第五十話 【土下座】乱舞
《対象:ミザリーの火魔法の防御に成功しました。カウンタースタンバイ。【バレルロール土下座】ヘッドオン。ライク・ア・シューティングスター》
ミザリーが放った殲滅級の高等火魔法を、俺は――というかスキルが、だが――【土下座
「クラスS魔法を完全に防いだ上に突破するだとッ!?」
《風魔法を最大出力で圧縮し発動。【バレルロール土下座・
俺の身体は空中で姿勢を整え、ミザリーに頭頂を向けた【土下座】の構えを取り、
俺の知覚は確かに、俺の頭頂が空気の壁を貫いて、一筋の流星となったのを感じ取った――――
――――ゴギャギャギャギャリィィイイイイイッッッ!!!!
森の樹木の
っていやこれ俺の頭どうなってんのぉおおおおおおッッ!!?? 髪は!? 頭皮は無事なのかッ!? ってそうじゃないミザリーてめぇなに人の頭に遠慮なく剣を打ち付けてくれてんだよぉおおおおおおッ!!?? もう痛みとか完全に感じ取れない次元なんですけどぉおおおおおッ!!??
《対象:ミザリーの健在を確認。【バレルロール土下座・
「ぬぅッ!? 異なる属性の魔法の同時展開だと!? しかもこれは……っ、回転が増して……ッ!!??」
《対象の防御を突破します。【土下座手技四十八手】をアクティベート。【触腕指】》
「この高速回転の中で指の動きのみでわたしの剣を弾いただとッッ!!??」
《風魔法〝
いや【土下座】してるのは俺なのに相手に〝頭を下げろ〟とかおかしいしそもそも俺にしか聴こえてないからぁああああああああッッ!!??
謎の力場でせめぎ合い、火花を散らしていた俺の頭頂とミザリーの愛剣の均衡は、次々と新たな一手を繰り出す【C・D・P】のアナウンスの声と共にアッサリと崩れ去った。
炎と雷を纏い更に回転力を増した【バレルロール土下座・
そしてこれまでで最大の風魔法が俺の回転に寄り添うように纏われ、俺の頭頂は遂にはミザリーの防御を貫いた――――
「カハ――――ッ!!??」
俺の頭頂は彼女の着けた胸甲へと突き刺さり、回転と纏う炎と雷によって穿ち
《対象:ミザリーの敵意、害意、殺意の完全消失を確認しました。全ての戦闘行動をキャンセルします。対象の脅威度をFに変更。飛翔限界まで残り二秒です。限界到達点から地表までの予想落下時間はおよそ二十秒と推定。解析報告を終了します》
は?? え、いやちょっと待ってええええッ!!??
何してんの!? え、ミザリー気絶した!? っていうかこんな空の上でいきなり支配を終了すんなぁあああああああああッッ!!??
森の樹木よりも遥か上空で。
空に投げ出された俺の身体が、何の気構えも無く突如自由を取り戻す。手足は動くし声も出せる……って、だからってどうすりゃいいんだよぉおおおおおおおッッ!!??
「ミザリー!! おいミザリー大丈夫かッ!?」
とにかく声の限りに、今の今まで戦っていた相手に声を投げ掛ける。アナウンスの声を信じるなら、あと十数秒後には地面に激突する運命が待っているのだから、それはもう必死に呼び掛けたよ畜生ッ!!
その切なる思いが届いたのか。
「ごほっ……!! あ、ああサイラス、わたしは生きてるぞ。いやぁ、効いたなぁあの一撃は」
「ああ、良かった無事だったか……って、言ってる場合か!? こんな上空から落ちたらタダじゃ済まないんだぞ!?」
彼女から返事が返ってきて、俺はまずは安心したいところだったがそれはこの状況が許さない。なんとかして無事に着地するには、一体どうしたら……!?
「落ち着けサイラス。わたしが合図を出すから、そしたら二人で同時に風魔法を発動するんだ。イメージは地面からわたし達に向かって突風が吹くようにな。集中して魔力を練り上げろ」
「いやおま、なんでそんな冷静なの!? 失敗したら二人揃ってペシャンコ――――」
「
「――――ッ!!」
ミザリーのその言葉は、まるで俺の身体を……心を雷のように撃ち貫いた。
そうだ。たとえユニークスキルの力を使ったとはいえ、俺はたった今までこの【剣姫】と――憧れを抱いていたAランクハンターのミザリーと、互角に渡り合っていたんだ。
その俺に有効打を与えられた彼女がこんなに落ち着いていて、その彼女が本気で戦ってくれた相手であるこの俺がこんな醜態を晒している……? そんなの、胸を貸してくれた彼女への侮辱でしかないじゃないか……ッ!!
「……すまん、取り乱した。合図は任せる!」
「それでいい。全力でありったけの魔力を練り上げろ!」
「応ッ!!」
腹は
さっきまでの戦いのように、スキルが発動していた時の、あの感覚をイメージして……!!
下を見れば、見る見るうちに地面が近付いてくる。
「呼吸を合わせろ! 三……二……一……、今ッ!!」
「はああああッ!!!」
俺とミザリーの二人で発動した風魔法が、俺達の身体に下から叩き付けられる。
俺はその衝撃を確かに感じたと同時に、意識を手放していた――――
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