第四十三話 激戦と【土下座】



《――――ゴー・ユア・ヘッド》



 例の【CコンバットD土下座Pプログラム】が発動し、スキルのアナウンスが響くと同時、俺の身体はゴブリンライダー達に向かって地を蹴った。

 スキルが敵と判定したのは四体……四組のゴブリンライダー達だ。残りの二体は離れた位置でアンネロッテと戦ってるみたいだな。



「ゴブブアッ!?」

「グルルルルッ!」



 今まで逃げ回っていた獲物が突然向かってきたせいか、ゴブリンも乗り物になっている狼型の魔物も唸り声を上げて威嚇してくる。



《土魔法を起動。続いて【スライディング土下座・デコイ】をアクティブ。目標地点を設定。ヘッドオン……ナウ》



 駆ける俺の頭に逐一響くアナウンス。それと同時に俺の意思とは関係なく魔法が発動する。

 そして発動した土魔法はどんな攻撃かと思いきや、俺の眼前からライダー達に向けて、なんと地面を整地し始めた。


 そういえば【スライディング土下座】って言ってたもんなぁ。滑りやすいように整地したんだな、きっと。その後の【デコイ】ってのが気になるけども。

 背の高い低いも関係なく、草の生い茂った草原に一本の道が出来る。なかば諦めの境地に至っていた俺はせめて今後の戦闘の参考にしようと、自由になる目だけは閉じるまいと覚悟を決めた。


 地面から足が離れた。【スライディング土下座】に移行する直前の滑空が始まり、俺の身体が即座に折りたたまれる。膝を曲げ、頭を下げ、手を伸ばして……そして【土下座】の姿勢となる。



 ――――ズシャアアアアアアッ!!!



 着地と同時に俺はそのまま滑り始めた。しかし今回の俺の膝は、ディーコンの街でセルジオさんの作ってくれた膝当てのおかげでダメージは無い。手は痛いけど! 手袋もしてくりゃ良かったなチクショウ!!


 そのまま初めての時のように頭から突っ込むのだろうと心構えをした俺――――だったのだが、痛みが来ない……?


 気付くと俺の身体は、何に激突することもなく停止していた。



「ガアアアッ!!」

「グルルアァーーッ!!」



 頭のすぐ上で響く狼の獰猛な声に、俺はヤツらの直前で動きを止めたことを悟る……って、どうすんだよコレ!? 身体は……ダメだまだ支配されてるぅ!?



《【スライディング土下座・デコイ】の効果を確認。続いて【ジャンピング土下座・ストンプ】をアクティブ。風魔法を起動》


「ガアアアッッ!!」



 ヤバい喰われる――――殺意の一際込もった狼の声にそう思った瞬間、折りたたまれていた俺の身体が急激に伸ばされ、地面に弾かれるようにして空へと舞い上がった。



《【ジャンピング土下座・ストンプ】スタンバイ。風魔法にて落下速度を調整。目標地点を指定……ヘッドオン。レディ――――》



 デコイ……つまり囮だということか。そんなことを空に打ち上げられた俺は、回転する視界を通して考え付く。目の前で【土下座】の姿勢で止まった獲物が居れば、確かに相手の意識はそこに……下に集中するだろう。そして空中の俺の身体が再び【土下座】の体勢を整えた瞬間、俺の背中に魔法の風が叩き付けられた。ああ、ちょうど真下に一組のゴブリンライダーが居ますねぇ……ってちょッッ!?



《ゴー・ユア・ヘッド》



 ひぃいいいいいッ!!?? 地面が、ってかゴブリンライダーが凄い勢いで眼前に迫って――――



 ――――グシャアアッッ!! ベキッ! ゴキンッ!!



 あぐがアァァァァァァッッ!!?? そんな風魔法で勢い付けなくてもぉおおおおおおおッ!!??


 俺の身体はまるで投擲された石の如く、【土下座】の姿勢のままで真下に居たゴブリンライダーに叩き付けられた。俺の額は騎乗していたゴブリンの頭頂を捉えそのまま狼ごと押し潰し、下敷きとなった狼の魔物の身体に突き刺さった膝はその背骨を、肉をし潰した。


 ストンプ……まさに叩き付けて潰すという語意の通りに、俺の身体は一塊りの質量兵器となったワケだ。風魔法で加速してたから死ぬほど痛いけど!! 特に額が!!!



《ゴブリンライダー一体の脅威度をFに変更。対象の残りは三体です。攻撃を確認。脅威度判定:A。回転回避ドッヂロール



 一組のゴブリンライダーの無力化に成功するも、息継ぎの暇は与えないとばかりに告げられるアナウンス。俺の身体は勢いよく横に転倒し、そのまま素早く転がって潰したライダーから距離を取った。

 激しい動きに翻弄されながらも俺の視界は、今まで俺が居た所を通り過ぎる、狼の凶悪な顎と牙を映していた。



「ゴブブゥッ!!」

「ガルルルルッ!!」



 仲間がられたことで殺意の増したゴブリンライダー達の声。俺の身体はその殺意に反応するかのように、地面を転がっていた状態から素早く起き上がる。



《孤立したゴブリンライダーを確認。土魔法並びに風魔法を起動。【スライディング土下座】の派生スキル【バレルロール土下座】をアクティブ。ライク・ア・シューティングスター》



 俺の身体から魔力が放出される。俺の眼がているのは、恐らくは転がって回避する時に攻撃を仕掛けてきた個体だ。そいつに向かって一気に駆け出し、加速する俺の身体。放出し解き放たれた魔法が、射程距離に入り発動する。



「ギャウッ!?」

「ゴブゥッ!!??」



 発動したのは土魔法の【土の壁グランドウォール】か……? 孤立したゴブリンライダーの背後と左右を囲む形で土が隆起し、壁を形作り包囲する。しかし走る俺の身体はそれで止まるどころか更に加速――――ってちょっと待てまさか……ッ!?



《目標捕捉。【バレルロール土下座】ヘッドオン……ナウ。ゴー・ユア・ヘッド》




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