(8)贈り物

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 ルーカスたちが乗る馬車が止まったのは、王家が管理している山がある私有地の一角にある建物の前だった。

 和洋折衷といえば聞こえがいいが石造りから木造りの家まで様々な建築様式が混ざった王国において、その建物はルーカスから見ても日本にあるどこかの神社かお寺のように見えた。

 リチャード国王曰く初代が関与している建物で、建築された当初から姿を変えることなく存在しているらしい。

 ルーカスの過去の知識にもある伊勢神社で行われていた式年遷宮の規模を小さくしたようなことが行われているようで、大体二十年から三十年ごとに新しい建物を作り直している。

 建物自体はさほど大きくはないので式年遷宮ほど費用は掛からないだろうが、それでも今までの間続けて来たことは王国にとっては意義深いものとなっている。

 それだけ初代が愛されているという証拠でもあるのだが、建築技術の継承ということだけ取ってみても王国にとっては利がある。

 もっとも国内にある神社は、ここだけではなく各地に点在しているため技術の継承という意味においては絶対に必要というわけでもない。

 この建物に関していえば、あくまでも初代が指示をして建てた建物をそっくりそのまま立て続けるということに重点が置かれている。

 

 初代から維持管理しているこの建物のことを王家では『初座院』と呼んでいる。

 その初座院を管理しているのが男爵位の貴族であることからも、王家が代々この建物を重視してきたことはわかる。

 今日この日に国王が訪ねて来ることは既に伝えていたようで、初座院の管理者である男爵自ら出迎えに来ていた。

 男爵であることとあくまでも建物のみの管理者であることから国内においてはあまり身分が高いとは言えないが、男爵と王家が直接関わるという珍しい関係にあるともいえる。

 

 その男爵の案内に着いて行くと、やがて一つの部屋に通された。

 その部屋は、ルーカスが過去の人生で見聞きしたお寺の本堂のような場所に当たると思われる。

 ただお寺の本堂のように仏像などは置かれておらず、その代わりに一つの台座のようなものが置かれていてその上に長さが五十センチほどの長さの筒のような物があった。


「あれが初代から伝わっているとされているものになる。初代が意図せぬものは触れることすらできず、今に至るまであの場から動いたことはないそうだ。少なくとも余が知る限りではあるが」

「そうですか。資格がない者には触る事すら出来ないということでしょうか?」

「そういうことであるな。かつてはどうにかして取り出そうと試した者もいるようだが、ことごとく失敗に終わっている。そなたに資格があるのであれば、問題なく触れることができるであろう」

「そう聞くと怖い気もするのですが……触れなかったとして、怪我をするなどはあるのでしょうか?」

「さて。無理やりにあれを守っている仕掛けに手を出せば反撃もされるようではあるが、ただ試しに触れようとするくらいでは何かが起こるとは聞いておらん」


 多少心もとない言葉ではあるが、ルーカスには国王が嘘をついているようには見えなかった。

 まだ直接対面して数時間しか会っていない相手ではあるためリチャード国王のことを信じているとは言えないが、少なくとも王種の飼い主(?)であるルーカスのことを騙すつもりはないようだ。

 ルーカスには王種がこの世界においてどんな役目を果たしているのか、それを知るためにはまだまだ知識不足のところはある。

 それでも王種が人々が生きる島々を維持するために必要な存在であるからこそ、リチャード国王が権威や地位で押さえつけることはしなさそうは見えている。

 

「ピュイ!」

 初代国王というよりも自分と同じ日本の記憶持ちである伊藤蒼汰からの贈り物だということとツクヨミの後押しするような声に導かれるように、ルーカスは台座へと近づいて行った。

 この選択がこの先を大きく決めるものであることは何となく肌で感じていたが、ここで受け取るのを拒否するという考えは無かった。

 何かに導かれるようにというと少し大げさではあるが、少なくともルーカス当人にとってみれば似たような感情を持っていたことには違いない。

 

 ゆっくりと台座へと近づいたルーカスは、そのままただの棒に見える贈り物へと手を伸ばした。

 国王と男爵の説明によれば途中で見えない結界のようなものに阻まれるということだったが、ルーカスの手を阻むものは何もなくスッとその棒を掴むことができた。

 そしてそのまま胸の辺りまで棒を持ちあげたところで、直径三センチで長さが十五センチほどの棒が淡く輝きだした。

 さらにその光は棒の先端に集まるように移動し始めて、何かを示すかのようにとある一点の方向に向かって光っている。

 

「これは……?」

「さて。余も知らぬな。ただ何を指しているのかは予想ができる」

 首を傾げるルーカスに対して、リチャード国王がすぐに答えを示した。

 さらに国王だけではなく、同席していた思い当りがあるのかその言葉に何度か頷いていた。

 

「あちらこちらへ移動して少し忙しいが、男爵案内を頼む」

「お任せください」

「どこまで行くことになるのでしょう?」

「心配するな。ここから外に出て裏に回るだけだ。ただ少し面倒な仕掛けがあるので、案内があった方がいい」


 ルーカスには何がどうなっているのか全く分からないが、国王と男爵は任せておけとばかりに動き始めた。

 断るつもりはないのだが、ルーカスとしてはできればもう少し説明なりをしてほしいと願うのは仕方のないことだろう。

 そんな思いが通じたのか、ルーカスがエルモに視線を向けると諦めろと言わんばかりの表情をしながら肩をすくめていた。

 一応ルーカスに気を使っているように見えるリチャード国王だが、半ば強引に事を進めようとするのはさすがに一国の主だと言えるのかもしれない。

 

 初座院の管理者である案内に従って、建物を出てからその裏側に回る。

 確実に光の指している方向に向かって歩いていることは見ればわかるので、素直に男爵の後を着いて行く。

 聞けば十分程度森の奥に進めば目的地には着くという説明だったので、ルーカスやエルモにも王家が管理している領地を観察する余裕も出てきていた。

 通常の森であれば魔物まものが出て来ることを考えて警戒しなければならないのだが、国王自身が護衛を数名しか連れて来てないことからも必要がないことはわかる。

 

「随分と曲がりくねっておりますが、一本道なのですね」

 沈黙に耐えかねてルーカスが国王に話しかけてみたが、その当人も何故か嬉しそうな顔になりながら頷いていた。

「うむ。ただ先にも言った通り、少しでも道を逸れると途端にはじき出されるがな。詳しくは分からぬが、魔法的な仕掛けが施されているらしい」

「魔法ですか」

 魔法と聞いて途端にキョロキョロと周りを見出したルーカスに、リチャード国王は声を上げて短く笑った。

「魔法に目がないというのは本当のようだな。そなたのような年であれば、まだまだ遊ぶのが本意であろうに」

「私にとっては遊びのようなものですから」

 魔法の無い世界の記憶があるだけに、ルーカスにとっては魔法を知る事そのものが興味を注ぐ対象になっている。

 エルモに対して、真っ先に小遣いではなく魔法書をねだるのは伊達ではない。

 

 初めてルーカスから話しかけたことによってお互いの距離が近づいて行っているが、これはルーカス自身が望んだからでもある。

 今後のことを考えれば国王と近しい関係になれれば言うことは無いし、国王自身が身分を利用して横暴なことを押し付けて来るようにも見えない。

 ルーカスに対して気を使っているのは伝わって来るので、できることならこのまま関係性を深めていきたいとお互いに考えていのであった。




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m(__)m

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