(12)凜

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中央コントロールルームへと向かう間、藤花は無言のまま歩いていたのではなく言葉で説明出来るごく簡単なことを話していた。

 そもそも今二人がいる浮遊球とは何ぞや――ということについては、人々が住まう大地を作り出すために必要なものだと言っていた。

 さすがにそれだけを聞いても意味が分からなかったルーカスに、藤花はさらに続けて説明をした。

「マスターは探索者なのでお分かりになるかと思いますが、世界に散らばっている何の管理もされていない土地を集めて暮らせる大地を作ることができると言えば、ご理解いただけますか?」

「ああ~、なるほど。今は何もないけれど、土地を一杯集めて行けばその内この国みたいに大きな土地を作ることができるわけか」

「そうです。ただ浮遊球で管理する土地にも限界がありまして、その限界を超えるために王種が作り出す浮遊珠を使ったりその他の資源を集める必要があります」

 そもそも土地が浮き続けることができるのも浮遊球があるお陰で、浮遊球が機能を止めると土地自体が沈んでいっていずれ消失しまう。

 藤花たちの種族は、その浮遊球を管理するために生み出される存在ということになる。

 

「浮遊球の役目については本当に多岐にわたりますので、それを確認していただくために中央へと来ていただきたいのです」

「そういうことか。土地そのものを浮かしているわけなんだから、確かに色々とありそうだよな」

「はい。それらの説明を口で説明したとしても、どうしても説明する側も受ける側もこぼれ落ちるものが出てきます。そういうことを防ぐために中央にある制御装置で知識の補完をしていただきたいのです」

「制御装置ということは、知識の保管ができるだけじゃなくて浮遊球そのものを扱えるということで間違っていないのかな?」

「その通りです。土地の造成や分離なども必要に応じて行うことができます。それに、私たちにも生活のための空間が必要になりますので、そうした空間を作ることもできるようになっています」

「なるほどね。本当の意味でコントロールルームというわけか」

「はい。それ以外にも多岐に渡って様々なことができるのですが、それこそ私からの説明ではなく制御装置から確認をしてください」

「了解。――といっても話を聞く限りでは、知識を得るだけでもかなり時間がかかりそうな気がするな」

「そうかも知れません。ですが、私が聞いた話だとそこまで苦労することは無いのではないか、とのことでした」


 何故そんなことが断言できるのかルーカスには理解できなかったが、言っている本人の藤花も人伝えに聞いた話だそうで詳しいことは分からないそうだ。

 問題は一体誰からその話を聞いたのかということだが、これに関しては藤花は具体的なことを言わなかった。

 藤花に知識を与えてくれた人物はコントロールルームにいるそうなので、無駄に隠し事をしているわけではない。

 ルーカスとしても、すぐに会えるなら今聞かなくてもいいかという気分になっているので問題はない。

 

 ルーカスと藤花がいる浮遊球は直径二百メートルほどもあるので、先ほどまでいた入り口付近にある部屋から中央まではそこそこの距離がある。

 聞けば藤花が言っている「中央」というのは単に表現的なものだけではなく、実際に球体の中心にコントロールルームが設けられているらしい。

 単純計算だと約百メートル歩かなければ中央にはつかないことになる。

 とはいえ所詮は百メートルという考え方もできるわけで、藤花の話も本当に障りの部分だけで終わっている。

 

 そうこうしている内に、藤花が中央と呼んでいる場所に着いた。

 入口自体はどこにでもあるようなふすまだったので、特筆すべきことは何もなかった。

 余談ではあるが、外観が金属光沢で光っている浮遊球だが中身はどこかのお城の中を歩いている気分にさせる造りになっている。

 廊下自体が木の板で出来ていて部屋との仕切りがふすまになっているので、そう錯覚してしまうだけなのだが。

 

 そして中央の部屋に入ってすぐに、ルーカスは藤花とは別の人物がいることに気が付いた。

「ルーカス様、初めまして。私はガルドボーデン王国の浮遊球を管理している凜と申します」

 藤花と同じような和装を纏っているせいなのか、座礼をしている姿に違和感が無かった。

 こちらの世界では見ることが無かった礼の仕方だが、ルーカスは既にその姿を見ることに慣れてきていた。

 

「あ~、はい。初めまして。思った通りというべきか、やっぱり王国にも浮遊球はあるんだな」

「勿論です。そうでなければ、今頃地の底に沈んでおります。もっとも本当に底があるかどうかはわかりませんが」

「誰も確認したことがないというアレか。君たちにとっても同じなんだな」

「そもそも私たちは、浮遊球を今ある高さ以上に維持することが役目の一つですので知らないのも当然でしょう」

「なるほどね。確かに言われてみればその通りだ。高さが維持できなくなると資源とかも取れなくなったりするのかな?」

「恐らくそうでしょう。これも確認した者がおりませんので、証明のしようがありませんが」


 多少高度を落すくらいなら世界に散らばっている島々を見つけることは可能だろうが、そもそも人々が暮らしている大地が高さを保てなくなった場合に何が起こるかは分かっていない。

 以前から疑問だったことを聞いてみたのだが、結局ルーカスの疑問が解けることは無かった。

 

「もう一つ質問。一応俺も王国に住んで十年以上が経つわけだけれど、君たちのような存在を見たことがないのは何故? もしかして魔族と呼ばれている理由にも繋がるのかな?」

「その通りです。私たちの一族は浮遊球を管理しておりますが、今では王族でさえ断絶しております。それは過去にあった諸々の事情によるのですが……話すと長くなるので今は置いておきます」

「そうだね。俺としても今はそれだけ聞ければ十分だ。それに、何となく理由は想像がついているから」

 

 恐らく政治的な理由が絡んでいると予想しているルーカスだったが、それは外れていない。

 凜の一族との断絶が起こったせいで土地の拡大もほとんど止まっている状況なのだが、断絶が起こっているせいでどうすることもできなくなっているのが今の王国の現状だ。

 

「私が今この場にいる理由ですが、蒼汰様からのお言葉をお伝えするためになります。浮遊球のことについては、その後でになってしまいますがよろしいでしょうか?」

「構わないけれど、何か理由がありそうだね?」

「はい。そもそもこの浮遊球からすれば、私はよそ者になります。私が本来管理すべき浮遊球は別にありますので。この浮遊球をどうさせて行くかは、お二人でお話されたほうがよろしいでしょう」

「そういうことね。納得したよ。――それで、あの手紙だけじゃない伊藤さんからの伝言って何かな?」

「ではお伝えいたします。『俺みたいに国を作るか、身軽に世界を浮遊するか、あるいは俺が思いつかなかったことを成すか。お前さんがどんな道を選ぶかは分からないが、出来ればこの世界を楽しんで生きて欲しいな』――だそうです」

「……なんだろう。初代様って固いイメージがあったけれど、あの手紙といい軽い性格だったりする?」

「どうでしょうか。受け止め方次第というところもあると思いますが、少なくとも私たちの間では軽薄だったというイメージは伝わっておりません」


 わざわざ同じ世界の記憶を持つ人のために色々と残してくれているので、面倒見がいいということはルーカスにも分かる。

 それでもどこか調子のいいイメージが付きまとうのは、やはり実際に会ったことがないための勝手な思い込みなんだろうかとどうでもいいことで頭を悩ますルーカスであった。




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m(__)m

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