第14話 ネオ加入

「……じゃあ、そこ一緒に行動すればいいんじゃねーの?」


 沈鬱な空気を吹き飛ばすようなジャックさんの声が響いた。


「え?」


「目的は同じなんだし、人は多い方が良いだろ。俺もそろそろ違うとこ行こうと思ってたし、ちょうど良いわ」


「え? あの、ジャックさん」


 ネオさんが戸惑ったように声をかけるが、ジャックさんは立ち上がって荷物を肩にかけると、どんっとお金を机に置いた。


「じゃあ、ネオをよろしくな。お前の話は誰にも言わねえから、安心しろよ」


 それだけ言うと、颯爽と店を出て行ってしまう。


 ……えっと。


 これは、押しつけられた……?


「……行っちゃいましたね」


「はい……」


 ネオさんは、捨てられた犬のような哀愁を放っている。


 なんか、かわいそう……。


「かなりの飽き性で、1カ所に留まるのをよしとしない人なので。むしろここまで付き合ってくれたことが奇跡というか……」


 そのネオさんの声には『これからどうしよう』という戸惑いが明らかに滲んでいた。


「ネオさん、もしよかったら僕達と行動しませんか?」


「えっ、とてもありがたいお話ですが……逆にご迷惑じゃないですか?」


「全然! ねっ、セイ?」


 セイに同意を求めるが……。


「どうでもいい」


「ちょっ!……すみません、ちょっと天邪鬼で」


「嘘じゃない」


「いいからっ!」


 正直すぎるのもいかがなものかと思う。


 まあ、セイはそれでトラブルになっても、相手をひねり上げてしまうんだろうけど。

「……あははっ」


 セイをなんとかして黙らせようと案を講じていると、ネオさんの笑い声が響いた。


「なんか、すみません」


「いえいえ、とっても仲が良いんですね」


 前髪で目元は見えないが、口角は上がっている。


 セイの態度はそれなりに失礼だった気がするが、笑ってくれたなら良いとしよう。


「どうでもいいということなので、ご同行しても良いですか?」


「もちろんです! 僕は仲間が増えて嬉しいです!」


「では、よろしくお願いします。リュウアンさん、セイさん」


「はい、よろしくお願いします。僕のことはリュウでいいですよ。呼びづらいでしょうし、同い年なんですし」


「では、私のこともネオと」


「わかりました! 敬語も、な、なしにしませんか?」


 仲を深めようと思い切って提案すると、ネオはややして答えた。


「……うん、わかった。不慣れなので、変な感じがしますが」


 喉に小骨が刺さったような言い方に、思わず笑う。


「無理はしなくていいよ」


「うん、ありがとう」


 まだ出会ってそんなに時間は経っていないけど、ネオとは上手くやれそうな気がした。なにより、これまで生きてきてセイ以外に友達がいなかったので、同い年の同性の友達ができたようでなんだか嬉しい。


「じゃあ、今後について話し合おうか」



 ネオを含めて話し合った結果、もうしばらくこの地でお金を稼ぐことになった。


 と言うのも、小型竜ヴーフの討伐で旅費は十分貯まったのだが、ベリージェに長期滞在することを考えると、もう少しあった方がいいという結論に至ったのだ。

 3人で行動するとなるとそれなりにお金がかかる。


 もちろん、ベリージェにもギルドはあって、お金を稼ぐ手段はある。

 でも、ベリージェには、セイを殺した(と思われる)ディノ・スチュワートが率いる『勝者のクランウィナー』がある。


 ネオ曰く、強力なクランのある地では、そのクランに依頼が流れるため、ギルドの規模が小さいらしい。この地である程度お金を稼いでいた方が、困らないだろうという話だった。


 というわけで、僕達3人はギルドに来ていた。


「これは?」


 セイが指した依頼書を見て、首を横に振る。


「それ『★★★★黒4』だよ」


「大丈夫」


「セイならできちゃうだろうけど、僕達がそんな依頼受けたら絶対目立つ」


 明らかに貧弱そうなぼくと、14歳の美少女セイと、(失礼だけど)あまり強そうには見えないネオの、3人チームなのだ。

 昨日は、帰りにジャックさん達と合流したおかげで、ジャックさんを含めた4人チームで小型竜ヴーフを倒したような感じになって、『さすがジャック……』のような視線を浴びた。

 ジャックさんは、見た目通り、このギルドじゃ有名な腕利きの冒険者だったらしい。


 僕達が高難易度の依頼をこなしたら、昨日のジャックさん達のように、ユニークスキル持ちがいるんじゃないかと疑うだろう。僕もセイも、バレたら困るのだ。


「これなんてどう? 採取系だけど、報酬は高いよ」


 ふと目についた依頼を指すと、隣のネオが「これはちょっと……」と濁した。


「なに?」


「この、ミノグリアグサは、絶壁にしか生えていないという珍しい植物なん……だ」


 ネオは本当にため口に慣れていないらしく、敬語を使わないようにしようという涙ぐましい努力が伝わってくる。

 真面目だ。でも、そんな無理はしなくていいんだけどな……。


「絶壁?」


「報酬が高いから挑戦しようとする人は多いんだけど、大体がそのまま帰ってくるって話。ジャックさんも、『あれは無理。下手したら死ぬぜ』って、この依頼だけは受けようとしなかった」


「そ、そうなんだ……」


 ジャックさんがそう言うなら、かなり難しいのだろう。次を探そう、とした時。


「それにしよう」


 セイの声が響いた。


「セイ、聞いてなかったの!? 下手したら死ぬって……」


「リュウこそ、聞いてなかったの?」


「え?」


「『狙う者わたし』にうってつけの依頼でしょ」


「あっ……」


 言われて初めて、確かにそうだと思った。


 セイの『狙う者スナイパー』は『どんなに遠方でも、魔法を出現させることができる』スキルだ。


「行こう」


 セイは僕達に背を向けて、受付に向かう。


 ……やっぱり、セイはかっこいいなあ。

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