第四十一話 草原での討伐依頼
『それじゃあニーナ、いい子で待っててくれよ?』
『うん! 何か面白いこと教えてもらったら、お兄ちゃんにも教えてあげるね!』
『楽しみにしてるよ。それじゃあバーバラ院長、ニーナのことをよろしく頼む』
『ええ、サイラス殿。どうか怪我などしませんように……』
教会と孤児院の清掃依頼を完遂した、次の日の朝。俺は早速、ランクアップのために討伐系の依頼を受けることにした。
採取系の依頼はそこらのハンターには負けないほどにこなしてるし、奉仕系は教会の依頼でクリアしたから、あとは討伐系の依頼さえ受けてやり遂げれば、次のランクであるEランクへの昇格条件を満たせるからな。
そしてEランクに上がりさえすれば、薬草類の豊富な通称〝
「アンネ、ここがこの街の初心者向けの狩り場の草原なのか? あんまりハンターの姿は見えないけど」
「サイラス様。ギルドで聞いたところ、このピマーンの街のハンターのランク毎の分布は、Cランクの中堅が最も多いそうです」
「……木霊の森のせいか?」
「その通りです。ランク制限のある危険地帯が近くにあるということで、必然的に中・高ランクのハンターが増えたようですね。あの森は魔物の数も多く、身入りも良いそうですから。その代わり、獲物の取り合いが絶えないそうですが」
「競走について行ければランクは上がり、ついて行けないヤツは稼げずにこの街を去るってことか」
「この草原だけではどうしても稼ぎが不満でしょうからね……」
そんなアンネ……アンネロッテの説明を聞きながら、改めて草原を見渡す。
視界の届く限り緑、緑、緑の、草の大海原だ。街から比較的近い辺りの草は踏み倒されたり刈り込まれて短くはなっているが、遠くなるにつれて草の丈が伸びているようだ。
草で視界が通らないから、魔物が潜むのにはもってこいな気がする。草の深い辺りを探索する時は充分に気を配らないとな。
「それで、ゴブリンか
「はい。ゴブリンでしたら五匹以上、ホーンラビットでしたら十匹以上で依頼達成です。換金可能部位はゴブリンは魔石のみ。ホーンラビットは毛皮、肉、角、魔石ですね。討伐証明部位はゴブリンでしたら右耳、ホーンラビットは角を持ち帰る必要があります」
「どっちかに的を絞れれば良いんだがな。索敵は任せても大丈夫か?」
「お任せください。遭遇した場合はそのどちらも討伐すれば良いかと。常設依頼ですから数が足りずとも換金はしてくれますし、討伐数も記録に残りますから」
「それもそうだな。油断して怪我だけはしないようにして、あとは成り行きに任せよう。ニーナに心配を掛けないことを最優先にしないとな」
「承知しました」
魔物と戦うのはディーコンの街でケナル草を摘みに行った時以来だな。
あの時はホブゴブリンと取り巻きのゴブリン達が相手だったっけ。あの時に初めてユニークスキル【土下座】が派生して……うっ、思い出すと頭が痛くなるな……!
と、とにかくだ! ニーナを独りぼっちにさせないためにも、堅実に、安全に魔物を狩って帰ろう!
◇
「サイラス様、後ろです!!」
「くっ!?」
アンネの鋭い声に、身を前方に投げ出しながら振り返り、同時に短剣を振るう。短剣を握る手には何の手応えもなく、しかし相手を怯ませることには成功したようだ。
俺はそのまま転がるようにしてソイツとの距離を取り、改めて敵対する相手を確認する。
狼型の魔物に
「サイラス様、マズイです。囲まれています」
俺の背を守るように駆け寄ってきたアンネが、あまり聞きたくなかった情報を伝えてくる。
「数は? どれだけ居る?」
「二匹一組の気配が……六組です。恐らくは……」
「ゴブリンライダーの部隊か。確かに広い草原では理に適ってるな」
遮蔽物の無い草原での狩り。そこでものを言うのは、やはり機動力だろう。
ゴブリン種の中で多少知恵が回る個体は、稀にこのように乗り物になる魔物を調教し使役するとは聞いていたが……。
「ライダーだけで集団を作ることはまずありません。恐らくはコレらを支配する上位存在と、相応の規模の群れ……もしくは集落が存在する可能性が高いです」
「おいおい、俺達は駆け出しのFランクだぞ? よりによって何で初の討伐依頼でそんなのを引き当てちまうんだよ……!?」
「おそらく、ですが……」
アンネの推測では、ハンターの
このピマーンの街のハンターの分布は、その多くが危険地帯である〝木霊の森〟に集まっている。低いランクのハンターは街を出て居なくなり、結果駆け出し用のこの狩り場でゴブリン達が狩られることなく生き残り、群れを形成するに至ったのではないか、と。
だとすると非常にマズイだろう。
ハンターだって自分の食い扶持が懸かっているのだから、身入りが良い方を選ぶのは当然だ。しかしその結果ゴブリンが放置されて群れが出来、こんなライダーなんかでもない、ジェネラルやロード、キングなんて存在が出現してみろ。ハンターギルドの信用や沽券に関わってくるだろう。
現状
「アンネ。ライダー相手に、お前なら何匹までなら勝てる?」
油断なく周囲に気を配りながら、俺は気持ちを落ち着けながら、アンネに声を掛けた。
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