第二十二話 ママゴトハンター
「あったよお兄ちゃん! こっちー!!」
「またニーナに先を越されたかぁ。すっかり薬草探しの名人だな」
「観察力が優れているのでしょうね。見る目があるのは生きる上でも重要だと思います」
「えへへー♪」
ニーナの枷が外れてから一週間が経った。
あれから俺達は、ニーナの体力の回復と旅の支度に路銀稼ぎと、割と多忙な日々を送っていた。
まずニーナの体調だが、やはり子供なだけあって沢山食べて沢山休んだおかげで見る間に良くなり、痩せぎすだった身体や頬はふっくらと柔らかさと瑞々しさを取り戻した。
そして保護した当初の印象通り、健康を取り戻したニーナはとても器量が良く、非常に将来有望と言ってよい美少女へと変貌した。
元気になった姿を鍛冶屋のセルジオさんに見せに行ったら、まるで見違えたと驚愕に目を見開いていたな。
「よし、少し離れてろよー」
俺はニーナの頭を撫でてやってから後ろに下がらせる。そして魔力を放出して詠唱を開始した。
「大地よ、我が意に染まりて身を解せ――――【
これは薬草の採取用に調整し直した土魔法だ。前世の記憶にある〝ラノベ〟ではこうして土魔法で大地を耕し、農業や開拓の役に立てている描写があったからな。それをイメージして詠唱文を考えて、魔法の効果を改造したのだ。
俺の魔法によって薬草の周囲の土は耕したての畑のように柔らかく解れ、子供のニーナでも大した力を要さずに簡単に薬草を抜くことができる。
「簡単に抜けちゃうね♪ お兄ちゃんすごい!」
「本来ならば防壁生成や礫弾の魔法である土魔法を、薬草採取になど……」
「堅いことを言うなよアンネ。ここは学院でもなければ軍でもないんだ。悪事を働くでもないんだし、魔法を有効活用したって良いじゃないか」
「まあ、それはそうですが……」
相変わらず無表情で抑揚に欠ける語りのアンネロッテが溜息を吐くが、それは彼女が未だに俺のことを、公爵家の人間として認めてくれているからだ。
実際には家名は名乗らせてはもらえているものの、追放……放逐と変わらない処遇なのだけれどね。
「……うん! 十株一束で、これでちょうど十束分だねお兄ちゃん! まだ探す?」
「いや、じきに昼になる頃合だ。ちょうどいいし今日はもう街へ引き返そう。近くこの街を出るからな、ゆっくりと休んで英気を養おう」
「旅の支度の確認もしなければいけませんしね」
「はーい!」
素直で明るい良い子だな、ニーナは。
現在のニーナの服装は、普通の町の子供が着ている平服だ。ただこうして野外に出るので、ワンピースの下にズボンを履かせて、靴も旅用に見繕った丈夫で軽い革製の物だ。
彼女のチャームポイントである
「さあ、それじゃ街へ帰ろう」
こうして俺達は三人で
「おっ、〝ママゴトハンター〟のご帰還だぜぇ!」
「パパぁ〜! 今日はどんな依頼受けたんでちゅかぁ〜?」
「バッカおめぇ、決まってんだろそんなモンよお!」
「「「薬草採取っ!!」」」
「「「ぎゃっはははははは!!」」」
ハンターギルド・ディーコン支部の扉をくぐった俺達を迎えたのはそんな、俺を
この街でハンター登録してからこちら、俺は路銀稼ぎのために精力的に依頼をこなしてきた。しかしニーナをあまり一人にはしておけず、かと言ってアンネ一人を危険な討伐依頼に向かわせる訳にも、俺が
なので当初の予定通り、ニーナを同行させても危険の少ない、採取系や奉仕系の依頼を中心に数をこなしてきたのだが……。
「本当に無礼な……! サイラス様、今日こそは無礼討ちの許可を――――」
「出すわけないだろうアンネ、落ち着け。彼らは
「うぅ……! あの人たちこの前もお兄ちゃんのこと笑ってた……」
「ニーナも落ち着けよ。気にするなって」
「だって、あたしが居るからお兄ちゃんは――――」
「お前を連れて行くと決断したのは俺だ。お前を守ると誓ったのもな。そのための行動なんだから、恥じることは何も無い。だから気にするな」
「あぅ……」
そう言いながらニーナを抱える腕に少し力を込めて、安心させてやる。
ハンターって連中は腕っ節が売りな部分もあるだけに、粗野な人間が多いからな。ニーナが怯えてしまうので、ギルド内ではこうして抱いてあげているのだ。
すでに一仕事終えたのか、ギルド併設の酒場で景気の良い笑い声を上げている連中を一瞥してから、ギルドの受付カウンターへと向かう。
「あら、サイラス様。それにアンネロッテ様に、ニーナさん。こんにちは」
登録当初から俺達の担当をしてくれている、このディーコン支部の受付課課長を名乗る女性、セシリア嬢が、今日も笑顔で迎えてくれる。
「薬草の採取をしてきた。常設依頼の物なので、買取を頼む」
「はい、承知しました。採取した薬草を
「こちらです。本日は十株一束の物を十束採取して来ました」
アンネが今日の早朝から採取した薬草を全てカウンターへと置く。一束一束、薬草の大きさもできるだけ揃えて麻紐で束ねてある。このひと手間で随分と査定に違いが出ると、他ならぬセシリア嬢がコッソリ教えてくれたのだ。
「相変わらず根まで綺麗に採取されていますね。大きさもわざわざ揃えてくださり、助かります。計算に回しますので、お品物はこの場で引き取らせていただきますね」
「頼む。それと、セシリア嬢――――」
「サイラス様、いい加減そのセシリア
俺の言葉は、そんなセシリア嬢のお願いに遮られてしまった。
いや、だがなぁ……。うら若き女性を親しい間柄でもない俺が呼び捨てにするのも、いかがなものだろうか……?
チラリと同行者であるアンネの顔を窺うと……いや、見なきゃ良かった……! アンネさん!? なんでそんな敵を見るような鋭い目でセシリア嬢を見てるの!?
しばしの
「分かった。それじゃあ……セシリア
「あら、お堅いのですね? ですがまあ、それでも結構ですよ」
言ってから再びアンネを窺うと、何やら今度は勝ち誇ったような眼差しをセシリアさんに向けている。
いや、そんな気がするだけだ。アンネは基本的に無表情なんだしな。俺にたまたまそう見えただけだろう。そう思うことにしよう。
「それで、どうなさいましたか?」
「あ、ああ。俺達は、近い内にこの街を出ようと思っていてな。この一週間ほど色々と有益な情報を教えてくれたし、一言礼をと思ってな」
「え、この街を出て行かれるのですか……? ニーナさんも居ることですし、私はてっきりこの街でアンネロッテ様と所帯を持って、定住されるのかと……」
「んな!?」
「ふええっ!?」
俺の間抜けな声と、アンネの滅多に聞かないような驚きの大声が、受付カウンターの奥へと吸い込まれていった――――
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