第12話 ユニークスキル持ち連続暗殺事件

「……ネオ、どういう意味だ?」


「『狙う者(スナイパー)』の所持者、セイ・ユートピアは14歳の時に、地元のエミュス王国で殺害されています」


 ネオさんの説明は正確だった。一つの誤りもない。


 なんでそんなことを知っているんだ。

 ここはエミュスから離れているし、当時、公爵家の娘だったセイの死が大きく取り上げられるといったことはなかった。きっと配慮されたのだろう。


 それに、もう8年も前の話なのだ。


 見破られたという衝撃と、何故この人が知っているのかという疑問が渦を巻く。


「つまり、こいつらは嘘をついてるってことか?」


 ジャックさんが僕達に向き直る。

 真実を見定めようとする目だ。


「……嘘はついてません」


 セイが物怖じせずに、そう言った。


「じゃあ、どういうことだよ」


「そもそも、その8年前に死んだっていうのが誤りでは」


「それはねえな。ネオ、お前がそう言うってことは、被害者なんだろ?」


「そうです」


「被害者?」


 僕の呟きに、ネオさんが答えた。


「セイ・ユートピアは、ディノ・スチュワートの被害者の1人と思われます」


「ディノ・スチュワート!?」


 思わず大きな声が出て、ハッと口をつぐむ。


「おい、何か知ってるな?」


「い、いや、有名人の名前が出たから驚いただけで……」


 ジャックさんが僕の肩に手を回した。


「正直に話そうぜ?」


 汗が首筋を伝う。


 どうしよう。この場合、どうするのが正解なんだ。


 明らかに、この2人は何かを知っている様子だ。誤魔化しきれるとも思えないけど……。


「……たしかに、私は一度死んでいます」


「……は?」


 セイの言葉に、ジャックさんは間をおいてから反応した。


 あっ、言うんだ……!


「私は蘇ったんです」


「そんな話、誰が信じるんだよ」


 ジャックさんは冗談だと捉えたようだが、セイはそんな気配を一切見せずに返す。


「これ以上話を聞きたかったら、まずそちらのことを話してください。何を知ってるんですか」


 沈黙が場を支配する。

 

 ……気まずい。


 その時、ぽつりと滴が頬に落ちた。


 どうやら、雨が降ってきたらしい。


「この話は長くなりそうだ。まずはギルドに戻ってから、腰を据えて話そうか」


 そのジャックさんの提案に、僕達は一旦帰路を急ぐことにしたのだった。



 飲食店にて。僕達は4人で卓を囲んでいた。


 ちなみに依頼達成によって手に入ったお金はなんと、14700エタ。そこから、ジャックさんたちへのお礼を引いて14000エタが手元に残った。

 僕の給料の……悲しくなるので、考えるのはやめにする。


 ジャックさんたちは「貰いすぎだ」と言って受け取ろうとしなかったが、今日の晩ご飯をおごってもらうことで話がまとまった。


「ネオ、説明してやれ」


「はい……私は、1年前まである人のもとで補佐をしていたんです」


 ネオさんが語った内容はこうだった。


 ネオさんは冒険者になる1年前まで、ミルドランド軍で、高官の補佐として働いていたのだという。軍といっても、ネオさん自身は文官として入って、業務は主に経理や高官のスケジュール管理だったそうだ。


 ネオさんがついていた高官、エンゼルさんは、国で起こった犯罪について取り締まっていた。その中でも、ある事件について執拗に調べていた。それが、ここミルドランド中央都市、コットランドで起こった暗殺事件。

 被害者は、ユニークスキル持ちだった。


 被害者は、『捕まえる者(キャッチャー)』のリリアンヌ・ファゴット。

 エンゼルさんとリリアンヌさんは幼なじみで、2人はとても仲が良かったのだという。


「2人の出会いは、命心の会ジャッジの会場だったと聞いています」


命心の会ジャッジ?」


「公にしてはいませんでしたが、エル様もユニークスキルの持ち主でした。『飛ぶ者フライ』、鳥に変身できるスキルです」


「鳥……」


 世の中にはいろんなスキルがあるんだなあと感心する。


「リリアンヌさんもエル様も、ユニークスキルのことは周囲に明かしていなかったんです。命心の会ジャッジの内容を知れるのは、本人だけなんですよね? エル様は、命心の会ジャッジから帰った後、家族に『周囲には秘密にしなさい』と言われたそうです。リリアンヌさんも、似たようなことを家族に言われたと」


『ユニークスキルを持つと短命になる』


 まことしやかに囁かれている噂には、理由がある。


 ユニークスキル持ちは、その強力さ故に、常に危険と隣り合わせだ。

 ユニークスキル持ちの子どもが誘拐されるという事件は度々度々耳にするし、若くして亡くなる人が多いというのも事実。


 エンゼルさんとリリアンヌさんが、周囲に力のことを隠していたというのは、納得がいく。

 セイのように、超強力で対人戦闘能力が高いスキルならばともかく、そうじゃないユニークスキルは、公にしたら最後、格好の餌となる。


 そう考えると、僕の『呼び戻す者サモナー』は、絶対にバレてはいけない。いくらセイみたいに強い死者を蘇らせることができても、僕自身は激弱なのだ。簡単に誘拐される自信がある。


「それなのに、リリアンヌさんは殺されてしまいました」


「それは、ユニークスキルと関係あるんですか?」


「エル様も、最初はそうは思っていなかったみたいです。でも……」


 続くネオさんの話はこうだ。


 リリアンヌさんは背後から心臓をナイフで刺されて亡くなったのだという。場所は、街中の、人がそんなに少なくなかった道だった。


 それにも関わらず、目撃者はいなかった。


 通り魔の仕業として処理されたが、エンゼルさんはどうしても納得がいかなかった。リリアンヌさんは常にナイフを携帯しているくらい警戒心が強い人だったのだという。


 いろいろと調べている内に、ミルドランドの南の都市、ニューラルで過去にも似たような事件が起こっていることを知った。


 調査を進めていたエンゼルさんは、その事件の被害者もまた、ユニークスキル持ちだったことを知った。その人も、家族にしかユニークスキルのこと話していなかったそうだ。


 エンゼルさんは、2つの事件は関係しているのではないかと疑った。


 でも、それ以上の情報はなかなか得られなかった。


 その時、エンゼルさんはジャックさんと知り合ったのだという。

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