第29話 人気クランの条件

「まあいい。とにかく、私たちは支払い期限までになんとかして依頼を集める必要があるな」

 エルさんの言葉に頷く。


 僕達は今、デビットさんに借金をしている状態だ。ディノ・スチュワートのことを考える前に、まずはお金を集めないと。


「その方法については、私に考えがあります」

「考え?」

「その前に、人気のあるクランの特徴について説明しますね」


 ネオの説明によると、こうだ。

 依頼者がギルドではなくクランを選ぶ理由としては、主に3つある。


 1.クランの方が安い料金で済む

 2.確実に、素早く依頼をこなしてもらえる(ギルドだと請け負う冒険者が決まるまで待たなければいけない)

 3.手続きが簡単


 これだけ聞くと、ギルドよりクランの方が断然よく思えるが、クランに頼むことのリスクもある。それが以下の2つだ。


 1.期待通りの働きをしていないのに、料金をとられる可能性

 2.依頼内容(報酬)をめぐってクラン側とトラブルになる可能性 


 この前、僕達が請け負った『神隠鳥インビジブルバードの血液採取』の依頼を例に挙げて説明すると……

 クランが依頼を請け負って、神隠鳥インビジブルバードの生息地まで行ったが、神隠鳥インビジブルバードは見つからなかったという場合。

 依頼は達成していないにもかかわらず、移動費などの費用を依頼者に請求するクランもある。また、依頼達成に想定以上の時間がかかった場合などは、追加料金をもらうというクランも多い。


 ギルドは完全出来高制だが、クランは従業員を雇って固定給を渡しているところが多いので、依頼料も実際にかかった労力に依存するという形をとっているのだ。

 まあそれも、クランによって全然違うらしいけど。


 また、『神隠鳥インビジブルバードの血液採取』という依頼をギルドで受けた場合、依頼完了後はギルドがその血液の品質をチェックし、問題がなければ依頼報酬が渡され、ギルドが依頼者に品物を渡すという流れになる。

 しかし、クランの場合は、依頼者と遂行者クランの間に仲介役がいない。ちゃんとしたクランは鑑定士を雇ったり外注したりして品質を保証しているが、多くのクランは依頼者にそのまま品物を渡すことが多いのだという。そこで、品物の数量が異なっていたり、状態が悪かったりすることもある。悪質なクランだと、依頼者が訴えても、誤魔化したり脅したりして、依頼者を泣き寝入りさせることもあるのだという。


 こう聞くと、クランが凄く危険なものに思えるが、逆に難癖をつけて依頼料を安くしようとする悪質な依頼者もいるらしく、クラン側も客を見分ける必要があるらしい。

 クランはその国の軍の管轄だが、そういう小規模な金銭的トラブルはきりがないので、基本介入しない姿勢なのだという。


 つまり、ここまでの話をまとめると、クランはメリットも多い一方で、依頼者側にもリスクはある。

 安全安心をとるならギルド、安い早いをとるならクランといった感じだ。


 なので、ネオによると、人気のあるクランになるために重要な要素は以下の3つになる。

 1.手頃でわかりやすい料金体制

 2.依頼を迅速にこなす実力

 3.高い信頼性


「料金体制についてはこれから考えればいいし、セイとエルさんがいれば大抵の依頼はこなせると思うけど……」


 問題は信頼だ。


 こんな威圧的な制服ユニフォームだし、なおさら僕達を信頼して依頼しようとする人なんていない。僕だったら絶対避ける。


「信頼は実績について回るものだろう? やはり、地道にやるしかないんじゃないか?」

「それもそうなのですが、私たちは返済があるので、こういうのはどうかと……」


 ネオが話した作戦は、少し変わったものだった。


 名付けて『好意の返報性を利用しよう作戦』。

 普通、クランは依頼者からの依頼を受けて、動き始める。でも、僕達は『依頼を達成してから、依頼者を見つけよう』というのだ。


 流れはこうだ。

 『困ってること解決します(無料)』という看板を持って街へ繰り出す。そこで、通行人の困っていることを聞いて、多少時間のかかることでもできることなら解決する。

 お礼を言われたら、「よければ今度、何か依頼があれば『追憶のクランメモリアル』までお願いします」と宣伝し、ついでに割引券付きのチラシを渡す。これを各地で繰り返す。


 人は好意には好意で返そうという性質があるので、多少は依頼が入るだろうという目算だ。僕達にはセイとエルさんがいるので、依頼が入れば、すぐに実力は認められるだろう。


「いくつか人通りが多い場所の目星はついてます。看板だけ用意して、初日は皆で行きましょう」

 もうすでにネオの中で計画は遂行中らしい。さすがすぎる。

 僕なんて「依頼来ないなあ」なんてぼけーっとするばかりで、そんな作戦思いも寄らなかった。


「うん、じゃあ準備ができ次第行こう。それにしても、ネオはすごいなあ」

 そう零した僕に、エルさんがすかさず返す。


「見習うなよ。こいつはずる賢いだけだからな」

「エル様の下についてたから磨きがかかったんですよ」

 ネオがさらりとそう言った。

「どういう意味だ?」

「エル様が真っ直ぐすぎるって話です」

「褒め言葉だな」

「もちろんです」

 噛み合っていないようで噛み合っているやりとりに、二人の仲の良さがうかがえる。


 「仲いいですね」って言ったら、エルさんに否定されるんだけどね。

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