第四十四話 戦闘の勝利とEランクへの昇格
《目標捕捉。【バレルロール土下座】ヘッドオン……ナウ。ゴー・ユア・ヘッド》
【バレルロール土下座】ってなんなのさ!? という俺の胸中のツッコミも勘案することなく、そのアナウンスと共に俺の足は力強く大地を蹴り、【スライディング土下座】の時のように目標へ向けて低空で跳躍する。しかしこれまでと違いそこからさらに、風魔法が身体に
加速する視界の中で俺が理解できたのは、俺の頭が壁に囲まれたゴブリンライダーに向けられたこと。そして風魔法の作用で身体が渦を巻くように回転し始め、なおかつその状態で【土下座】の姿勢を整えたこと――――
――――ドグシャアアアッッ!!!
「「ゴギャアアアアッッ!!??」」
あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッッ!!?? 何コレ超痛いッ!? 何なんだよコレはああああッ!?!?
螺旋を描くように錐揉み回転しながら低空で飛ばされた俺の頭が、迎え撃った狼の顎を粉砕しそのまま騎乗するゴブリンの腹を穿ち、ヤツらの背後の壁に突き刺さった。
いやふざけんなよ……!? 囲んだなら無理にこんな事しなくても魔法か剣で倒せばいいじゃないか!!? 何が【バレルロール土下座】だドチクショウが!! くそぉっ! コレ絶対狼の牙で頭切れてるからぁッ!?
《ゴブリンライダー一体の脅威度をFに変更。対象の残りは二体です。背後に回り込んだ個体を確認。脅威度判定:A。
回転も突進も止まった俺は憤慨する。しかし同時に響くアナウンスにより、即座に俺の怒りは押し止められた。
俺自身が背後から急速接近する殺意に気付くよりも一瞬早く、その声と共に俺の身体が強制的に動かされる。
俺の足は地面を、そして今しがた俺自身が生み出した土の壁を次々と蹴り、壁を駆け上がったのだ。
「ゴブゥウッ!?」
「グルアアッ!?」
壁を駆け登る俺の足下で、ゴブリンと狼の驚いたような声が重なる。
〝飛んで火に入る夏の虫〟?
ふと浮かんだ前世の記憶からの言葉。しかしまた格言か
《対象を捕捉。【ジャンピング土下座・ストンプ】をリ・アクティブ。風魔法を起動》
なぜなら、アナウンスが無機質に、そして(どっちに対しても)無慈悲に次の〝
俺の身体は壁を駆け上がった勢いそのままで宙へと舞い上がり、回転して体勢を整える。膝がたたまれ、俺の目は真下でちょうどこちらを見上げたゴブリンの目線と重なった。
背中に、風の魔法が叩き付けられる――――
《【ジャンピング土下座・ストンプ】ヘッドオン。ゴー・ユア・ヘッド》
――――グシャアベキボキバキンッッ!!!
額が、膝が、圧し潰す両手が。直前に目を合わせたゴブリンを、それが乗る狼ごと叩き潰し
ぐっうううおおあああがあああああッッ!!??
額は間違いなく割れている。手の平も擦り剥いてたり勢いよく叩き付けられたり、膝だってセルジオさん謹製の膝当てがあるからって衝撃までは殺しきれない。
《ゴブリンライダー一体の脅威度をFに変更。対象の残りは一体です》
それでも身体は
《【ジャンピング土下座・ストンプ】をアクティブ。風魔法を起動》
まるでスローモーションのようにこちらに駆けてくるゴブリンライダーを観ながら、頭に響くアナウンスを聞いていた。しかしそんな時――――
「サイラス様!!」
聞き慣れた声が……彼女の声が耳に届いたと同時に、俺に向かって駆けるゴブリンの首が、横切った影に切り裂かれた。
血飛沫を上げて狼の背から落ちるゴブリン。そして騎手の落下に戸惑ったのか速度を緩めた狼の魔物だったが、続けざまに再び横切った影によって刺し貫かれ、断末魔の咆哮を上げた。
《ゴブリンライダー一体の脅威度をFに変更。対象のゴブリンライダー達の全滅を確認。状況終了。周囲に敵意は感知されませんでした。解析報告を終了します》
そのアナウンスと共に身体に自由が戻り、俺は思わずその場に膝を着いた。
「サイラス様! ご無事ですか!?」
最後の一組のゴブリンライダーを討伐した彼女――アンネロッテが、心配そうな顔で駆け寄ってくるのが見える。スキルの自動回復に釈然としないながらも感謝しつつ、俺はそんなアンネに手を挙げて応えた。
こうして激戦を終え、当初は俺がライダー達を引き付けている間にアンネが一組ずつ排除する作戦だったが、スキル発動のせいで予定は大幅に変更され俺が三組、そしてアンネが三組――最初に交戦していた二組も当然倒したんだろうな――のゴブリンライダーを討伐したのだった。
その後俺達は、俺が負った怪我がスキルによって癒されるのを待ってから、急ぎピマーンの街へと帰還した。
ゴブリンライダー達の素材を持ち帰り、それを証拠として草原の脅威をハンターギルドに伝えるためだ。
ギルドに駆け込んだ俺達は、草原でゴブリンライダー六組に襲われたこと、それらは倒したがもっと大規模な群れや集落が作られている可能性があることを伝え……それによって最低限の義務は果たせたと思う。
ギルドは早急な調査を約束してくれたし、本当に群れや集落が形成されているのなら、その対処はランクが上のベテランの仕事になると説明してくれた。
ランクアップを目指すFランクの駆け出しである俺達の出番は、もはや無いだろう。
しかし街の危機に関する貴重な情報提供を為したとして、予定されている調査で裏付けが取れれば、情報料として報奨金が出るかもしれないとのことだった。
危険や脅威が無いに越したことはないし不謹慎ではあるのだが、ちょっと金は欲しいと思ってしまったのは内緒だ。
そしてゴブリンではなくゴブリンライダーではあったものの、討伐した記録は俺達の実績と認められ、無事にEランクに昇格できたことも嬉しかったな。
まあスキルのせいとはいえ無茶をした俺が、アンネと、迎えに行ったニーナに怒られたことを除けば、おおむね良い結果に終わったんじゃないかな。今回の負傷は全てスキルによるものだし、スキルの恩恵ですでに完治していたし。
とりあえず今日は非常に疲れたので、二人を連れてシャロンの店にでも繰り出して、美味い食事とヨーグルトを食べよう。
あとは二人の機嫌がそれで治ることを祈るばかり……だな。
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