(7)初代からの手紙
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『よう。日本の中で無数にある偶然から選ばれた誰か。この手紙が読めているということは元日本人だとは思うが、違ったら許してくれ。魔法のフィルターも完ぺきとは言えないからな。
色々と戸惑っていることもあるだろうが、ひとまず聞いてくれ。前世の記憶があるお前さんが王種に選ばれたのは偶然ではなく必然だ。それだけは確信して言える。
前世の記憶持ちに王種を当てがう理由は色々ありそうだが、一つ確実に言えることはその記憶を利用してこの世界の文明を発展させようとしているということだ。
俺やお前は日本人としての記憶を持っているが、あの世界ではない全く違った
お前さんがラノベを読んだりやゲームをしていたかは知らないが、それらでよくある中世ヨーロッパを舞台にしている文明よりもこの世界が発展しているように見えるのは、そのお陰なんだろうな。
俺の時でも微妙に文明が発展しているお陰で、よくある知識チートは使いづらかった。半端な知識でやると国の発展には邪魔にしかならないしな。
ただ食にはこだわったから日本風な料理はできる限り再現したが、お前さんが生きている時代にも残っているといいがな。
さて。話は変わって、この手紙を読んでいるお前さんに一つプレゼントがある。手紙を読めている時点で、俺の子孫が遺言含めてしっかりと管理してきたはずだ。
貴族共から変な介入があったとしても、元日本人以外には使えないようになっているから大丈夫なはずだ。
最後に。色々考え過ぎても仕方ないんだから、お前さんは自分の人生を生きていくといい。じゃあな。
ガルドボーデン王国 国王リーチ(伊藤蒼汰)』
ルーカスは読み終えた時点で手紙をエルモに渡していたが、やはりというべきか中身を読むことは出来なかった。
日本の文字が読めないという事ももちろんそうだが、魔法がかかっていて署名以外のところは読めないようになっていた。
リチャード国王も既にそれは確認していて、二人のやり取りを追認するように頷いていた。
当然のようにリチャード国王からは中身についてルーカスに質問していたが、書いてあること自体は記憶持ちに関することなので国王にとっては既に知っている情報だった。
知識チート云々に関しては隠しておいたルーカスだが、そもそも初代国王が何をやったのかは詳しい資料が残されているので今更リチャード国王に話ようなことでもなかった。
問題なのは最後に書かれているプレゼントの存在。
ガルドボーデン王国において特別な存在であるリーチ国王が遺した物となれば、国宝級の扱いをされてもおかしくはない、
そんなものと一領民に素直に渡してくれるのか、ルーカスとすれば懐疑的に見ているところはある。
だからこそこれを指標にして、リチャード国王がどう対応するのかで今後のことを決めて行けばいいということを考えつつプレゼントについて書かれていることを話した。
「――プレゼントか。正直に言えば、思い当るものがないわけではない。ただそれを素直に渡していいものか、少々悩ましいところではある」
「どういうことでしょうか?」
「ああ。勘違いするな。余個人としては渡しても構わぬと考えておる。だがの。それを面白くないと考える者はいくらでもおるということだ」
「初代様の遺言があるとしても、ですか」
「むしろ初代様の遺言があるからともいえる。どうせ使えないもの持っていても仕方ないだろうと考えているであろうからの。貴族であれば、道具として使えなかったとしても役立てることができると己惚れておるのよ」
思った以上にぶっちゃけて来たリチャード国王に、ルーカスは内心で驚いた。
「使えないもの、ですか。この手紙と同じようなものなのでしょうか」
「そういうことだ。何らかの魔法がかけられていることは分かっているが、それ以上の詳しいことは分かっておらぬ。これ以上は専門的な話になってしまうし、今は続ける意味はなかろう」
もっともな意見だったので、ルーカスもそれ以上は『プレゼント』について詳しく聞くことはしなかった。
未だに警戒を解いてはいないルーカスだが、それはリチャード国王も同じ。
ただしお互いに表に出ている情報は知っているので、それをもとに現実とどう違うのかをすり合わせながら会話をしている。
「――それにしても過去の記憶があるせいか、やはり見た目以上の理解力があるようだな。肉体年齢に精神が引っ張られるということも聞いたことがあるのだが」
「そうなのですか? 私は自分のことしか知らないので何とも言えませんが……私は私ですとしか言いようがないです」
「そういう物言いが……いや、確かにそなたの言う通り過去の例を引っ張り出して当てはめるのは間違っているようだ」
「そうしていただけると助かります。隠す意味もあまりないでしょうし」
「そうだな。一応言っておくが、儀式で王種を得たものが過去の記憶持ちというのは一部の者しか知らぬ。そなたが今後どう対応していくつもりかは知らぬが、覚えておくといい」
「そうですか。ありがとうございます」
「何。余にとっても教える価値のある話だからの。――さて。それではここでの話は終えて、そろそろ『プレゼント』のあるところに向かうとしようか」
いきなりそう言って立ち上がったリチャード国王だったが、側近たちが慌てることなく対応していたことから予定通りの行動だったことがわかった。
初代の手紙に書かれていた内容は知らなかったはずだが、恐らくプレゼントを渡すこと自体が予定に組まれていたのだろうとルーカスは予想した。
わざわざ移動をすることから初代からのプレゼントがこの場で渡せるようなものではないことも想像できる。
この先何が待っているのかと不安と期待が半分ずつになっているルーカスは、エルモに目配せをしたあとで素直にリチャードの後に着いて行った。
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初代からのプレゼントの場所に行くまでの間、ルーカスとエルモは国王と同じ馬車に乗り込むことになった。
国王自ら動いていることを隠すことを徹底しているようで、複数台の馬車で動くと目立つことを懸念して一台の馬車で移動をすることにしているらしい。
そのこと自体は今のところあまり目立ちたくないルーカスとしても有難いことなのだが、さすがに国王と密室といっても過言ではない馬車と同乗することになるとは――なんてことを考えていた。
馬車にはあと一人、護衛兼側近の一人も乗っているが、彼から口を開くことは無い。
というわけで国王相手にどんな会話をしていいのかも分からず、しばらく居心地のあまりよろしくない無言の時間が続くことになった。
それでも考えることはいくらでもあるので、ルーカスとしては会話が無かったとしても困ることはなかった。
エルモはエルモで何かを考えているようで、特に口を開くことはない。
そんな親子の様子を見てこれまたリチャード国王が何やら考えているようだったが、会話をしてこようとはしなかった。
ただリチャード国王が会話をしなかったのは別にも理由があって、それはルーカスとエルモの二人にもすぐにわかった。
それは、馬車が止まった場所は屋敷から十分ほどのところだったので込み入った話をするには不適切だったということだ。
初代からのプレゼントについては言葉で説明するよりも見てもらったほうが早いからという理由もあるのだが、ルーカスとエルモがそのことを理解するのはプレゼントを受け取ってからのことだった。
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m(__)m
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