08話
「お祭りだぁ!」
「落ち着いてください」
やっと落ち着いてもらえる、会場に着いてさえしまえば人が沢山いるということでもっと考えて行動をするようになるだろう。
少なくとも「早く早く早く」と急かされなくて済む、付いて行くだけであっという間に時間が経過してくれる。
はぁ、でもこれは毎年のことだからこの状態の早穂の相手をしてこそ夏が云々と考える自分もいて難しかった。
「真乃のテンションが低いだけだよっ、見てよこの晴樹をっ」
「弱っていますね」
「うーん、晴樹も真乃も駄目だなぁ」
駄目扱いされても構わない、あとは食べ物なんかを売っている屋台が彼女の相手をしてくれる。
軍資金にそこまで余裕はないものの、それでも頑張って付き合わなければならないことに変わりはないがな。
「ぐっ、私がお金持ちなら全部の食べ物を買って食べるというのに、まあいい、それでも今日は楽しめるだけの金があるからな」
「変なキャラを作っていないでゆっくり楽しめ」
「はーい」
途中からというか最初からこちらのことなんて意識になかったが別行動をする意味もないから付いて行く、というか、この状態で放置するのは危険だからそうするしかないという状態だった。
俺に心配をされなくても真乃がちゃんとやるとしてもしっかり見ておかなければならない。
「私、これを買います、晴樹さんはどうしますか?」
「おう、俺はもう少しぐらい見てからにするよ」
「分かりました、すみませんこれを一つお願いします」
広いわけでも有名というわけでもないのに毎年沢山の人間が来るこの祭りがいつまでも続けばいいと思った、次に行くときもこの二人と一緒に行きたいともな。
賑やかなのに静かな感じに満たされていると「お待たせしました」という真乃の声に反応して戻ってきた。
「すぐに食べないなら持っておいてやるよ」
「どうせなら温かい方がいいので食べたいですが……」
「大丈夫、早穂ならあそこにいるぞ」
もう沢山買ってあるから三人で移動して食べればいい、それからでも十分見て回ることができる。
「早穂、向こうで食べようぜ」
「んー」
とまあ、わざわざ行かなくても既に食べていた早穂を連れて移動開始、意外にもすぐにいい場所が見つかって座ることができた。
祭りの時間が近づくまでは早穂の家で過ごしていたわけだが、そこでも大して休めなかったからこの時間は幸せだった。
「むしゃむしゃむしゃ――うんっ、美味しいっ」
「はは、そう言ってもらえたら嬉しいだろうな」
「って、晴樹もちょっとは買って食べなよ」
「俺は中盤ぐらいの時間に買うよ、早めに食べると腹が減るからな」
「うーん、毎年これなんだよなぁ、でも、買ったやつはあげたくないし……」
気にせずに食べてくれと言って空を見ておくことにする、毎年やっていることで祭りの日限定の日課となっているから今年も守れてよかったと言える。
一人なら自由に最初から最後までできることではあるが、それでもこうして二人と行けた方がいいことには変わらない。
「早穂さん、それだけ買ったということはもうお金が残っていないんじゃないですか?」
「ふふふ、今回のために一万円を用意してきたから大丈夫さ」
「一万円……? え、それぐらい持ってくるのが普通なのでしょうか……」
「別に正解なんてないから気にしなくていい」
できる範囲で楽しめればそれでいい、これだけはずっと変わらないことだ。
「どうぞ、箸も奇麗なやつだから気にならないでしょ?」
「いや、ただ俺が自分の意思で買っていないだけなんだから気になるぞ」
「いや、買っておいてあれだけどお腹いっぱいになってきちゃってね、食べてくれるとありがたいんだけど」
「それでも――」
「いいからっ、ちょっとだけでもいいから一緒に食べようよ」
いやだからちゃんと食べるつもりなのだが……、まあいいか。
礼を言って食べさせてもらって美味いなとそんな誰でも言えるようなことを口にした。
この賑やかな中で食べると尚更そう感じる、だから毎年求めて行きたくなってしまう。
「あれ、早穂じゃん」
「おおっ、我が友よっ」
女子なのに一人……いや、たまたまいまだけ別行動をしていただけか、件の女子は「そうだ、どうせなら一緒に見て回らない?」とそのまま早穂を誘う。
「我が友よ、残念ながら一緒に遊びに来ている仲間が――」
「いいから行こうよっ、どう見ても早穂のアホな勢いに付き合える感じじゃないんだからさ」
「ああっ、晴樹っ、真乃っ、助けておくれっ」
「いいから行こー!」
マジかよ、祭りのときのテンションバク上がり状態の早穂がどうにもならないぐらいの相手なのかと震えた、ちょっと待ってくれなどと言って止めていたらどうなっていたか分からないというところからもきている。
「ということで真乃、いまからは二人だけだがいいか?」
「はい、付き合ってもらえるならそれで大丈夫ですよ――あっ、つ、付き合うって別にそういうことじゃないですけどねっ」
「真乃がよければ別にいいがな」
どっちの意味でもな、まあ、本人がいまは祭りを楽しむモードになっているから重ねて余計なことを言ったりはしない。
「ん……?」
「行くか、いまので腹が減ったからもう買って食べるよ」
「は、はい」
焦らなくてもまだ時間はある、花火なんかも見られるからまだまだ楽しい時間が続きそうだった。
「晴樹さん先程のことなんですけど」
「もう始まるぞ、終わってからでもいいか?」
「嫌です、これをちゃんと話してからじゃないと花火も落ち着いて楽しめません」
予想通りだ、だってこの時間になるまでずっと難しそうな顔をしていたからだ。
ほとんど分かっていたようなものなのに敢えて口にしたのは試したいからではなく、地味にこの祭りの花火を見るのが好きだったからだ。
「どうしたよ?」
「先程のあれ、さり気なく……えっと」
「ちょっと移動するか、ここだと人が沢山いて喋るのには向いていないからな」
見られればそれでいいから真乃の手を掴んで抜け出す、これは真乃が俺と決めてくれているからこそできることだった。
早穂に対してすることは全くない、仲がいいからといってべたべた触れるような人間ではないのだ。
だからこういうことをしている時点で自信を持ってもらいたいところではあるが、まあ、踏み込もうとしている側だとそうもいかないよなということでこちらからも動くことにした。
「消去法というわけじゃないから勘違いしてくれるなよ」
「仮にそうでも私を選んでくれるのであれば嬉しいです」
「そんなことを言うな。で、やたらと気にしている先程のことだが、真乃の想像通りだぞ」
「やっぱり……もう、さらっと言わないでくださいよ」
「はは、顔が面白かったぜ」
実はこっちの方が見られるんだ~なんて言える場所を知らないから会場から離れたのはいいが目的地がなかった、いまここで話というやつもできてしまったのも影響している。
「悪い、ちゃんと立ち止まって見たいよな」
「ここからでも大丈夫ですよ」
「そうか、じゃあこっちの方はどうする?」
「どうするって……晴樹さんがいいなら私は一歩進んだ関係になりたいです」
お、おお、ここまで急に変わるものなんだなぁ、こういう変化をしたことがないから分からない。
だって急に変わるということは急に相手の見え方が変わるということで、それはもう少し前とは違う差に困惑したことだろう。
俺だったら逃げてしまうだろうな、好きなのに逃げるなんて馬鹿なことをしてただただ時間だけを無駄にしていたと思う。
「一応聞いておくが最近になって急に変わった理由はなんだ?」
「私は中学生の頃ぐらいからちゃんとアピールをしていましたけどね」
「それは嘘だろ、二人きりになるのを避けていたぐらいなんだぜ?」
まあ、部活で放課後に一緒に帰ることが難しくなっても意外と合わせてくれて帰ることなんかができたが、それ以外ではいま言ったのが事実だ。
「……甘えたくなるからですよ」
「それなら気にせずに甘えてくれよ、断ってくるもんだから毎回不安な気持ちになっていたんだぞ」
「む、無茶を言わないでくださいよ、それができるのであればここまで苦労はしていないですよ」
「真乃ならできるだろ、最近の真乃なら特にそうだ」
「はぁ、できませんでしたよ。……でも、やっぱり好きなんです」
分かりやすく響く、不安そうな顔をしているのは少し気になるところではあるが相手は俺だからそうなる。
「そうか、ありがとよ」
「……花火が見えないじゃないですか」
意外と早めに行動したのがよかったのかまだ時間はきていないみたいだから心配はいらない、それにいつまでも抱きしめ続けたりなんかはしない。
「それならこうだっ」
「きゃあっ!? こ、怖いですよっ」
「ははっ、これならよく見えるだろ?」
「まあ……そうですね、物凄く子ども扱いをされている気分になりますが気にしないことにしておきます」
「大人から見たら俺らはみんな子どもだよ」
そのこともこちらのことも気にする必要はないから花火の時間を楽しんでほしかった。
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