(5)それぞれの対応

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 エルモとルーカスが船に乗っていないときに住んでいる家のリビングには、四人掛け用のテーブルが備え付けられている。

 エルモにはいまだかつて夫人がいたことはないので、正真正銘二人のためだけの家になる。

 そもそもこの家はエルモがルーカスを見つけてから手に入れたので、そこまで大きくなくてもいいと割り切って買ったものだ。

 そのテーブルには今、エルモとルーカスが隣り合って座っていて、その二人の向かいに一人の間もなく老人と呼ばれてもおかしくないような壮年男性がいる。

 さらにもう一人の男性が壮年男性が斜め後方に立っている。

 ただし護衛と称した威圧要員だということは、二人の態度を見てすぐに理解できた。

 護衛男性のエルモを見る態度はまさしく無頼者と呼ばれることがある探索者を見下している目である上に、壮年男性は壮年男性で貴族の使いであることを前面に出してあからさまに威圧をしている。

 ルーカスからすればそんな態度で交渉になると考えていること自体おかしいと思えるのだが、残念なことに貴族の使いがこういう対応をするのは珍しい事ではない。

 

 そのことを裏付けるかのように、壮年男性が眉を顰めて信じられないという表情になりながらエルモに問いかけて来た。

「――何だと? どういうことだ」

「どういうことも何も、先ほど申し上げた通りでございます。あなたの主の申し出は有難く思いますが、承知することは致しかねます」

「馬鹿な。言っている意味が分かっているのか? ご貴族様が後ろ盾になると仰っておられるのだぞ! それを断るというのか!?」


 この言葉からも分かる通り壮年男性がこの場に来たのは、彼の主人にあたる貴族が王種の星獣を得たルーカスの後ろ盾になる為だ。

 勿論その話は単にルーカスのことだけを考えているわけではなく、ルーカスの後ろ盾になることができれば様々な利益を貴族として得ることができるようになるからだ。

 壮年男性はもったいぶってなのか未だにどの貴族の使いであるかは口にしていないが、貴族が平民の後ろ盾になることなど滅多にないことなので断られることを全く考えていなかったという表情になっている。

 確かに平民でしかないエルモとルーカスにしてみれば考えられない対応であることには違いないのだが、二人にもこの申し出を断るだけの理由がある。

 

「申し訳ございません。それから……これはわざわざ当家にまでお越しいただいた故に申し上げますが、既に幾つかの貴族様から後ろ盾にとの打診を頂いております」

「……何?」

「私にはご貴族様のご事情は寡聞にして存じ上げませんが、この場ではご主人が後ろ盾となることを希望されているということだけにしておいたほうがよろしいかと存じます」

 言外に高位貴族が絡んでいると口にすると、途端に使者二人の態度が変わった。

 

 エルモが言ったことは口から出まかせというわけではなく、実際に儀式が終わった午後から翌日の朝である今現在に至るまで幾つかの貴族家の使者がこの家を訪ねてきていた。

 その中には下位貴族では到底太刀打ちができない貴族家からの使者が来ていたことも紛れもない事実だったりする。

 もっともその高位貴族でさえまともに相手にすることができない存在からも使者が来ていたりするのだが、エルモはそのことをわざわざ口にするつもりはない。

 その相手も今のところ表向きは来ていないことにするようなので、その話に乗って今まで他の貴族から来た話を断っている状態だ。

 

 結局壮年男性は高位貴族の存在をほのめかしたところで、それ以上の無理強いをしてくることは無かった。

 それを見れば、話し合いの前半で露骨な態度を取っていたことが演技だったということが分かる。

 貴族にも面子というものがあるので、平民に対して最初から甘い態度を取ることができないといったところだろうか。

 態度を改めたあとは、他の使者たちと同じように検討する方向でよろしく頼むと話を切り替えて話を終えて帰った。

 

「――貴族も色々と大変だなあ」

「何を人ごとのように言っている。本来はお前が対応すべきことだぞ?」

「ええー? 俺、まだ子供だからよく分かんない」

「何が子供だからだ。都合のいい。――それに、午後からのやつは恐らくお前が直接対応することになるはずだぞ。いつまでも逃げられると思わないことだ」

「ああ~。やっぱり父さんもそう思うか。どうにか逃げたいところだけれどな」

「諦めろ。次の日の午後にしたのはあちらの当人の都合もあるだろうが、こっちの内情を調べるための時間でもあるだろうからな。隠していない部分は丸裸にされていると考えたほうがいい」

「だよなあ……。さすがというべきか、なんというか。まさか一発目に来るのがからだとは思わなかった」

「それだけ王家も王種には気を使っているということだろう。当たり前といわれれば当たり前なんだが」

 

 昨日、儀式を終えてから家に戻って二人がある程度の話を終えてから一番目に来た使者は、王家からのものだった。

 当然相手にも立場というものがあるので王家であることは隠すことになっているが、それ以降来た貴族からの使者を追い払うことにはしっかりと役立っている。

 その対応の速さを考えると、最初から儀式に対して網を張っていたことは理解できる。

 そもそも儀式自体プライバシーなどないので隠すことなど不可能なのだが。

 王家がただ単にルーカスの後ろ盾になる事だけを狙っているのか、あるいはそれ以外の何かがあるのかは今のところは分かっていない。

 

 王種がもたらすといわれている浮遊珠は、この世界においてはどんな戦略物資よりも価値があるとされている。

 そもそも人々が住まう大地を浮かすために必要なものなので、それを失うと暮らしていくための大地が無くなるのと同じことを意味している。

 戦いで他国の領土を奪うよりも価値が高いと考えているのは当然のことだ。

 そもそも他国の土地を奪ったとして、その土地を維持できるだけの浮遊珠が入手できなければ意味がない。

 

「使う側になるか、使われる側になるか、か……」

「なんだ、突然?」

「王家がどう出て来るのかを考えていたら、なんか突然浮かんできた」

「そうか。だが王家といえども、単純に使う側にいるとは限らないだろうがな。いかに浮遊珠を握っているとはいえ、無茶な命令に従えないと反発するものが出るのはどこでも同じだ」

「それ以前に、駄目な人が王に立つことはないと言われているみたいだけれど?」

「碌でもない人材が上に立つと王種が言うことを聞かなくなるという噂か。実際の所がどうかは分からないが、ツクヨミを見ているとその噂も当たっていると思えて来るな」

 

 エルモがそう言い終えると、二人の視線がフヨフヨと浮きながら漂っているツクヨミに集まった。

 ツクヨミ自身に感情があることは、これまでの時間で理解できている。

 どこまで知性があるのかは二人にもそこまで詳しくは分かっていないが、少なくとも犬や猫以上にあることは間違いないと確信していた。

 ルーカスのことを主と見ているのか、あるいは友人と見ているのかまでは分からないが、少なくともエルモよりも上において行動していることは確かだ。

 王種が人に対して序列を作ってみていることは王家が管理している王種を考えても分かることで、ツクヨミを見て改めて確信を得ることができたというところだろう。

 この後で会うことになっているはずの王家の誰かとはツクヨミも会うことになるだろうが、その結果どういう行動に出るかは今のところ分かっていない。

 付き合いの今の段階である程度のことが知れるようになるのは良かったかもしれない――そんなことをルーカスは考えていた。




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