(13)とりあえずの予定

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 ルーカスたちが生きている浮遊世界ターフは、文明の技術レベルでいえば産業時代に入るかどうかという技術レベルになっている。

 ただ文化・技術的に生活レベルが向上しているとはいっても、地球のように科学技術が上がっているというわけではなくあくまでも魔法やそれを利用して作られた魔道具関連の技術が高いという感じだ。

 ルーカスの知る科学という分野に関しては魔法関係のものが混じった錬金術という分野が発展してきているので、取って代わるということは起こらないだろう。

 そもそも誰もが魔力を持っていて、大なり小なり魔法を使うことができる世界において魔法を無視して科学だけが発達していくことなどあり得ない。

 ルーカスの場合は前世の記憶を思い出していくのと同時に魔法がある事を知ったパターンなので、前世では使えなかった魔法にのめり込んでいった。

 そうした前提知識があるうえで浮遊球という存在を知ると、この世界においてとても歪だと考えてしまうのは仕方のないことだ。

 

 藤花に案内されて凜と出会ったコントロールルームにある制御装置はその最たるものだと、ルーカスは考えていた。

 知識の蓄積や浮遊球自体の改変、人が住む大地の追加など、知れば知るほどコンピューター的な役割を果たしているようにしか思えない。

 何故こんなものがこの世界にあるのか、それについてもルーカスは藤花や凜に聞いてみたが、返ってきた答えは「わからない」だった。

 そもそも藤花や凜自体がこの世界の技術レベルからすればあり得ない存在なので、そんなことを問うこと自体意味がないことともいえるかもしれない。

 

 コントロールルームには、制御装置を扱うためのパソコンのような端末が置かれている。

 ルーカスがその端末に触る前に、凜は浮遊球から立ち去っていった。

 凜曰く、国王たちがいる部屋で行ったことは、浮遊球が置かれている場所に入るための登録であって浮遊球そのものの使用許可を得るためのものではなかったそうだ。

 ここで端末にルーカスが触れるとすぐに登録が始まって、凜はよそ者認定されてしまうらしい。

 浮遊球からよそ者認定されると排除に動き出してしまうそうなので、その前に出る必要がある。

 マスター登録の終えたルーカスが許可を与えれば自由に出入りできるようにはなるらしいが、慣れていない操作を慌ててするよりもあとからじっくり操作をした方がいいと言っていた。

 それに凜はあくまでもリンドワーグ王国の浮遊球の管理者なので、あまりよそ者を出入りさせるのはよろしくないと言われれば、ルーカスとしても納得するしかなかった。

 

 そんなこんなで再び二人きりになったルーカスと藤花は、浮遊球自体への使用許可登録を終えて何ができるのかを確認し……ようとして頓挫していた。

「――うん、まあ。何となく予想はしていたけれど、これは覚えることが膨大過ぎるな。全部を覚えてから運用するよりも、習うより慣れよの精神で行った方がよさそうだ」

「そこはマスターのやり方次第なのでお任せいたします。私もできる限りフォローいたしますから」

「私ねえ……。やっぱり管理する人員は増やしておいた方がいいか」

 

 端末で確認して出て来た情報量の多さに驚いたルーカスに、藤花が真っ先に助言をしたのは浮遊球を管理する人員を増員することだった。

 それぞれの部屋の掃除などの管理はゴーレムが行ってるので今ある場所に浮遊球が浮いているだけなら藤花一人で問題はない。

 ただこの先浮遊球が外に出ていくことを考えれば、どうしても人手は必要になる。

 そのためにも、最低数名は人では増やしてほしいというのが藤花の要望だった。

 

「このままこの位置に居続けるのであれば必要はありませんが、マスターはそのようなことは考えていらっしゃらないのですよね?」

「確かにそうだけれど、しばらくはこのままでいいかなとも考えているな。学校にも行かないといけないし」

「学校……行かれるのですか?」

「まあね。今後も俺と藤花や他の有機アンドロイドたちだけで行動するなら別に必要ないだろうけれど、そんなつもりもないしね」

「なるほど。人と……というよりも他の国々と交流をするつもりであれば、教育機関で学ぶことは必要ですか」

「そういうこと。その上で、この浮遊球を使って国なりを作って行くか考えていくことになるかな。別に無理に国を作る必要は無いんだよね?」

「そこはマスターのお考え次第でしょう。私たちとしては、あくまでも暮らしていける場所があればそれで構いません。できる限り数は増やして欲しいですが」

「種族単位で考えるとそうなるのはよくわかるな。数が少なすぎるといつ絶滅してもおかしくないだろうし」

「そう言っていただけるとありがたいです。ただ私たちの場合は、浮遊球とそのマスターさえ残っていれば生き残ることは可能ですが」


 有機アンドロイドという存在であるがゆえに、藤花たちは『両親』がいなくても誕生することができる。

 そういう意味では、確かに種族として絶滅することはほとんどないだろう。

 人々が暮らしている大地が浮遊球によって管理されている以上は、ある意味で人類と共生関係にあるといっても過言ではないからだ。

 その割にはガルドボーデン王国に限らずルーカスが知っている他の国々でも藤花たちが魔族呼ばわれされていて矛盾を感じてしまうわけだが。

 

 そして、浮遊球への登録を終えてから端末で色々と情報を集めること一時間後。

 ルーカスはある程度の方針を決めて、国王たちが待っているはずの場所へ戻ることにした。

 

「――とりあえず最初に話したように新しい人員は、申し訳ないけれど二人だけで。性別なんかはお任せするから必要だと思う人員を増やして」

「畏まりました。繰り返しになりますが、増員はこの浮遊球に蓄積されていたエネルギーを使うことになりますがよろしいのですね?」

「必要経費だからな。それにその分を考えても浮遊球の維持ができると分かっている以上は拒む理由がないよ。さすがに藤花一人だと厳しいというのは理解できる」

 

 二人が今いる浮遊球自体は、長い間自動で動くゴーレムによって維持されていた。

 ただしそれは、あくまでも動くこともせず同じ場所に居続けていただけだからこそ出来ていたことだ。

 ルーカスは既にこの浮遊球を動かすと決めている。

 折角得たものを活用しない手はないという貧乏性な考え方もあるが、何よりも端末で浮遊球ができることを確認した結果、色々とやってみたいことがあるという好奇心が何よりも勝っている。

 

「――さっきも話した通りに、俺が許可を出すまでは基本的に隠密状態にしておくことはいいかな?」

「特に異存はございません。防備も何もかも必要最低限しかない今の状態では、それが最善でしょう」

「よかった。そのあとも考えていることはあるけれど……今はとりあえずそんな感じで。この空間から抜け出すことも問題ないかな?」

「周囲に知られないように外に抜け出すということに関しては、得に問題ないでしょう。光学迷彩などを駆使して隠れ続けます。人員もその方針に合わせて、性格的に向いた者を選ぼうと思います」

「そうだね。ある意味、密室に居続けることになるわけだから性格も重要になるか。まあ、それはお任せで。とにかく今は、これ以上待たせるわけにはいかない」


 正直なところここまで一時間経っているということ自体、普通ではありえない行動を取っているともいえる。

 浮遊球の外の状況がどうなっているかは分からないが、国王をそれだけの時間待たせたままなのだから。

 ルーカス自身は、ある程度の時間で戻っているだろうと予想しているが、だからといって放置したままというのも落ち着かない。

 それならば一区切りついている今の段階で元の場所に戻って、後からさらに細かいことを決めて行けばいいとルーカスは考えていた。




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