第45話 帰る場所

「燃えろ全砕一撃オール・スラスト!!!」



 炎を纏った槍が、氷竜アイスドラゴンの鱗を砕く。



 ドオオオオオンッッ!!!



 最期、咆哮の響きを残して、氷竜アイスドラゴンは体を地に倒した。


 ……ディーさん、すごすぎる。

 ていうか、全砕一撃オール・スラストってバリエーションあるんだ。


 心機一転、再出発した僕らは、特に邪魔も入らず、その日の夕方には島に到着した。待ちきれないとばかりに一人飛び出したディーさんを3人で追いかけていると、すでに氷竜アイスドラゴンと、対峙していたのだった。


 ディーさんは生前、この氷竜アイスドラゴンにも一人で挑んで勝っている。僕達の援護なんて全く必要とせず、倒してしまった。


「あっけなく終わったな」

「そうですね……」


 『疾風のクランウィンド』と島内で鉢合わせた場合、全砕一撃オール・スラストを見られてしまうと間違いなくディーさんの正体がバレるので、僕達3人でなんとかして目眩ましするという作戦だった。だがそれも、彼らが撤退したことで必要なくなった。


「僕、煙弾打ってきます」

 船を泊めた場所の近くにそれっぽいものがあったはずだ。


「一緒に行く」

 セイが僕に続く。

 この島は全体が氷竜アイスドラゴンの縄張りなので、魔物はいないはずだけど、セイが一緒にいてくれると心強い。


「じゃあ、私は島内を一通り見てくる。何か珍しいものがあるかもしれない」

 エルさんは髪を後ろに1つにまとめる。鳥になって上空から島内の様子を確認するようだ。


「わかりました。じゃあ集合はここにしましょう。ディーさんはどうしますか?」

「俺はここにいる」

「了解です」


 それから、僕たちが煙弾を打って解体業者が到着するまでの間で、エルさんは果物やキノコを収穫しまくっていた。それを見て僕は、ネオへのお土産だろうな、と一人にやにやしてしまうのだった。


 そのキノコが、以外にも高値で売れることになるのだが、それはまた別の話。



 そんなこんなで、『氷竜アイスドラゴン討伐』を達成した僕達は、4日後にクランハウスへ戻った。


「「リーダー!!」」


 門を開けると、前方の玄関が勢いよく開いて、双子のミーシェとオルフが目を輝かせながら、駆け寄ってきた。


 僕達が『氷竜アイスドラゴン討伐』に出向いた同日に『森の悪魔タランチュラ討伐』に向かったはずだが、見たところ怪我はないようだった。良かった。


森の悪魔タランチュラ、倒しましたわ!」

「褒めて褒めて!!」

「倒したの!? すごい!!」


 信じていなかったわけではないけど、まさか本当に倒してしまうなんて……。


 森の悪魔タランチュラは無数の目と8本の足を持つ巨大な体躯で、毒をまき散して攻撃してくる恐ろしい魔物だ。僕だったら一瞬で死んでる。


 無邪気に喜ぶ2人が末恐ろしくなってきた。一体どうやって倒したんだろう。


「どうやって……」

「皆さん、おかえりなさい」


 2人の後ろからネオが歩いてきた。

 ちょっと会ってなかっただけなのに随分と久しぶりに感じる。


「無事で何よりです。積もる話はあるでしょうが、一旦中に入りましょう。エミーさんがお菓子を用意してくれてます」

「エミーさんのお菓子!」

 思わず声が上ずる。エミーさんのお菓子は安心する味がして好きだ。ほんのりとした甘みが、昔、母が作ってくれたものと似ていた。


「リーダー、好きよね」

「たくさんあったよ!」

 双子が片方ずつ僕の腕を引くので、そのまま玄関に向かう。


 ……なんか、帰ってきたって感じがする。


 考えてみると、不思議だ。半年前には、一人で死のうとしていたのに。まさか、こんなに仲間ができて、居場所ができて、セイと一緒にいられるなんて。

 全部夢だって言われても納得するかもしれない。


 毎日忙しいけど、その中の、何気ない日常が好きだ。


 たまに寝坊してネオに起こされたり、セイとエルさんの服選びに付き合わされたり、双子が持って来たボードゲームで遊んだり、ディーさんが槍の手入れをしているのを眺めたり、エミーさんからお菓子のレシピを教わったり……。


「リーダー?」

「どうかした?」

 足を止めた僕に、双子が揃って声をかける。


「ううん、なんでもないよ」


 この気持ちは、しまっておこう。


 ずっと、こんな日々が続けばいいのに、なんて。


 僕達の目的は、ディノ・スチュワートへの復讐。


 セイの未練を晴らす。それが、僕の生きる価値だ。

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