第四十七話 【剣姫】とのパーティー依頼



「わたしが重ねた経験から察するに、スキルの任意発動ができないというのは理解不足からくるものが多い」


「理解?」


「ああ。例えば【剣術】スキルの派生の一つ【スラッシュ】は、相手を強撃によって斬り伏せるという動作……型を正確に身体に覚え込ませ、それを効果的に使いこなすことで目覚める者が大半だ」


「型への理解と、熟練度合が関係すると……?」



 Aランクハンターのミザリーとの訓練は今日で三日目。俺は彼女の『パーティーを組む』という提案を受け入れ、訓練場ではなくこのピマーンの街に隣接する危険地帯、〝木霊こだまの森〟へと足を踏み入れていた。

 パーティーを組むと言っても何人も集まるなんて大袈裟な話ではない。ただ単純に、彼女の受けた依頼に同行するだけのものだ。そして今日はアンネロッテとニーナは留守番で、俺とミザリーの二人きりでの行動となる。


 ……なぜか二人は非常に不機嫌そうだったが。



「そうなるだろうな。だからわたしは――女神が下界の者の努力を認め授けるという説は正しいのでは、と思っている」


「想像を絶する努力を重ねたであろうミザリーが言うと、確かに説得力があるな」


「わたしなどまだまだだ。しかしサイラス、これはお前が求めている答えではないのだろう?」


「……お見通しだったか」



 茂みを掻き分け、道すがら目に付いた薬草類を採取しつつ森の奥へと歩きながら、俺は彼女に教えを乞うていた。


 ――――スキルの任意発動の方法。

 もちろん汎用の誰しもが得られるスキルではなく、俺が自らの過ちを雪ごうと決意するキッカケとなったユニークスキルの、である。


 今まで俺の得たユニークスキル【土下座】には何度も助けられてきたが、実のところ一度たりとてそれを己の意思で制御できたことは無い。いつもあの無機質なアナウンスに良いように操られ、自由になるのは謝罪の言葉を吐く口と、思考だけだった。


 もし……もしもだ。

 あのスキルを――最低でも戦闘用の【土下座】だけでも制御できれば、戦闘の幅は大いに広がるだろう。贅沢を言うならば任意で【C・D・P】――【コンバット土下座プログラム】を発動させることができれば、発動中のあのとんでもない強化状態にいつでもなれるはずなのだ。



「さては、何か強大な力……例えば伝説のユニークスキルでも秘めているのか? それが使いこなせていないとでも?」


「……ミザリーだから信用して話すが、まあその通りだ。生憎あいにくと自分の意思で制御できなくてな、最近ようやく発動条件に当たりが付いてきたところなんだ」



 ほう、とミザリーが興味深げな顔で振り返った。

 その長い黒髪と同じ切れ長の漆黒の瞳を鋭くして、俺のことをじっと見詰めてくる。



「スキルが発動してしまえば、俺は自分の意思では身体を動かせなくなる。どうにかスキルの恩恵を受けつつ、自由に使いこなすことができないかと思ってな」


「なるほど、〝自動発動オート型〟のスキルということか。それはまた、ずいぶんと珍しいモノを得たのだな……」



 スキルの発動形態に関しては、大まかに分けて三通り存在する。

 常にスキルの効果を発現させる〝常時発動パッシブ型〟スキル、ここぞという時に自分の意思で発動させる〝任意発動アクティブ型〟スキル、そして状況や条件が満たされた時に勝手に発動する〝自動発動オート型〟スキルだ。



「やはりオートスキルだと、任意でコントロールするのは不可能なのか?」



 俺の見解でも、ユニークスキル【土下座】は自動発動オート型スキルに分類されるだろうと考えていた。ミザリーも同意見らしく、俺の質問に難しい顔をして腕を組んでしまっている。



「スキルに定められた条件や状況……それによって発動するスキルだからな……。聞いて良いものか分からんが、発動中サイラスはどのようになるんだ?」



 遠慮がちに尋ねてくるミザリーだったが、その目はどうにも好奇に輝いているように見えた。

 まあ伝説などにしか登場しないユニークスキルの存在を仄めかしてしまったんだし、俺のような駆け出しの新米ハンターに真摯に対応してくれる彼女になら、詳細は省くにしても多少話しても問題はないだろう。



「何もできないな。スキルに身体を支配されて……脅威や敵意が感じられなくなるまでは、まるでスキルの操り人形状態だ。もっともそのおかげで、この前はゴブリンライダー達から身を守れたんだけどな」



 若干の自嘲も込めて、肩を竦めて答えを返す。

 本当に、あの時は【C・D・P】が発動してくれて助かった。そうでなかったら、今の俺が五体満足で居られたか分からないからな。



「なるほど。やはりわたしが感じた違和感は正しかったな」


「ミザリー?」



 合点がいった……と。そう言うように頷きを返してくるミザリーに、俺は首を傾げる。



「いやな、お前達に食事を奢った時に、ゴブリンライダーを三体倒したと言っていただろう? あの日の訓練をかえりみるに、サイラスのあの時の実力では難しいのではないかと思ってな」


「何かしらの切り札が存在すると、その時には分かっていたわけか」


「まあ、それがまさかユニークスキルとは思わなかったがな。しかし自動発動オート型とは……」


「何か不味マズいのか?」



 納得してもらえたなら話は早いのだが、ミザリーは今度は難しい顔をしてしまう。俺は彼女が何に対して深刻になっているのかなんて、もちろん分からない。



「……確かこの近くに水場があったはずだ。そこで一旦休憩とし、少しばかり腰を据えて話そう」



 そう言って会話を一旦取り止めたミザリーに先導され、俺はさらに森の奥へと歩いて行ったのだった。




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