第6話 あの日のこと

 まだヒロちゃんがこの世界からいなくなった現実を理解できてません。ずっと一緒にいたから、部屋にいるとふと隣にヒロちゃんがいるような気さえします。でももうヒロちゃんは帰ってこない。そう考えると涙が止まりません。今はただただヒロちゃんに会いたい、それだけです。


 私が原因でヒロちゃんは死んじゃったのに、そんなわがままな考えをしてしまう私を許してください。でも、本当にヒロちゃんに会いたいのです。いつものようにヒロちゃんの手を握って、音楽を聴いていたい。夏のお祭りにも行きたい。いつかのように流星群を二人で眺めていたい。


 私のした最低な行動で私の大事なもの全てが消えてしまいました。本当にヒロちゃん、ごめんなさい。


 あの日のことは本当に後悔しかありません。言い訳に聞こえるかもしれないけど、なんであんなことになってしまったのか自分でもわからないのです。高槻先輩に二人で会おうと誘われた時、もちろん断るつもりでした。でもヒロちゃんから部活で高槻先輩から嫌がらせを受けている話を聞いていたので、文句を言うつもりで会うことにしたのです。なぜヒロちゃんばかり狙うのかその理由も知りたかったのです。


 指定された場所はファミレスでした。私としては出来るだけ長居はしたくなかった。あの日も早く切り上げてヒロちゃんに会うつもりでした。話し合いの中で高槻先輩は意外なことを言いました。


 部活でヒロちゃんを狙う理由は私にあると言うのです。つまり高槻先輩は私に好意を抱いており、私が部活が終わるまでヒロちゃんを待っていたり、常に一緒にいることが気に入らないと言いました。そして付き合って欲しいと告白をされました。


 もちろん私はすぐに断りを入れました。ヒロちゃんは嘘だと思うかもしれませんが、私の心はお嫁さんになりたいと言ったあの幼い頃からずっと同じままで、今も変わらずヒロちゃんに想いを寄せていたからです。

 

 私はそんな理由でヒロちゃんに嫌がらせするのはおかしいと文句を言って、お金を置いて立ち去ろうとしました。

 でも、席を離れようとした時、高槻先輩は突然、私の手首を強く掴んだ。

 そして「もう一杯だけ、ドリンクバーを付き合ってほしい」と言うのです。


 何かを答える間もなく、高槻先輩は私の分のドリンクを注いでくるといって席を立ちました。

 一人取り残された私は、まぁ一杯くらいはいいだろうと思って、それだけ付き合うことにしたのですが、ここからが、どうしても私には分からないのです。


 次のドリンクを飲み始めてからしばらくすると、なんだか今自分がどこにいて、誰と話しているのかよく分からなくなってきたのです。体は暑く、いっぱいの汗をかいていました。


 そして少しずつ二人の間で交わされる会話の意味も頭に入らなくなり、変だな、変だなと思っているうちに、いつの間にか私たちはファミレスから出て、高槻先輩に肩を抱かれるまま見慣れない建物に入っていました。


 そこからの私は自分でも自分ではないみたいでした。記憶は途切れ途切れになっているのですが、残っている記憶は本当に辛いものばかりです。高槻先輩に手を引かれて建物を出た時は、頭はただただ真っ白でした。


 自分で書いていても言い訳にしか聞こえません。ヒロちゃんがあの建物から出てくる私を見て、どれだけ傷ついたかは容易に想像できます。反対の立場だったら、私もヒロちゃんと同じことをしたとも思うからです。ヒロちゃん本当にごめんなさい。こんなひどい幼馴染でごめんなさい。本当に、本当にごめんなさい。


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