第二十話 初のハンター依頼と謝罪相手



 鍛冶師のセルジオさんとの約束の日となり、ニーナを連れて宿から出て、枷の処置を頼む前に依頼を見てみようと、俺達はハンターギルドに立ち寄った。


 運良く昨日俺達の登録をしてくれた受付嬢に当たったので、ニーナの事を紹介しておく。

 もし俺達に何かがあったとしても、後々別れることになったとしても、こうしてちゃんとした知り合いを作っておけば将来何かの役に立つかもしれないからな。



「とても可愛らしいお嬢さんですね。申し遅れました、わたしはここ〝ハンターギルド・ディーコン支部〟受付課の課長、セシリアと申します。サイラス様、アンネロッテ様、そしてニーナさん。どうぞお見知り置きくださいね」


「こちらこそよろしく頼む。いつまでこの街に留まるかは分からないが、昨日話した通り俺達が受ける依頼には、基本的にニーナが同行する。だから極力危険が少ない依頼を紹介してもらいたい」


「かしこまりました。少々お待ちください」



 そう言ってセシリア嬢は他の者に受付を交代してもらうと、掲示板から数枚の依頼書を剥がして手に持ち、俺達に手招きをしてくる。誘導された先は、ギルド内に併設された酒場のテーブルだった。

 彼女は俺達を座席に座らせると自身も対面に着席し、持ってきた依頼書をテーブルに置いて見せた。



「現在ご紹介できる、比較的安全な依頼はこちらになります。その中でFランクのサイラス様方にお受け頂けるのは、この二件ですね。ポーションの素材となる〝ヒイル草〟の採取依頼か、市街の地下水道の調査依頼です」


「詳細を聞いても?」


「はい。まず採取依頼ですが、こちらは街の薬師様からのご依頼です。状態の良いヒイル草をできるだけ大量に。十株につき銀貨二枚の報酬となります。こちらは常設依頼となりますので、見付けられましたら採取していただければ常に買い取らせていただきます。ただし状態によっては買取不可となりますので、ご注意ください」



 なるほど、薬師の求める素材か。確かに怪我の治療薬であるポーションは、あればあるけ売れるだろう。薬師が素材を常に求めているとしても不思議ではないな。



「地下水道の調査というのは一体? とても危険の少ない印象は抱けませんが……」



 もう一件の依頼について、アンネロッテが尋ねる。

 確かに調査依頼など、駆け出しの新人ハンターが完遂できるとは思えないのだが。



「こちらは常設とは違い、定期的に行政から依頼されるものですね。地下水道の水量やゴミの溜まり具合を調べたり、鼠や蟲などの害獣害虫の分布調査が主になります。あとは前回調査との齟齬を発見し、それを報告するという依頼です」


「設備の保安点検というものか」


「はい。我が街の新人ハンターの名と実績を高めるための簡単な依頼です。何か異変があれば、魔物や害獣ならギルドに改めて依頼が出されますし、設備等の不備ならば専門の業者に対応をお願いします」



 なるほどな。聞けばこの街の地下水道は広大な上、この街ができるずっと昔の遺跡の物をそのまま利用しているらしい。なので定期的にこうして調査をして、不具合が見付かれば即座に対応するらしいのだ。



「だが、地下水道の調査はどう考えても一日仕事だな。ここは常設依頼のヒイル草採取にしておくか。セルジオさんの鍛冶屋にも寄らないといけないからな」


「セルジオさんの所に? 装備の新調でもご依頼なさるのですか?」


「いや、この子……ニーナの枷を外すのをお願いしていたんだ。そのための道具を、今日までに用意してくれるらしくてな」


「そうでしたか。そういえば旅の方が盗賊を討伐されて、囚われていた子供を保護したと噂で耳にしましたが……」


「ああ、俺達だな。で、捕まっていたニーナの枷を外すために、先日はセルジオさんの依頼を個人的に受けたんだ」


「なるほど。ハンター登録前のアンネロッテ様がギルドで情報収集をしたり、ゴブリンの魔石を売却に見えたのはそれで……」


「なんでも贔屓ひいきにしていたハンターが出世して、なかなか思うように依頼を受けてくれなくなったらしい」


「耳の痛いお話です。早急に上に報告し、対策を練りますね。貴重な市井のお声の報告を、ありがとうございます」



 いや、そんなかしこまられても困るんだけどな。そのおかげでセルジオさんにニーナの枷を外してもらえるのだから、俺としては渡りに船だったんだが。

 だがまあ、こうして依頼を受けてもらえない人への対応策が整えば、長期的にはハンターの信用にも繋がるだろうし、俺も少しは稼ぎやすくなるのかな? そういう意味であるならば、この礼の言葉は素直に受け取っておくべきだろう。


 その後はヒイル草の採取の注意点や、多く自生している場所や外見特徴の詳細等を丁寧に教えてもらった。

 常設依頼ならば買取は基本的にギルドが代行して薬師に納品するらしいが、今回は新人ハンターの初の受注依頼ということで、薬師への面通しと名売りも兼ねて紹介状を持たせてくれた。


 昨日の登録の時も思ったが、このセシリアという受付嬢はまったく偉ぶることも無く、本当に丁寧に応対してくれる。仕事にも真摯だし、非常に好感が持てる女性だな。



「やはりサイラス様はあのような、外面そとづらの良い明るい女性の方がお好みなのですか……っ!」



 ギルドを後にして、そうして無表情ながら明らかに不機嫌なアンネに詰め寄られたのは、もはやお約束のようなものであった。


 そうしてセルジオさんの所に行く前に、先に薬師に挨拶でもと思い店に立ち寄った俺だったのだが――――



「あ、〝暴れん坊サイラス〟……ッ!? ななななぜここに……!?」


「あー。何となく分かったけど、説明を頼むアンネ」


「はい。こちらの薬屋の店主は、領都にてサイラス様が『軟膏の傷薬が効かない』、『使ったら肌が荒れた』と言い掛かりを付けて追放された方です」



 過去の俺よ、一体何をやってるんだお前は……!

 治癒術士の数が少なく確保が難しい世の中で、治療薬を作れる薬師は厚く遇するべきなのに! それを難癖付けて追放するとか、完全に父親である公爵閣下の統治の邪魔をして乱してるじゃないか……っ!



「ま、また私を追放するのかッ!? 二年前にこの街に越して来て、ようやく馴染めて店も構えられたのにッ!!」



 俺を恨みと恐怖のないぜとなった目で睨み付け、身体を震わせて身構えている常設依頼の依頼主である薬師。


 一から別の街で店を構えるほどになるには、一体どれだけの苦労が有ったんだろうか。


 いくら作れば作っただけ売れるポーションや薬の製作技能を持つと言っても、新しい土地では信頼関係から築かなくてはならないだろう。そういったアレコレを想像することしかできない俺なんかがどんなに謝罪を重ねても、とても許しは得られないだろうな。


 だけど、それでも――――



「その節は、大変申し訳なかった……!」


「…………え?」



 完全に身構えていた薬師の男性は、呆気に取られた声を出す。

 それと同時にいつもの、今回はアナウンスが頭に響く。



《心からの誠意ある謝罪を確認しました。ユニークスキル【土下座】をアクティベートします》




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