第7話 ユニークスキル

『ユニークスキル』

 それは、魔力が高い人にのみ顕現する特別な力。ひとつひとつ能力が異なる、唯一無二の力。

 全貌は解明されておらず、ユニークスキル持ちが世界に何人いるかもわからない。

 田舎の方では都市伝説のような扱いをされている。それくらい未知で、強力で、稀なものなのだ。


 10歳の時の一斉魔力診断で一定値以上の魔力が認められた者は、ユニークスキル『知る者インテリ』を持つ魔女が主催する命心の会ジャッジに招聘される。

命心の会ジャッジでは、魔女が自ら子ども達に会って、ユニークスキル持ちかどうかを判断するのだという。


 ユニークスキルは、本人でさえも気づかないことが多く、命心の会ジャッジで魔女に教えてもらって初めて、その能力を自覚して使えるようになる者がほとんどだと聞く。


 セイは例外で、幼いときから無意識に遠距離で魔法を使っていたため、家族や周囲の人はセイがユニークスキル持ちであると確信していたそうだけど。


 ちなみに僕は、一般的に魔法が使えるようになる5歳をとうに過ぎても魔法が使えるようにならなかったので、一斉魔力診断にすら行かなかった。

 ただし、これは、その件でいじめられていたことを知っている母の配慮からであって、僕もわざわざ笑いものになりたくなかったので、納得の上だ。

 この時にはもう、自分は魔法は使えないのだと諦めていた。


命心の会ジャッジの魔女に会いに行こう」


「へっ……!」

 セイの言葉に素っ頓狂な声を上げてしまう。


「ユニークスキルのことはあの人に聞くしかない」


 ……確かに、万が一、セイが今ここにいるのが僕のユニークスキルの力だったとしたら、その詳細を語れるのは『知る者インテリ』の魔女だけなのかもしれない。


 やっぱり自分がユニークスキル持ちだとは到底思えないけど、セイの話を聞く限り、手がかりはそれしかなさそうだ……。


「……わかった」


 それにしても、魔法も使えない20歳の僕が、『ユニークスキル持ってるかもしれないんで見てください』だなんて。死んだ母もびっくりだ。


「3番の方、お待たせいたしました」


 受付の女性の声が聞こえて立ち上がる。手元にある札には『3』の文字。夜の森のシュワルデッガーの鑑定が終わったようだった。


 ◇


「僕の3ヶ月分の給料……」


 思わず呟いた僕に、セイは淡々と「そうなんだ」と相づちを打った。


 討伐依頼の完了報酬と素材の買い取りで手に入った額は、普段の僕の3ヶ月分の給料に相当するものだった。これまで僕が安く雇われすぎだったのか、セイが凄いのか……。


 両方だとは思うが、たった一日、しかも数時間でこんなに大金を手に入れられるなんて、これまでの自分はなんだったんだという気さえする。


「これ、セイが持っててよ」


「なんで?」


「僕じゃ、落とすかもしれないし。そもそも、セイが稼いだんだし」


「依頼を受けたのはリュウでしょ?」


「それはそうだけど……怖くて」


「怖い?」


「大金持ってるの、そわそわするというか」


 こんなにまとまったお金を手にしたのは、マジェスタからもらった指輪を売ったとき以来だ。

 あの時はあんまりお金の価値をわかっていなかったし、そんなことより国を出るのに必死だった。


「いいけど……」


 そう言ってセイが差し出した手の上に、お金が入った麻袋を置く。


命心の会ジャッジの魔女って、ミルドランドにいるんだっけ?」


「そう」


 中央国家、ミルドランド。文字通り、大陸の中央に位置する国。僕達が今いるクーリアの隣国。


「ここはどこ?」


「クーリア。ミルドランドの中央都市までは、馬車で2日もあれば着く、はず」


 とは言っても、僕も行ったことはない。


「それまでといいけど」


「怖いこと言わないでよっ!」


 セイの言葉で、思い出す。今はこうして普通に僕の隣を歩いているセイだが、いつ消えてしまうのかわからないのだ。


 セイの言葉通りだったら、僕が作ったあの木像に戻ってしまうのかもしれない。


 もしかしたら、それは1秒先の出来事なのかもしれない。そう考えると恐ろしかった。本当にもう二度と会えなくなるかもしれない。


「……どうしたの?」


 立ち止まった僕に、セイが振り返った。月明かりに照らされた瞳は、明確に僕を映していた。


 僕はもう彼女の背を越してしまったというのに、彼女は依然として大きい。


 まるで、あの時に戻ったようだった。


 心臓が高鳴る。セイはずっとずっと僕の憧れだった。


「僕は……」


 その中の特別な感情に気づいたのは、失った後だった。


「セイが好きだ」


 自分でも驚くほど、するりとその言葉が零れた。


 もう後悔はしたくない。


「そんなこと、知ってる」


 セイはそれだけ言うと、ふいと前を向いて再び歩き出した。その表情は読めなかった。


 それでも、拒否されなかったことに、自然と口角が上がる。


 セイが生きていたらと何度も夢想した。でも、その中でも、この気持ちを伝えることはできなかった。


 だって、僕は魔法が使えない上に、母の実家に居候して疎まれている存在。

 対してセイは、公爵家のご令嬢でユニークスキル持ち。

 あの時に仲良く出来ていたのが奇跡みたいなものだった。


 セイが死ななくても、僕らはいずれ別れる運命だったのだと思う。


 僕と彼女の歩む道はあまりにも違った。


 こんな風に再会できる日がくるなんて、本当に思わなかった。

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