第4話 十六年後の二人
高槻の情報はネットにあふれていた。高槻自身のホームページによれば政治家の父親をもつ高槻はその地盤を引き継いで、今では県議会議員をやっているようだ。さらに県議会議員をステップとして次は国政選挙に打って出る腹づもりらしい。
高槻のホームページを読んで心底腹が立った。なんでも高槻は教育分野に一番力を入れていると言う。曰く、子供への教育は未来への投資である。そのためには安全な学校づくりが欠かせない。高校時代に起きた日頃可愛がっていた後輩の自殺が教育へ目覚めた原点だとも書かれていた。
間違いなくこの後輩とは俺のことだ。わざわざ結衣とのセックスについて目の前でベラベラと話し、俺の自殺のきっかけを作っておきながら、それを政治アピールとして使うクズに俺は苛立つしかなかった。
高槻には妻がいた。元アナウンサーで、調べてみるととんでもない美人の女性だった。そして子宝にも恵まれ二人の娘がいる。結局のところ結衣は高槻にとって過去の女の一人に過ぎなかったわけだ。
知りうる情報から判断するに、高槻は俺のかつての知人の中でも群を抜いて幸せな人生を歩んでいるようだ。HPには写真が掲載されているが、人を小馬鹿にしたような憎たらしい笑みに高校時代の面影を残していた。
高槻に関する情報の全てが気に入らなかった。こいつの人生をぶっ壊してやりたい。心の底からそう思った。ただ一高校生の俺には到底無理な話だ。
「なに、みてるの?」
自分の部屋のベッドに座り、スマホのディスプレイに映る高槻の顔を苦々しくみてると、凛が覗き込むように俺の顔を見た。高校生になった凛はさらに美しさに磨きがかかっていた。男子に告白されることも多いようだが、凛の男嫌いは今も健在である。そうは言ってもそろそろ彼氏の一人でも作る年頃だろう。
「その人、知ってるの?」
「知らないよ。ただの一県議会議員だからな。たまたまHP開いただけで」
凛はしばらく黙っていたが、ポツリとこう言った。
「この人、嫌い」
その言い方に違和感を覚えたが、まぁ女子高生がおっさん議員に好感を持つ方がどうかしている。俺はさほど気にせず、一番知りたかったかつての幼馴染、白石結衣を検索にかけた。
高槻とは対照的に白石結衣の情報は何一つ見当たらなかった。女性は結婚すると苗字が変わることが多いから、そのせいかもしれない。結衣も三十を超えてるのだ。結婚していても何らおかしくはない。子供だっているかもしれないのだ。
調べる過程でふと十六年前の記事が目についた。当時起きた高校生の自殺に関する記事だった。多分自分のことだろうけど、特殊な事情がない限り高校生の自殺なんて記事にはされない。
何が書かれているのだろうと興味を持って読んでみると、十六年前、俺の通っていた高校で連続して自殺者が出たと言う内容だった。なんでも「男子高校生(15)と女子高校生(15)が相次いで自殺したことを受け教育委員会が調査に乗り出した」と書かれている。背中を汗がじわりとつたった。男子高校生は俺で間違いない。俺と同じ年の女子高校生って、まさかとは思ったが、ネット上にはそれ以上の手がかりはなかった。
俺がずっとスマホで情報を探していると凛はまた覗き込むようにディスプレイを見て「どうしてリクちゃんは十六年前のことが気になるの?」と言った。
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