第46話 復讐って

 クラン上会リミテッド

 その招待状が届いたのは、『氷竜アイスドラゴン討伐』から1ヶ月後のことだった。



 そう、まさかの、10を果たしてしまったのだ。



 それもこれも、ネオの手腕だった。

 というのも、ネオは『赤竜レッドドラゴン討伐』、『氷竜アイスドラゴン討伐』、『森の悪魔タランチュラ討伐』の3つの依頼を達成したことで、この勢いでいけば中間発表で10位以内に入ることも可能だと考えたのだそうだ。

 そこで、専属契約の打診に来たジャッキー家とメビュアス家に、「残り1ヶ月でより多くの依頼を回していただけた方と契約します(意訳)」というだいぶ勝ち気なことを言い、見事、両方の貴族からこの1ヶ月間でたくさんの依頼をぶんどってみせた。


 ネオ、すごすぎる。それをこなす僕らは大変だったけど……。


 その甲斐あって、僕達は10位に滑り込んだ。

 結局、契約はジャッキー家と交わした。ジャッキー家の当主はちょっと、いやかなり変わった人なので先行きは不安だ。


 何はともあれ、ディノ・スチュワートに接触する機会を得た。そこで、僕達はリビングに集まって話し合っていた。みんな鬼の面はつけていない。夜なので、双子とエミーさんは各自の家に帰っているのだ。



「まず、そもそもクラン上会リミテッドって何をするんですか?」


「国によって違いはあるだろうが、要は懇親会だな」


 クラン上会リミテッドの招待状には、参加者名を記入する欄があった。

 枠は5つだ。僕、セイ、ネオ、エルさん、ディーさんでちょうど5名。全員で行くこともできる。


 エルさんの説明によると、クラン上会リミテッドでは、ただテーブルについて食事を楽しむのだという。ただし席はランダム。同じテーブルの相手と情報交換をするも良し、繋がりを作るのも良し。国内の強力なクランが潰し合ったり、優秀な人材が他国のクランに引き抜かれたりするのを防ぐ意図があるのだという。


「……つまり、ディノ・スチュワートと一緒にご飯食べることになるかもしれないってことですか?」

「そうなるな」


 なんか、一気に参加したくなくなってきた。


 前回対面した時のことを思い出す。息をするのも苦しいくらい緊張したというのに、一緒に食事なんて……。


「この前のクラン総会。ディノ・スチュワートは遅れて来たんだよね?」

 ネオの問いに頷く。

「うん、終わる寸前だったよ」

「それなら、今回も遅れてくる可能性は高いんじゃないかな。ディノ・スチュワートは極力人前に出ないようにしている。王族の顔を立てて、参加はするだろうけど」


 たしかに、ネオの言う通りかもしれない。逆に、最初から席に着いてる想像の方ができない。


「で、お前らはそこで何をしたいんだよ。その男を殺すのか?」

「それは……」

 ディーさんの問いに、言葉につまる。


 そう、その話を僕達はちゃんとしていなかった。ディノ・スチュワートに近づくためにやるべきことが多すぎて、その先の話をできていなかった。


「殺すわけないだろう。そんなことしたら、こっちが悪者だ」

 当然だろう、といった感じでエルさんが言った。


「私の目的は、これ以上被害者を出さないこと。暗殺の事実を認めさせ、償ってもらうことだ。それまでは死んでも死にきれない」


 ……そうだったんだ。


 エルさんの考えを初めて知った気がする。親友の仇を取るために復讐したいのだと思っていた。

 でも、そっか。

 これまで一緒に過ごしてきた時間を振り返る。僕は、ネオほどエルさんのことをわかっているわけではないけど……。


 正義感の強いエルさんは、最初からそのつもりだったんだ。


「セイ、お前はどうなんだ? 殺したいのか?」


 エルさんがセイに尋ねる。僕も知りたい。


「……別に。負けっぱなしは性に合わないってだけ。それに、殺して終わらせるより、苦しんで生きてほしい」


 美少女の口から出てきた言葉とは思えないが、セイらしい。


「……でも、一発くらいはぶん殴りたい」

 セイの目が剣呑に光った。本気だ。本気でやるつもりだ。


「つまり、大枠で私達の目的は、ディノ・スチュワートの失墜ということになりますね」

「そうだな」

 ネオの結論に異論は出なかった。


 少し安心する。しっかり話し合ったことはなかったが、一緒に過ごしてきて、【ディノ・スチュワートを殺すこと】が復讐のゴールだとは思えなくなっていた。


「じゃあ、その会に参加して何するんだ?」

 ディーさんが話を戻す。


「失墜させるって、難しいですよね」

 ディノ・スチュワートは世界1のクランのクラン長リーダーだ。僕達は何ができるというのか。


「奴についてはいくつかわからないことがある」


 エルさんの続く言葉によると、ディノ・スチュワートの謎は以下の3点だった。


 まず、ディノ・スチュワートがどうやって暗殺を遂行していたのか。飛行中に狙撃されたエルさんを除いて、被害者はナイフで背後から刺されて亡くなっている。しかも、その中には人通りの多い場所で殺された人もいる。決して簡単なことではない。どうやって、誰にも見つからずに人を殺せたのか。


 次に、ユニークスキルについてどこで知ったのか。エルさんやリリアンヌさんのように家族にしかユニークスキルのことを話していないような人も殺されている。ディノ・スチュワートはどこから情報を得たのか。それとも、知る手段があったのか。


 最後に、どうしてユニークスキル持ちを殺して回ったのか。動機だ。


「暗殺の方法だが……。セイ、奴は『隠れる者アサシン』というユニークスキルを持っていると言っていたな」

「うん。本人が言ってた」

「おそらく、それは事実だろう」

「でも、ディノ・スチュワートのユニークスキルは『無傷の者アンハート』なんじゃ……」


 事実、ディノ・スチュワートは『負傷しない』ことで有名だ。彼に向かっていた攻撃が当たる直前で弾き返されたという光景を見たという人は多い。『最強のユニークスキル』として有名だった。


「ユニークスキルについては謎が多いが、1人1つという原則があるのなら、『無傷の者アンハート』の方が嘘の可能性が高い」


 エルさんが説明を続ける。 


 もともとエルさんが暗殺事件をディノ・スチュワートと紐付けたのは、以前は冒険者として活動していた彼の足取りが、事件の現場と一致したことだった。彼はクラン立ち上げ前、ソロの冒険者として世界各地を回っていた。そして、そこにいたユニークスキル持ちを殺していたのだ。


 セイが殺された時も、彼はまだ一介の冒険者だった。セイは、仲間にならないかと誘われ、断った後に殺されている。


 エルさんとネオが調べたところ、ディノ・スチュワートが『無傷の者アンハート』を明らかにしたのは『勝者のクランウィナー』立ち上げ時。

 冒険者として活動していた彼が、最強とも呼ばれるユニークスキルをこの時まで隠していたというのは不自然だ。


 もともと『隠れる者アサシン』でユニークスキル持ちを殺しまくっていたディノ・スチュワートは、何かの境に『力』を手に入れて、『無傷の者アンハート』を名乗りだした、と考える方が妥当かと思われる。


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