(10)部屋の奥

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 二メートル半ほどの高さがある扉が開くと、当然のように皆の注目が奥の部屋に集まった。

 ただ残念ながらこの時点では、奥の様子を見ることは出来なかった。

 魔法的な何かが起こっているのか、扉はきちんと開いているのに目では奥を確認することができないような仕掛けが施されていた。

 この時点で、扉の先を確認するためにはきっちり奥まで進まないといけないことがわかった。

 一応国のトップである国王がいるのでどうするべきか視線だけで問おうとしたルーカスだったが、ここで例の公爵が動きをみせた。

「よくやったな、小僧。王、ここから先はわたくしめが確認いたしますのでお任せください!」

 公爵がこの場に来た時点で分かっていたことだが、その顔は平民などに割り込ませるかと書かれている。

 なんというか自らの欲望を隠しもせずにいるその態度を見て、ルーカスはさすが強欲な貴族だと色々な意味で納得していた。

 

 そんな公爵に向かって、国王はあっさりと許可を出した。

 ルーカスもそうだが、やはり国王も公爵がどうなるかをきちんと分かっているらしい。

 それでも敢えて公爵の行動を認めているのは、言っても聞かないと分かっているからなのか、あわよくばを狙っているのかなのか。

 どちらなのかはルーカスには判別がつかなかったが、どちらにしても国王自身には不利益は働かないと考えて行動していることだけは分かる。

 

 ともかく国王の思惑に乗せられているとも知らず、公爵は喜び勇んで扉へと向かって歩き始めた……のだが。

「――何故だ! ここまで来て、何故こうなる!?」

 扉のある部屋の境まで歩いて行った公爵だったが、見えない何かに阻まれたようにそれ以上を進むことができなかったのだ。

 ルーカスにいわせれば、指紋登録に加えて声紋登録までさせるほど厳重な造りになっている場所に不用意によそ者を侵入させるはずがないのは当然の結果だろうといったところだろうか。

 

「やはりこうなったか。公爵、それ以上は諦めろ。そなたが何をどうしようと許可のある者以外はそれ以上先に進むことはできぬ。無論、余も同じことになるであろうな」

「どういうことですか!?」

「どうもこうも無い。初代様より贈られたその道具を所持しておらぬ以上、ここよりも先に入れぬということだ。こんなことも分からぬとは、この先にあると思われる『宝』に目がくらんだか」

 身も蓋もないリチャード国王の言い分に、公爵はグッと言葉に詰まっていた。

 

「――済まなかったな、ルーカス。言っても聞かないことは分かっていて敢えてやらせたのだが、そなたにとっては面白くはなかっただろう」

「いえ。まあ、私としてはある意味厄介ごとを引き受けてくれるとも取れましたので問題はありませんでした」

「やれやれ。その言葉一つとっても子供のものではないのだがな。それは良いか。見て分かった通りこの先はそなたしか行けぬ。何があるか、先に進んで確認して来るとよい」

「よろしいのでしょうか?」

 見方によってはこれまで国が管理してきたものを横からかっさらわれるようにも見えることなので、ルーカスも今一度確認を取る。

「構わぬ。むしろこの先に何があるか、それを知ることのほうが国にとっては利益になる。――公爵、分かっておるな。これ以上余計なことをすれば、国益を損ねると判断するぞ」

「し、しかし……!」

「そもそも我らでは扉を開けることすら敵わなかったのだ。魔法師たちに解析を依頼することすら時間が惜しい。それに、いつまでも扉が開いているとは思わぬほうがよい。ならば今のうちに権利を持つルーカス少年に確認してもらったほうがよい」

 指摘されて初めて扉が閉まる可能性に気が付いたのか、公爵はそれ以上の反論をせずに黙り込んでしまった。

 

 公爵からの反論が無くなったと判断したのか、ここでリチャード国王がルーカスに視線を向けてきた。

「ここから先はそなた一人で行くことになる。引き返すなら今がチャンスであろう。たとえここで戻ったとしても特に国としては問題ない。そなたの王種から得られる浮遊珠だけで十分な利益が得られるからな」

「そこははっきりと言うのですね。こちらとしては、部屋に閉じ込められて浮遊珠を作り続けるだけの存在になるつもりはありませんが」

「であろうな。こちらとしてもそんなつもりはない。ある程度の数を納品してもらうとかの契約になるのではないかな。もっともそれ以前にそなたがあちらに向かって何が起こるかで、今後については変わることもあるであろう」

 この言葉でリチャード国王が先についてあまり多くを語って来なかった理由が判明した。

 要するに今いる部屋の先で何を得ることになるのかによって対応が変わって来るからこそ、不用意に先を決めることを言わなかったのだ。

 それは単にルーカスのためだけではなく、国が今以上の利益を得ることができると見込んでのことだ。

 どこまでもガルドボーデン王国の利を見ての行動になるが、むしろルーカスとしてもそちらの方が納得できる。

 ここでルーカスだけのことを考えて優しさを見せていると言われても、不安しか抱かなかったはずだ。

 

 リチャード国王に後押しをされたからというわけではないが、ルーカスは扉のある方向を見て歩き始めた。

 その行動を見てなのか、あるいは気持ちが通じてなのか、王種であるツクヨミもルーカスの肩付近まで近寄ってきて着いて来た。

 ちなみにルーカスの手には、初代から贈られた棒もどきが握られている。

 登録が終わった時点で外していいとメッセージが流れてきたので、そのタイミングで外して持っていた。

 

 公爵が弾かれたところまで歩いてきたルーカスは、念のため閉じた扉のあった辺りまで手を伸ばす。

 丁度その辺りで公爵が歩みを止めることになったので、何かがあるとすれば手に触れるはずだと考えてのことだ。

 だがその予想は完全に外れて、特に抵抗らしい抵抗はなくすんなりと腕を通すことができた。

 それを見ていた公爵は悔しそうな表情になっていたが、背中を向けていたルーカスにはその表情を確認することはできなかった。

 

 慎重に行動しているルーカスを見ていたからなのか、ここでツクヨミが「ピュイ」と一声鳴いた。

 クラゲもどきのツクヨミがどこから声(音?)を発しているのかは分からないが、その声に後押しされるようにルーカスは一歩一歩進み始めた。

 その歩みが二歩三歩と進むごとに、公爵が当たった『見えない壁』の場所を通り抜ける。

 ルーカスとしては何らかの抵抗のようなものを感じるかと身構えていたのだが、ごく普通に通ることができたので少し拍子抜けしていた。

 

 ただ意識を前面に戻して改めて全体の光景を確認すると、考えてもいなかった光景に思わず息をのんだ。

 まず最初に目についたのは直径二百メートルほどの巨大な球体で、それが

 その浮遊する球体――浮遊球を取り囲むように柵で区切られた幅が三メートルほどの通行路のような道があるが、少なくとも手前側の見えている範囲に球体がどこかに触れている様子はなかった。

 そしてルーカスが通ってきた出入口から真っすぐ真正面の通路には、少しくぼんだところがあり何やら台のような物が備え付けられていた。

 

 その台(?)のようなところまで近づいて確認して見ると、一部が半透明のガラスのような素材で作られていることがわかった。

 そのガラス部分に目を向けると、そこには『開錠オープンと音声入力をお願いします』というメッセージが表示されていた。

 そこまで見れば何をのかは、考えなくともすぐに分かった。

 そしてここまで来て引き返すつもりもないルーカスは、素直にそのメッセージ通りに言葉を発した。




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m(__)m

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