第十六話 戦闘用の【土下座】
《心よりの誠意ある謝罪を確認しました。ユニークスキル【土下座】をアクティベートします。条件を満たしました。ユニークスキル【土下座】の派生スキルを解放します。戦闘用スキル【スライディング土下座】をアクティベートします》
スライディング……滑る? どういうことだ!?
頭に響くアナウンスを
《対象を自動で補正します。脅威度優先度共にホブゴブリン一体とゴブリン六体を対象に指定します》
その声に導かれるように、俺の身体は跪いていた姿勢から立ち上がり、今もなお醜悪な鳴き声を上げているゴブリン達の方へと向き直る。
「サイラス様!? 大丈夫なのですか!?」
俺を心配してくれているアンネロッテに声を掛けたかったが、スキルに支配されている今は視線すら向けることはできなかった。
《戦闘用派生スキル【スライディング土下座】スタンバイ。レディ――――》
待て、今何て言った……!?
《ゴー・ユア・ヘッド》
その声が響いた瞬間、俺の身体は弾き飛ばされたかのように疾走し始めた。あんなに苦労した森の地面をものともせず、ゴブリンの集団に一直線に……って、ちょっと待てぇえええーーーッ!?
「サイラス様!!??」
アンネロッテの叫び声に後ろ髪を引かれながらも、向かう集団との距離はどんどん縮まってくる。
「ゲギャギャァアーーッ!?」
「グキャッ! ゴギギャアー!!」
今まで魔法しか使わなかった俺の突進に面食らったのか、ゴブリン達は困惑したように、口々に叫び声を上げる。
「ゴブァアアアアーーーッ!!!」
しかし一際体格の良い個体――アナウンスはホブゴブリンと言っていたな――が上げた咆哮に我に返ったようで、それぞれが手に持った棍棒や石の槍を振りかぶり、構え、そして俺に向かって振られ突き出される。
《脅威度判定:C。
サラリと頭の中に流れるアナウンスと共に、俺の身体は今までしたことが無いような動きを見せる。
身体を捻ると、突き出された槍が鼻先を掠め顔の前を通り過ぎる。上体を反らすと、振り回された棍棒が頭のあった場所を空振りする。
《脅威度判定:A。
腕がひとりでに振るわれ、胸の前で俺の手が何かを弾いた。チラリと地面に落ちたように見えたのは、俺の腕に刺さっていたのと同じ矢だった。
スキルに衝き動かされるがままに集団の間を突き進む。群れのリーダーと思しきホブゴブリンではなく、先程俺の腕に矢を当てた、次の矢を引き絞ったゴブリンアーチャーが目前に迫る。そして――――
――――ズシャアアアアーーー!!
あぎゃぁあああーーーーーーーッッ!!??
俺の身体は突進の勢いのまま低姿勢を取り、足は地面を蹴った。そのまま膝が畳まれ、腕は方向を指し示すかのように前方へ伸ばされ
そのまま地面へと手の平と膝が着き、有り得ない勢いで滑り出したのだ。
【土下座】の格好のままで、下げた後頭部を鋭い何かが掠る感触を覚えながらも、俺の意識は手の平と膝を襲う地面との摩擦の、未曾有の激痛に集中していた。と思いきや――――
――――ゴギンッ!!
あがぁああああッッ!!?? 頭がっ、頭頂がぁあああーーーッ!!??
「グゲァアアアーーーーッ!!??」
両手両足の痛みとは比べ物にならない衝撃と痛みが、突如俺の頭頂部を襲った。それと同時に聴こえるゴブリンのものだろう絶叫。【土下座】の姿勢のままに視界の隅に意識を集中すれば、向う
つまり俺は、【スライディング土下座】とやらの名の通りに【
《対象:ゴブリンアーチャーの脅威度を判定。脅威度:C。ワンモアセット。ゴー・ユア・ヘッド》
両手両足そして頭頂の痛みを堪える俺の頭の中に、容赦なくアナウンスが響く。
俺は上体を起こし、両手で地面を掴むと腕で身体を引きずるようにして、ゴブリンアーチャーの傍らに身体を滑らせた。ちょうど俺の顔の下に脛の痛みに悶えるゴブリンアーチャーの頭がある……っておい、ちょっと待て……!? まさか――――
――――ゴシャァアッッ!!!
ひぎぃあああああーーーーッッ!!??
振り下ろされた俺の頭。今までにも散々硬い素材の床や地面に打ち付けられてきた俺の額は、まさかの生き物……魔物の頭部に打ち付けられていた。
いや人の頭は知らないけどゴブリンの頭めっちゃ硬てぇええーーーーッ!! 頭が割れるぅううーーーッ!!?
《脅威度判定:CからFに変更。対象:ホブゴブリン一体、ゴブリン五体の動揺と困惑が七六%上昇。敵意・害意が六〇%低下。危険域を脱しました。解析報告を終了します》
半鐘の音のような不快な音と激痛が暴れ回る俺の頭に、憎らしいほど鮮明にアナウンスが響く。それと同時に俺の身体はスキルから解放され、動きも声も制限から自由となった。
「ぐ、がぁあァクソッ!! アンネっ、今だッ!!」
それを自覚した俺は、即座にアンネ……アンネロッテに向かって声を張り上げたのだった。
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