第38話 火力が足りない
「エルさん!!」
「
ジュウッ
間一髪。
セイがエルさんの前に張った水壁が、炎を食い止める。
よかった、と思ったのも束の間。
第三者がいると悟った
「見つかった」
チッとセイが舌打ちをして、
エルさんを守れたのはよかったけど、僕達の存在が知られてしまった。
「セイっ! 作戦3だ!!」
人間の姿に戻ったエルさんが叫んだ。
作戦3。作戦1、2が上手くいかなかった場合、当初考えていた通り、エルさんとセイの2人で
「リュウは、できるだけ離れたところに逃げて」
セイはそれだけ言うと、
苛立った
その間に、エルさんは腰に差していた剣を引き抜いて、単身で竜の腹に向かって走って行く。
作戦3では、セイが
エルさんの刃が弾き返される。もう一度突き刺そうとするが、
……どうしても、火力が足りない。
エルさんは強いが、エルさんの攻撃では
セイがエルさんに向かっている攻撃を弾いているため致命傷は受けずに済んでいるが、このままじゃ消耗戦で、負ける。
やっぱり、僕達にはディエゴ・デトロイトが必要だ。
セイは今、
僕の安全を第一に考えて、セイは僕にここから離れるようにと言った。
……でも、僕がディエゴを蘇らすことができれば、勝てる。
それに仮に、ここでセイとエルさんを失ったら、蘇らせるのに必要な手がかりがないため、一旦1人でクランハウスに帰ることになる。そうすれば、期間内の任務達成は不可能。
クラン
ほんと、よく考えるととんでもない依頼受けちゃったよね……。
2人を失わずに、
ディエゴ風の像を抱えて、立ち上がる。
すうっと息を吸い込むと、2人に聞こえるように叫んだ。
「セイ、エルさん、2人はそのまま
僕があのバンダナを取って、ディエゴ・デトロイトを蘇らせれば、戦況は変わる。
「リュウ!」
咎めるようにセイが名を呼ぶが、祠めがけて走り出す。
今なら、
縄張りである赤土に足を踏み入れても、
今ならいける。
気持ちが急いて、転びそうになりながらも、滑り込むように祠までたどり着いた。
ディエゴ・デトロイトの忘れ物だという薄い紫のバンダナは、柱にキツく結ばれている。
汗が滲む手で、解こうと試みるが、上手くいかない。
あの村長、どんな力で結んだんだ……。
この瞬間にも、セイとエルさんは
「リュウ、逃げろ!」
エルさんの叫び声が聞こえて、振り返ると……。
「グウウウゥゥゥッ」
低く、僕を威嚇する。
なんか、怒ってる……?
もしかして、このバンダナだろうか。
『あれが
村長の孫の言葉を思い出す。つまり、このバンダナが宿敵の持ち物だと、
もしかして僕、ディエゴの仲間だと思われてる、のか?
「ギャアアアオッッ」
大きく開いた口から、ゴオッと炎が吐き出された。
真っ直ぐに僕へ向かう。
炎に焼かれる前触れのように、熱風が肌を撫でた。
「
炎がいよいよ迫ってきた時、目の前の景色がぐにゃりと歪んだ。
ジュウッッ!
向かってきていた炎の柱が、すべて水の壁に阻まれて消える。
セイが、守ってくれた。
「リュウは私が守る」
静かに響いた声の主を、
それから、先ほどよりも激しい攻防が始まった。
セイは
僕は僕で、バンダナを解こうと試みる。
焦れば焦るほど、手元が滑る。もう少しだと思うんだけど……。
「リュウ、悔しいが、私たちじゃこいつに勝てない!」
バンダナの結び目を引っ張りながら振り返ると、エルさんが肩で息をしながら
「エル、リュウを連れて逃げて!」
セイが
何度も
食事や睡眠は必要としない2人だが、疲れや痛みは感じるらしい。体力や怪我は自然と回復していくが、一定の時間が必要だ。
「は!? それじゃあお前は!?」
「それが1番生き残る可能性が高い!」
セイは自分一人が残って
でも、失敗したら……? 僕はまたセイを失うのだろうか。
8年前、突然セイがいなくなったあの時。僕は、何もできなかった。
今回も、僕はセイを待つのだろうか。そして、どれだけ待っても訪れないセイを探しに行くのだろうか。
そんなの、嫌だ。
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