(3)十二歳の儀式

 説明回。


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 ガドルボーデン王国の王都には複数の神殿が建っている。

 その神殿では週に一度、決められた曜日に十二歳を迎える子供たちのための儀式が行われる。

 ただし厳密に誕生日を迎える子が集まるわけではなく、子供と親の都合に合わせて適当な日付を選んで儀式の受けることができるようになっている。

 子供たちの誕生日に合わせて儀式をするとほぼ毎日行わなければならなくなり、神殿側もその儀式だけを行うわけにはいかないという事情もあって週一での開催と決められているのだ。

 そもそもある程度の数が集まらないと見栄えが悪くなるという神殿側の事情もあるのだが。

 とにかく週一で開催されるその儀式に向けて、それぞれの神殿の近隣に住む子供たちが集まる。

 一年の三分の二以上を船の上で過ごしているルーカスからすると同じ年の子供がまとまって集まっているところを見ることすら稀だといえる。

 もっとも別の世界の日本で生きて来た前世の記憶を持っている本人からすれば、そこまで珍しい光景でもないともいえる。

 

 ルーカスは、神殿の儀式を受ける子供たちのための用意された簡易椅子に座って子供たちの様子を見ていた。

 ちなみに椅子に座っているのは子供たちだけで、一緒に着いて来ていた大人たちは子供たちの三方を囲むようにして立ちながら子供たちを見ている。

 十二歳といえばギリギリ子供といえる年なので、自分の子がいきなり立って騒ぎ出したりしないか一部の大人たちが不安そうな顔になっていた。

 もっともルーカスが見た限りでは周囲の雰囲気に押されているのか、突発的に騒ぎ出しそうな子供はいないように見える。

 

「――創造神様は、この世界をお創りになられてから太陽、月、星の三大神様をお生みになりました。その後、創造神様が長い眠りにつかれて、三大神様が数多の神々をお生みになられて世界を形作って行かれました」

 儀式の始まりは、担当する神官によってこの世界の成り立ちを語り始めた。

 その神官もそれなりの地位にいる者なのだが、子供たちにとってはあまり関係の無いことのようで右から左に聞き流している子もいるようだった。

 そもそもこの場で語られる神話は親から聞くことになる場合が多いので、今更聞かされてもと考えている子供たちも多い。

 

 そして神官が語る神話の話が終わったあとは、いよいよ神々からの『贈り物』を授かる時間となった。

 神官が話を終えるとそれを待っていたかのように、奥の部屋から複数人の神官たちが一つの球体を持ってきた。

 その球体は大きさが直径で一メートルほどもあり、様々な色に変化している。

 それに触れることで贈り物を得ることができるわけだが、どんな技術によって作られているのかは一切分からないとされている。

 

 贈り物を授かるための球体に触れる順番は、座っていた椅子の前から呼ばれることになる。

 子供たちも親から教えられてそのことを知っているので、神殿に来て前の席を確保しようと出来る限り早く来ることが当たり前になっている。

 とはいえ儀式を迎える子供たちにとっては自分が主役になるイベントのため、中には楽しい過ぎて夜更かしをしてしまい、その結果寝坊をして予定よりも遅れてしまう子供もいるのだが。

 中にはルーカスのようにギリギリを狙って来る子供もいるにいるが、珍しい部類といえるだろう。

 

 球体に触れて得られた贈り物が何であるかは、基本的に周囲に知られることはない。

 ただし実際に得ているのが子供ということもあって、表情と態度でどんなものを得たのかは想像ができる。

 その様子を見ているとまさに悲喜こもごもといったところだろうか。

 特に狙っていたものとは違ったものを得た子供は、戸惑ったり悲しそうにしていたりと非常に分かりやすい。

 

 ルーカスが見ていた感じでは、子供たちのほとんどはスキルを得ているらしいことが分かった。

 スキルといってもよくあるゲームとは違ってレベル制ではなく、得意分野で能力スキルが伸ばしやすいといった感じのものになる。

 たとえば戦闘系のスキルを得ることができれば、今後は戦闘系において有利に能力を伸ばすことができるようになる。

 もっともスキルが無いからその分野で活躍することができなくなるというものではなく、あくまでも目安程度のものでしかない。

 

 スキルを得ている子供たちがいる一方で、残りの子供たちは武器だったり道具のような物を得ているようだ。

 そうした武器や道具はいわゆる所有者登録のようなものがされていて、得た者以外は使うことができない。

 所有者が亡くなった場合はその登録が解除されることは知られているが、その所有者を無理やりに害した者は何らかのペナルティを負うらしく登録解除の恩恵(?)を受けることはできない。

 しかもその範囲は直接所有者を害した人物だけではなく、計画に参加した全てが対象になるという念の入り様だ。

 

 何をどうすればそんな仕掛けを施すことができるのか研究者たちの議論の的になっているが、今のところ正確な結果を得ることはできていない。

 ただ贈り物で得られる武器や道具はどれも性能が高いことが知られているので、未だにどうにかして手に入れようと画策する者が後を絶たないのが現状だったりする。

 勿論そんな状況を国が見逃すはずもなく、しっかりと法を定めて対策はしている。

 それでも法の網を潜り抜けてどうにかしようとする輩がいるのは、人の性としてどうしようもないことなのかもしれない。

 

 そして大多数の子供たちがスキルや道具類を得ている中で、たった一人だけそれらには当てはまらない贈り物を授かっている子供がいた。

 その子供が得たものを確認できたときには、子供たちだけではなく大人たちも騒めいていた。

 五十人以上の子供が贈り物を受け取っている中でたった一人が受け取った贈り物が何かというと、星獣と呼ばれる存在だった。

 星獣は人のパートナーと共に生活をしながら、様々な恩恵を人に与えてくれる存在だと言われている。

 

 星獣については未だによくわかっていないこともあり、過去にはあまり役に立たなかったと言われる星獣も存在している。

 とはいえ星獣の存在そのものがターフの世界では希少であるため、儀式で星獣を得ただけで先の人生を約束されたと考える者がほとんどだ。

 実際にはそんな単純に上手くいくわけもなく、中には周囲からの重圧に耐えられずに挫折する者もいる。

 儀式で得ることができた贈り物をどう活用して生きていくかは、結局のところその当人次第ということだとされている。

 

 次々と子供たちが贈り物を得ていく中で、五人を残していよいよルーカスの番となった。

 そもそも儀式に来ること自体面倒がっていたルーカスだけに、他の子供たちの熱狂ぶりを幾分覚めた目で見ていた。

 ただ最初の神官が語っていた神話はともかく様々な贈り物を得ている子供たちを見てきて、これは確かに楽しみにする子供が多いのも納得できると思っていた。

 それでもどこか少し距離を置いて観察しているように見えるのは、やはり前世の記憶が影響していることは言うまでもない。

 

 儀式を始まる前に記入した名前を呼ばれたルーカスが前に出て、他の子供たちが注目する中で神官に促されるままに用意された球体に触れる。

 球体の感触自体は特に変わったところはなく、敢えていうなら水晶のような磨かれた鉱石を触っているように感じた。

 どの程度触れていればいいのかは事前に教えてもらっていて、長い間べったりと触ることなく時間にして数秒で終わった。

 問題だったのは球体に触れたことで得られた贈り物自体で、思いもよらなかったものを得たことですぐにルーカスと保護者として参加していたエルモが頭を抱えることになった。




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m(__)m

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