(14)進路

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 ルーカスが指紋・声紋登録した部屋に戻ると、残っていたのはエルモだけだった。


「――やっぱり残っていたのは親父だけだったか」

「さすがに国王や公爵を長時間待たせたままってのは無いだろう。お前のことだから何かに夢中になっているかもしれないと言ったら割と早めに戻ったぞ」

「これでも急いだつもりだったんだけれどな。まあ、残られたら残られたで気まずいんだが」

「まあな。それにこっちはこっちで話すべきことがあったからな。ある程度はそれで時間が潰れていたぞ。学校は通うことになると言っておいたが、問題はないよな?」

「それで大丈夫。あとは後ろ盾がどうのという話にはなっていたか?」

「なっていたな。国王と公爵でどっちが引き取ると問答になっていた。結局はお前に選ばせるということになった」

「本人がいないところで、随分と盛り上がったんだろうな。俺が選べるようになったというのは有難いけれど」

「だろうな。お前だったらそう言うと思って、俺からは敢えて否定しなかった」

 

 ルーカスが浮遊球を得たと知らなかったとしても、浮遊珠を作ることが出来るツクヨミがいるという時点で国王や公爵が後ろ盾になるメリットは多分にある。

 浮遊球の端末である程度確認をして分かったことだが、この世界では浮遊珠はいくらあっても喉から手が出るほどに欲しくなる資源になる。

 王家は複数の王種を管理しているはずだが、それでも幾らでも使い道はあるはずだ。

 ルーカスは王家がどういう関係性で王種を管理しているかは分からないが、それとは別に入手ルートを持つことを考えるのは当然のことだろう。

 

「そうなると、問題は浮遊珠を材料に取引することが難しくなったことかな」

「なんだ。出し渋りでもするつもりか?」

「いや、そうじゃない。俺にも浮遊珠の使い道ができたから簡単に渡せなくなった。定期的に渡すというのも難しいだろうな」

「それはまた。詳しくは聞かないほうがいい感じか?」

 

 二人がいる場所は、王家が管理している場所になる。

 盗み聞きされていてもおかしくはないし、余計なことは話さないほうがいいかと気を使ってのエルモ言葉だった。

 

「いや。構わないよ。この部屋の奥にある浮遊球を得られた――といっても意味が分からないか。恐らく王家が隠している土地を維持するのに必要なものの管理者になった」

「おい。それは大丈夫なのか?」

「俺が貰ったのはこの国の土地を管理している浮遊球とは別のものだからな。この国の浮遊球がどうなっているかは、俺にも分からないな」

「そうか。それならひとまず安心か」


 いくら王種の星獣を得たといっても、王国が支配している土地を簡単にどうにかできる存在が現れたとなると大騒ぎになる。

 場合によっては今ある王家と交代させると騒ぎ出す勢力が出てきてもおかしくはないだけに、エルモの懸念は当然だろう。

 もっともルーカスは今の王家と取って代わるつもりなど毛頭ないし、何よりも新しい浮遊球を得ているので王国の浮遊球や土地は必要ない。

 そもそも国を作るかどうかすら決めていないので、いきなり王家と変わるなどごめん被るというのが本音だ。

 

「――それで? その浮遊球ってのは何なんだ?」

「それは……。この世界の根幹に関わるだけに知らない方がいいと思う。過去の王族も敢えて隠して来たんだろうしな。もしかすると国王だけしか知ることがないようにしていてもおかしくはないな」

「なるほど。それなら俺も知らないままでいたほうがいいな」

「機会があれば国王にも聞いてみようと思っているけれどね。親父に知らせるかは、その話をしてから決める」

「そうだな。そのほうがいいだろう。お前の負担が増えるのが心配っちゃ、心配だが……今更か」

「どういう意味だよ、それ」


 前世の記憶を持っているルーカスだけに、過去にも子供らしからぬ行動をして周囲を驚かせている。

 そんなことを繰り返してきたので、エルモのルーカスに対する扱いは既に子供に対するものではなくなっていた。

 勿論前世の記憶があるからといっても子供らしい部分は未だに存在しているので、エルモもその時には親としての立場になったりはする。

 そういう意味では、なんだかんだで上手くやっている親子といえるだろう。

 

 浮遊球の存在に関しては国王も隠している節があるので、不必要に話すことは出来ないとルーカスは考えている。

 以外にルーカスから情報が漏れることを期待している可能性もあるが、きちんと確認を取ったほうがいいだろう。

 魔族が絡んでいるだけに、場合によっては何を言っているんだと言われることもあり得る。

 

 現在の王国で語られている魔族に対する評判は、あまりよろしくない感情のほうが強い。

 下手をすればそのことだけで浮遊球自体を否定される可能性もあるだけに、噂であっても広めるのは止めておく。

 さらに土地自体を好き勝手に造成できる浮遊球なんてものがあると知られれば、宙に浮いている大地に住んでいる一般市民から果ては王族まで何をするか分かったものではないからだ。

 

「――あと聞いておきたいことは……あの公爵さんはどうなった?」

「どうもなっていないぞ? ルーカスが戻って来るまでいると主張していたが、国王に諫められて諦めていたな。あれはとことんまで絡んでくるだろうな」

「うあ~。面倒だな」

「国王が関わっているだけに無茶なことはしてこないと思うが、隙を見せると食らい付いて来るだろう。いつかタイミングを見てはっきり拒絶するのも手じゃないか?」

「それをやるとなー。この国で生きづらくならないか? 折角わざわざ他の国に移住したくはないと考えるくらいには気に入っているんだし」

「どうだろうな。国王がいる限りは、そこまで決定的なことはしてこないんじゃないか? やったら国王から睨まれるだろうしな」

「問題は国王が後ろ盾となった場合、どこまでやってくれるかということかな。あまり信用しすぎるのも問題だろうし」

「それはそうだろう。国王にせよ王族にせよ、国のために動くからこそ立場が維持できているのだろうしな」


 この世界において王族は王種を管理するという重要な役目があるために、簡単に切り捨てられることはないだろう。

 だが逆にいえば、あまり無茶な政治を行うと、王種の管理だけをやらされてあとは城に押し込められたまま実権はすべて失うということもあり得る。

 悪い意味での『君臨すれども統治せず』の形になってしまう可能性もないわけではない。

 現王は国民からも慕われているので早々そんな事態にはならないだろうが、不安の種を次世代に残すようなことはしないだろう。

 そもそもルーカス自身がいざとなれば王国から離れることを選択肢の一つとして考えているので、国王に都合のいいことだけを望むのは間違っている。

 

「――そういやお前、一応確認するが探索者になることは止めないんだな?」

「それはね。今までもそうなることを考えて生きて来たんだ。今更止めるなんて言わないよ。そこを含めて色々と出来そうなことがあるかを考え中」

「そうか。どうせ学校に行くとなったら中央だろうからな。わざわざ探索者なんて仕事を選ぶ奴も珍しいだろうな」

「とはいえ、全くいないわけじゃない。俺の場合はさらに特殊なことになっているわけだが……なるようにしかならないだろうな」


 中央の学校に通ったことによって進路について口うるさく言われることになるかは分からない。

 それでもルーカスは、自分の進むべき道は自分で決めるということを譲るつもりは全くない。

 いざとなれば浮遊球を使って王国から脱出することが出来るという手段を得たルーカスは、他の人よりも自由に進路を決める手段を得たと言えるのかもしれない。




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