(9)開かずの扉
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目的地までの道中ではルーカスがリチャード国王に対して声をかけたことにより、短くない言葉のやり取りが続けられていた。
「――ふむ。となるとやはり学校には行くことになるか」
「そのつもりではありますが、今のままでは試験に通るかどうかはわかりません。何しろ試験用の勉強などしたことがありませんから」
「王種というか星獣を得た者は、無条件で入学資格が得られることになるはずだが? 神官から説明は無かったのか?」
「それは聞いておりますが、折角なので試験も経験してみたいと考えております」
「ハハ。大抵の者は試験など嫌がるのだかな。だが当人が受けたいというのであれば受けてみればよかろう。――だが、今回の結果次第にはなるが学校になど通っている暇があるかは分からぬぞ?」
「えーと……それはどういうことでしょう?」
「さて。具体的にどうこうは今のところ言わぬほうが良かろう。今言えるとすれば、そなたが学校に通いたいと望むのであれば、国としては喜んで受け入れるというところだ」
何とも中途半端な言葉を貰ってしまってルーカスとしては困惑するところだが、リチャード国王はそれ以上の説明をするつもりはないらしい。
リチャード国王はこの後に何が起こるかある程度予想できているらしいが、それを口にしないのには何か理由があることはルーカスにも理解できている。
時折エルモを交えながら会話を続けていたが、やがて目的地らしき場所がルーカスにも確認できた。
「あの洞窟の入口が目的の場所でしょうか?」
「そういうことだ。ただあの場所は入口が自然の洞窟のように見えているが、実際に中は人工物になっている。正直に申せば、未だにどう造られたのかも分かっておらん。初代様の残られた遺物は多くあるが、ここもまたその一つになる」
外から見る限りルーカスにはただの自然な洞窟への入口にしか見えなかった。
リチャード国王のいう人工物がどんなものかルーカスにはまだ分からないが、王家の力をもってしても解析が難しいと聞いてどんな空間になっているのか楽しみになってきている。
洞窟入口には国王一行が安全であることを証明するかのように先行して向かい、それにルーカスとエルモも着いて行く。
そして入口から入ってすぐに、二人は思わず驚きの声を上げることになった。
外から見た限りでは普通に薄暗い洞窟が続いているように見えたのだが、ほんの数歩歩いた先は明らかに人工物だと分かる少し広めの空間が広がっていたのだ。
しかもただ人の手でくりぬいた平たい壁だけではなく、至るところに壁画のようなものが描かれている。
それに壁画だけではなく魔法陣のようなものが書かれていることから、この空間が何らかの魔法で制御されていることも分かる。
その魔法陣を見ているだけでテンションが上がるルーカスを、国王たち大人組(エルモ含む)が微笑ましいものを見る顔になっていた。
ルーカスがそれらの魔法陣に興味を示したので、五分ほど時間を使ってその部屋を観察していた。
初代が遺した遺物のため管理をしている男爵どころか国王でさえもこの部屋に入る機会は少ないようで、細かく色々なところを見ていた。
魔法陣の技術的な観点は勿論のこと、壁画もまた歴史的に貴重だとのことだ。
時間を区切ったのはそうしないといつまでも見ていることになるそうだとルーカスから自ら決めたことで、国王が決めたというわけではない。
そうこうしている内に五分という時間が過ぎ、いよいよさらに奥に向かう……というところで国王も予想していなかった事態が起こった。
一人の男性が数人の護衛を連れて部屋に入ってきたのである。
「王! やはりこちらにおられましたか!」
「……ハバルフスト公爵か。何用だ?」
入ってきた人物を見て内心で首を傾げていたルーカスだったが、王国において三つある公爵家のうち一つのハバルフスト公爵だということが国王の言葉から分かった。
「何を仰いますか! 国において大事が起こっていると駆け付けた次第です」
「この場は初代様が用意した場所である。限られた者しか入れないことはそなたも理解していると思うたが?」
「これは異なことを。初代様の遺跡を騒がすつもりはございませぬ。ただこの部屋の先が国家において大事であることも十分ご理解頂けると存じますが?」
この言葉で国王が黙り込み、だからこそ内密に事を進めて来たのだとルーカスは理解した。
国王が前面に出て事を進めると必ずこうした横やりが入るのは間違いなかった。
現にこうして公爵までもが出てきていることでそれを証明している。
だがそれだとルーカスやエルモが警戒するのは目に見えているので、敢えて少人数で対応をしていたと。
公爵自身も少人数しか連れて来ていないことからよほど急いできたことが分かる。
国王と公爵という国のトップの話だけに、ルーカスやエルモは口を挟むことはせず事の成り行きを見守ることにしていた。
「それを言うなら初代の御心に沿うことこそ国家の利となるとは思わぬか?」
「初代様が偉大なお方であることは間違いありませぬ。ですが、当時と今の時代では違い過ぎまする。今は近くに多くの国がある状態。それ故に国を一つにまとめることこそ重要かと考えまする」
「……そうか。ならば好きにすればよい」
「ありがとうございまする」
最終的に公爵の言葉を受け入れたリチャード国王だった。
……のだが、何故かルーカスには国王がわざと受け入れたように見えた。
ここで公爵の横やりが入ったとしても結果は変わることがない。
確信は無いのだが、国王はそう考えていると何故かそう感じていた。
そんなルーカスの考えているのかいないのか、リチャード国王は何事も無かったかのようにルーカスに話しかけて来た。
「――さて、ルーカス。少し予定と違ったが、このまま先ほど言ったとおりにすればよい」
「わかりました」
リチャード国王に促されたルーカスは、外への出入り口とは反対側の方向にある扉へと向かう。
観音開きになっていると思われるその扉は、今は固く閉じられている。
その扉を開くためには鍵が必要で、そのために初代が用意した贈り物が必要だという言い伝えになっているというのが道中で国王から説明をしていた。
実際扉の前には小さめの台のようなものが備え付けられていて、その木製の台の上には一枚の金属のプレートが置かれている。
プレート自体は固定されていて動かず、どうやって使うかはよく分からないとのことだった。
ただ前世の記憶があるルーカスには、それが指紋を含めた手を乗せるためのプレートに見えた。
さらにもう一つ加えるとプレートの上部には棒のようなものを差し込むための穴まで用意されている。
その穴に先ほど手に入れた不思議素材で作られている棒を差し込むと、ルーカスが想像していた通りにプレート自体が淡く光り出した。
それと同時にどこからか声が聞こえて来た。
『プレート上に手を置きながら指紋登録を行ってください。その後、声紋登録のためにお名前をお願いいたします』
――と、日本語で。
この場にいる人間では意味が分からない言葉だが、ルーカスにはしっかりと通じた。
そのメッセージに従って、まずプレート上に手を置くとすぐに反応が返ってきて指紋登録が終わったと返答が来た。
手のひら全体を乗せる意味が分からないが、もしかしたら静脈認証なんかも行われているのかもしれないと考えている。
その後、無事に声紋登録まで終わったことがメッセージで流れると、開かずの扉であった部屋の奥にある観音扉が音も建てずに静かに開いていった。
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m(__)m
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