の事前の取り決めで管理しているルーカスが戻ったことを男爵に伝えることになっていたので、初座院に立ち寄ってから自宅へと帰った。

 初座院では、男爵からの伝言で翌日には国王から呼ばれているので城に行くようにと言われていた。

 この日国王がお忍びで行動していたのは初代からの贈り物に関して隠れて行動することが必要だったためで、翌日の国王への訪問は公式に迎えが来ることになっている。

 この公式訪問で邪魔が入ったとしても、既に初代の贈り物を手に入れているので邪魔をする意味がないという筋道を立てたかったのだろうとルーカスとエルモは推測している。

 国王の行動はどちらかといえば国益よりも初代の意思を優先しているように見えるが、そのお陰でルーカスが少なくとも公爵よりも良い印象を得ているので結果的には国益になっているともいえる。

 とにかく翌日にルーカスとエルモが王城に向かうことは決定している。

 ルーカスの気持ちとしては既に『まな板の上の鯉』という状態なので、むしろさっさと面倒事イベントを片付けてしまいたいと考えていた。

 

 何だかんだと濃い一日を過ごして自宅に戻ったルーカスは、ようやく一息ついてベッドの上で寝転がった。

「は~。やれやれ。ようやく落ち着けたな」

「ピュイ~」

「うん? 何だ? 元気が無いように見えるぞ?」

 ツクヨミと出会ってまた一日ちょっとしか経っていないが、ルーカスは何となく感情が分かるようになってきた。

 ツクヨミの感情に気付いたきっかけは、七本ある触手の中で外側にある二本が動物の尻尾のように感情を表していると考えてからだった。

 特に嬉しい時や興奮しているときは触手が上の方に上がる傾向にあり、沈んでいるときほど段々と下がっていく。

 

 ルーカスが勝手に心の中で『感情触手』と呼んでいる日本の職種は現在下降気味になっていた。

「ピピュイ」

「何でもないと言われてもなあ……。うん? もしかしてお前、俺のところに来たことで迷惑かけているとか考えていないよな?」

「ピュ、ピュイ!?」

「おお~。当たっていたか。言葉みたいにはっきりと通じているわけじゃないが、なんとなく伝わるようになってきたな。――それはいいとして、ツクヨミは気にする必要はないからな。王種だからといって色々なしがらみに縛られる人が悪いんだ」

 ツクヨミは悪くないと宣言するルーカスに、当の本人はシオシオと萎れてい――るように見えた。

 

 その姿を見て「ヨッ」と一声上げてから上半身を起こしたルーカスは、手を伸ばして不思議な感触をしているツクヨミの体を撫で始めた。

「ヒョ~」

「ハハ。気持ちいいのか? 本当だったらもっと撫でてやりたんだがな。色々と忙しくて触れ合う時間が少なかったからなあ。今からはお前のための時間だ。

「ヒャフ!」


 あからさまにテンションを上げるツクヨミを見て、ルーカスは心の底から彼(彼女?)が来てくれて良かったと思っている。

 今みたいに「ピュ」だけではなく、意外にも(?)他にも『声』のバリエーションがあると分かったあとは、触手での感情の見分けと合わせてかなりツクヨミとのコミュニケーションがうまく行くようになってきた。

 だからこそ、今みたいに落ち込んだルーカスを見て慰めるなんてこともできているわけだ。

 もしかすると言動以上に精神年齢や思考年齢は高いのではないかと考えるようにもなってきているが、その辺りはもう少し付き合っていけば分かって来るだろう。

 

 しばらくツクヨミを撫でていると、自然と思考が浮遊球へと移っていった。

 浮遊球があれば、大きな土地を得て国家の運営をすることが出来るようにもなる。

 今のところルーカスはそこまでのことをするつもりはないが、流れで必然的にそうなる可能性もある。

 その道を無理に避けるつもりはないが、積極的に国家運営を目指していくつもりもないのだ。

 

 それよりもルーカスが今気にしているのはこれからどうしていくかということだ。

 折角得ることができた浮遊球。どうせだったら自分がやりたいことで何かに使えないかと思考が向くのは当然だろう。

 それに藤花からは、浮遊球を大きくすることで仲間を増やしてほしいとも言われている。

 浮遊球や藤花から見れば土地を得ることは多くの王種を育てることが出来るようになって、そこから得る浮遊珠を増やすことに繋がる。

 

「――藤花たちのことを考えなかったとしても、お前の仲間は増やしてやりたいよなあ」

「ピュイ?」

 浮遊珠のことは別の問題としても、出来ればツクヨミの相方になるような存在は見つけてあげたいとルーカスは考えていた。

 そもそもルーカスが得た方法が前世ではありえない方法だったので、この件に関して前世の知識は全く役に立たない。

 

 ツクヨミのことだけを考えても、やはり特別な土地は必要になるはずだ。

 ガルドボーデン王国の王家を考えても、王種を育てている場所は厳重な管理の元で一般市民が絶対入れないようになっている。

 平民だけではなく貴族も含まれていることから考えても、それだけ王種を育てる環境が重要だということが分かる。

 もっとも今のルーカスは知らないことだが、王国の場合は過去に自らの王種を手に入れようと動いた貴族がいて面倒になったことがあるからこそ厳しくなっている面もあったりするのだが。

 

 浮遊球からある程度の知識を得たことで、王種の重要性も理解できるようになっている。

 それだけの価値がある存在だからこそ手を出してくる貴族もいるかも知れないが、そこは王国の良識派に期待するしかない。

『手に入れたもの勝ち』を狙って動く貴族がいてもおかしくはないが、そこは王家が黙っていないだろう。

 何しろ王族にしてみれば、自分たちだけで管理していることへの正当性が揺らいてしまうのだから。

 

「――あと残っている問題は……学校か。どうせだったら魔法科に入りたいけれど、どうなるか」

 前世の記憶の影響が強くあるために、ルーカスは魔法への知識欲がこの世界の一般人よりもかなり高くなっている。

 勿論、欲が強いからと言ってマッドな方向に進むことを目指しているわけではないが、より多くの魔法が使えるようになりたいとは考えている。

 そもそも親におねだるするものが魔法書ということで、一般的からはかけ離れているのだが。

 

 面倒だと考えていた通学も、魔法に関する新たな側面が学校で学べると思えば気分も上向いて来る。

 魔法書だけで魔法を学んできたルーカスは、学校で教師もしくは師匠から教わる魔法がどんなものなのか全く知らないのだ。

 ルーカスとて先達から教わることはあったものの、それはあくまでも探索者仲間であって師匠のように付きっ切りで教えてもらえたわけではない。

 そうした諸々の事情を考えて、学校で魔法を学ぶことも一つの経験になることは間違いない。

 

 儀式を終えて神官から話を聞いた時点では面倒くささが勝っていたルーカスだが、ここまで色々なことが重なって来ると学校に通うことも悪いことではないと思えている。

 浮遊球を使っていきなり国王と同等に扱ってもらえるならさっさと独り立ちすることも考えるところだが、そうそう上手く行くはずもない。

 それはかつてまだ小さかった頃に、『知識チートだー!』とはしゃいで失敗を繰り返してきた経験から来ている考え方だ。

 浮遊球を得たルーカスが今後どうやって周囲と関わって行くことになるのかは、当人もまだまだ何も決定していないともいえる。




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m(__)m

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