第十八話 ハンター登録



「ハンター登録料はお二人で銀貨三十枚となります」



 ぐっ……! 痛い出費だが仕方ない。小金だとしても、細々とした依頼を達成出来れば路銀は稼げるんだ。ここは先行投資として……!



「よろしく頼む」



 意を決して俺は、アンネロッテの分も含めた銀貨三十枚を、ハンターギルドの受付嬢に手渡した。



「ひい、ふう、みい…………はい、確かに三十枚頂戴しました。それでは登録証を作成しますので、こちらの登録用紙に記入をお願いします」


「……この項目は全て書き込まなければならないのか?」


「いえ。例えばなどが登録する際は、ファーストネームだけでも結構です。偽名を使っていただいても構いませんが、仮に犯罪を侵した場合などに、身分証となる登録証に偽名が登録されていると、罪が五割ほど重くなります」



 つまり家名は要らないからできるだけ本名で書けということか。この説明を聞き流したり真意を汲み取れずに偽名で登録する、そういった犯罪者を炙り出す目的もあるんだろうな。


 登録の手順はあらかじめ聞かされている。登録料を支払い登録用紙に記入。それを登録証を作成する魔導具に読み込ませ、鑑定魔導具と同期させて情報を登録証に刻み込むのだとか。

 この時点でハンターギルドには偽名を使用したことがバレるからな。登録時点でそういった者を要注意人物としてリスト化しておき、犯罪行為が露見した際などに執行機関に提出する仕組みでもあるんだろう。


 鑑定魔導具を誤魔化す手段は今のところ無いと学んでいる。つまりこの登録を行った時点で、俺の氏素性うじすじょうはハンターギルドに掌握されるということだ。


 それを嫌うのであれば、高い手数料を支払って個人取引を行うしかない。公爵家の身分をみだりに露呈したくない俺からすれば、ハンターの身分証は是が非でも手に入れたいのだから、まあ損益は釣り合っているんじゃないだろうか。

 要は犯罪を侵さず、優良なハンター活動を心掛ければ良いだけの話だからな。



「これで頼む」


「はい、お預かりします。…………はい。では作成に移りますので、こちらの鑑定魔導具にお一人ずつ手を置いてください」



 愛想良く応対してくれる受付嬢に促されるがまま、俺は鑑定魔導具に手を置く。

 まるで〝手紋認証機〟のようなソレ――前世にも似たような〝機械〟とやらがあったらしいな――が光の線を指先から手首まで往復させ、動作を停めた。



「はい、こちらがサイラス様のハンター証です。それではお連れの女性の方も――――」



 受付嬢に手渡された登録証は硬質な素材でできたカードで、表面に俺のハンターとしての情報が、裏面に複雑な魔法式が刻まれていた。そしてカードの右上の隅には、小さな穴が空いている。

 恐らくはチェーンか何かをそこに通し、首から下げられるように為された工夫なんだろうな。身分証を紛失すると大変だろうし。



「はい、こちらがアンネロッテ様のハンター証になります。お二人はここ〝ディーコンの街〟での登録が初登録のようですので、サービスとして首から下げるための革製のストラップをプレゼントしますね。素材の強度に不安がお有りでしたら、後ほどご自分で取り替えて下さっても構いません。カードについての説明をお聞きになりますか?」


「ああ、是非頼む」


「はい、お聞き下さりありがとうございます。それではまずはカードの表記についてです。ご自分のカードの表面をご覧下さい」



 表面……俺の情報の刻まれた面に視線を落とす。そこには……



 名前:サイラス 種族:人間族 性別:男

 年齢:18 登録地:ディーコン支部 ランク:F



と表示されている。



「現在の表示が通常表示となります。ハンターとしての最低限の身分を示すのに必要な表示ですね。都市の入退場の際はこの表面だけを提示すれば大体は通行できます。次に裏面に刻まれた魔法式に魔力を流してみて下さい」



 言われた通りに魔力を流すと、カードの魔法式が淡い光を放ち、四角い窓のようなものを空中に映し出した。

 脳裏に〝ステータスウィンドウ〟だとか〝ゲーム〟だとかの記憶が浮かび上がる。よく分からんな、なんのことだ前世の俺よ?



「現在浮かび上がっているその窓のような物は、〝ステータスウィンドウ〟と呼ばれています。伝説の勇者様がその呼び名を広められたそうです。そちらにはより細かい情報が記載されています。


「魔法適性や称号、所属パーティーや達成依頼、それから魔物討伐履歴などですね。そちらの情報は所有者の魔力と連動していますので、随時更新されていきます。


「主にはパーティーメンバーの募集の際や、依頼を受注する際の自身の信用証明、それからランクアップ試験の際の判断材料としても表示を求められることがあります」



 なるほどな。表面は身分証、裏面のステータスウィンドウはより詳しく俺の情報を証明してくれるという訳か。



「それから注意事項を。表面の表記はランクアップやダウンの際に各ギルド支部で更新しないと変わりませんが一つだけ、お名前の欄の色が変わる事があります」


「名前の色が? どうして変わるんだ?」


「はい。これはハンター証の有効期限を表すためです。お二人は初期ですのでFランクとなっておりますね。Fランクハンターの場合ですと、三週間依頼を受けていない状態が続きますと、ハンター証は失効し名前が赤くなります。この状態で身分証として提示しても、ハンター証は効力を発揮しません」


「失効した場合はどうすれば良いんだ?」


「最寄りのハンターギルド支部へ直ちに届け出てください。ハンター証の紛失の場合も同様です。そこで再発行の手続きを行えますので、ご希望の際は再発行手数料を頂戴した上で発行することとなります」


「なるほど、身分証だけを目当てに登録する者を排除するためか。ちなみに再発行手数料は幾らなんだ?」


「ご理解が早くて助かります。その通りです。そもそも再発行は三度までしか受け付けられません。初回は小金貨十五枚、二回目は金貨一枚、三回目は金貨五枚を頂いております。これはハンター証を紛失するなど軽視している方への警告も兼ねての料金設定です」


「四度目に紛失もしくは失効した場合は?」


「ハンター登録を抹消の上、二度とハンターとして登録が出来なくなります。大切な物の管理を四度も失敗する方には、もはやハンターは名乗らせられないというギルドの方針ですので、ハンター証の保管には充分にお気を付けくださいね」


「なるほど道理だな、よく分かった。説明は以上か?」



 聞き漏らしや制度の穴なんかがあると怖いからな。確認できることは全て確認してしまおうと、俺は重ねて、受付嬢に質問した。




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