第13話 同志
「偶然、酒場で会ったんだ。しけた
「似たような話?」
「もう4年も前の話だが、北のイーチェンにいた時、名の知れてた冒険者が暗殺されたんだ。それも、刃物で心臓を一突き。
めちゃくちゃに強い男で、ユニークスキル『
「あっ、『
〈最強の冒険者『
確かに、何年か前、その話でギルドが持ちきりだったことがあった。
22歳の時、難易度『
死因まで話は入ってこなくて、いろんな憶測が飛び交っていたけど、暗殺だったんだ……。
「その話をしたら、異様に食いついてな」
「エル様は、『
ジャックさんから話を聞いたエンゼルさんは、なんとイーチェンまで行って、当時のことを調べたのだという。鳥になれる彼女にとっては朝飯前だったのだろう。
そして、エンゼルさんは確信した。
リリアンヌさんの事件と過去のニューラルでの事件、そして『突く
それから、エンゼルさんは他にも似たような事件はなかったのかと世界中の情報を集め始めた。
ネオさんも手伝ったのだという。セイの事件についてはそこで知ったらしい。
「エル様は、何かに気づいたみたいでした。でも、まだ確信はないと言ってました。その矢先のことです」
続く言葉に息を呑む。
「エル様が殺されたのは」
ネオさんが悔しそうに拳を握りしめた。
状況的に、ユニークスキルで鳥になって飛行していた時に、狙撃され、墜落したと見られる。
周囲に建物はなく、開けた場所だった。ユニークスキルを明かしていなかったため、不審死として処理されたらしい。
「エル様は身の危険を感じていたようです。手紙を残していました……一連の事件の首謀者は『
驚いて、思わずセイを見る。
エンゼルさんはそこまでたどり着いていたのだ。そして、口封じに殺された。
セイはいつもと変わらない、何を考えているのかわからない表情で、話を聞いていた。
「私はそれを確かめるために、ベリージェに行くつもりです」
ネオさんの目的は僕達と同じらしい。
まさか、ここでこんな出会いがあるなんて……。
「……私はすべて話しました。教えてください。あなたが、死んだはずのセイ・ユートピアを名乗っている理由は何ですか」
「……」
真剣な目でセイを見据えるネオさんに対して、セイは沈黙を貫く。何かをじっと考えているようだった。
僕は僕で、どう答えるのが正解なのか、考えあぐねていた。
本当のことを言ってしまっていいのだろうか。
話を聞いていてより強く思ったのだ。この
「リュウに任せる」
「え……?」
セイの言葉に、ネオさんとジャックさんの視線がこちらに向いた。
「えっと……」
どっと緊張する。
二人は僕の一挙一動を見逃すまいとばかりに注目している。
セイに何かを任されたことなど、初めてな気がする。
いつもセイは、僕の先を歩いていて、行動力があって、正しい判断をする。
考える。
二人に嘘をつくのは得策なのだろうか。
まだ会って短期間。二人が信頼に値する人なのかどうかはわからない。
でも、ネオさんの話に嘘はないような気がした。整合性があったし、嘘だとしたらあまりに設定が細かすぎる。
なにより、僕達にそんな嘘をつく理由なんて無いはずだ。
僕の力のことを話すのはリスクがある。でも……。
ネオさんと僕達の目的は合致している。もしかしたら、なにか協力し合えるかもしれない。
「彼女は、8年前に死んだセイ・ユートピア本人です。僕のユニークスキル『
そう一息に言いきって、二人の様子を窺う。
「「…………」」
たっぷり沈黙して、僕とセイを交互に見た後。
「なんだって!?」
「嘘ですよね!?」
二人同時に叫んだ。
しーんと店内が静まりかえる。客も店員も僕達に注目していた。
大声をあげた二人は、そんな周りの様子にも気づいていないようだ。
「すみませんっ! なんでもないです!」
慌てて立ち上がって謝ると、不審そうに僕を眺めた後、ややして店内は通常運転に戻る。
……なんで僕が謝ってるんだろう?
自分の『雑用係』魂にも困ったものである。
なんとなく納得いかないまま椅子に座り直すと、まだ呆けた様子の二人に声をかけた。
「あの、ジャックさん、ネオさん。信じられないと思いますけど、本当なんです」
「……簡単には信じられねえな」
「そうですよね……」
結構勇気ある告白だったのだが、確かにこんな荒唐無稽な話なかなか信じられるものではない。
いくら全貌のわかっていないユニークスキルだからって、死者が蘇るなんて、まるでおとぎ話だ。
「僕達の目的は、ネオさんと同じで、ディノ・スチュワートに復讐することです。セイを殺した犯人が本当にディノ・スチュワートなのか。それを確かめるために、ベリージェに向かうつもりです」
「復讐、ですか……」
ネオさんは、前髪で隠れた視線を落とした。
「私には、そんな力ありません」
「えっ、でも……」
ベリージェに行くっていうのは、そういう意味じゃないのだろうか。
「ディノ・スチュワートの本性を暴きたいとは思っていますが、正直、自分にはどうしようもないとわかっているんです」
「どういう意味ですか?」
「ディノ・スチュワートの力は強大です。地位も確立している。例え真実を叫んでも、私の声は簡単にかき消されてしまうでしょう」
「でも、被害者もたくさんいるんですよね!? そういう証拠があれば……」
「エル様は強い人でした。でも、殺されてしまった。ディノ・スチュワートに勘づかれたのでしょう。でも、エル様についていた私は、今こうして生きています。彼にとって、私はそれほど取るに足らない存在だということです」
……ネオさんの姿が、自分と重なるようだった。
エンゼルさんはネオさんにとって、僕にとってのセイのような人だったのかもしれない。
強くて、眩しくて、いつも前を歩いている人。
そんな人が死んで、胸にぽっかりと穴があいてしまった。
その隙間を埋めるために、ディノ・スチュワートの元へ行こうとしているのかもしれない。
……でも、ネオさんは僕とは違う。
セイが死んで、僕は、セイを殺した犯人に復讐することを考えただろうか。
いや、一度だって無かったかもしれない。
確かに、犯人が憎かった。許せなかった。
それでも、僕よりもずっと強かったセイを殺してしまった犯人に対して、復讐しようなんて思えなかった。
僕は、自分の無力さを、誰よりも理解していた。
僕はずっと自分のことばかりだった。
ネオさんと自分が似ているだなんて、おこがましいにも程がある。
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