第十五話 条件を満たしました
「あった! あったぞアンネ!! 見付けた!!」
嬉しさと達成感から、俺は大声でアンネを呼んだ。
ケナル草だ、間違いない。何度絵と見比べてみても、その確信は増すばかりだ。
「おおい、アンネ! アンネロッ――――」
「サイラス様いけませんッ!」
「むぐぅッ!!??」
これでニーナを本当に自由にしてやれる、と興奮して再び声を上げた俺だったが、突然掛けられた鋭い声と共に口を塞がれた。
慌てて首を動かすといつの間に近くに来ていたのか、アンネが若干眉尻を上げて、その指の細い手で俺の口を覆っていた。
「ムググッ!?」
「(お静かにサイラス様……ッ! ここは
小さな、それでも鋭い声で指摘されて、ハッと我に返る。
そうだった……! 俺は何をやってるんだ!?
ここは安全な人の領域じゃない、魔物や獣の暮らす森の中なんだ……! そこで大声を出すなんて、俺はなんてバカなことを……ッ!!
自身の愚かさを
「いけませんね。どうやら捕捉されたようです」
アンネが通常の声音に戻して、そう言葉を
俺はどうしようもない愚かな自分の不注意に対し怒りも沸いていたが、それよりもアンネに対し謝りたい気持ちで一杯だった。
そしていざ謝ろうと口を開いた、その時――――
「ゲギャギャギャギャッ!!」
「グゲゲゲ……!」
「ギィーギャッギャッ!」
耳
「ゴブリン……!」
現れたのは人型の、小柄な魔物達。
緑色の肌をして、醜悪な顔に悪意と害意を浮かべ、獲物にむしゃぶり付くための裂けた大口はこれから行う行為を思ったのか愉悦に歪み、唾液をダラダラと溢している。上半身裸で腰布だけのヤツも居れば、どこぞのハンター達から奪ったのか胸当てを着けていたり、肩当てや装飾品を着けている奴まで居る。
「全てゴブリン……十匹ですか。まあ何とかなるでしょう」
「アンネ、俺は……ッ!」
「サイラス様、お気になさらず。それだけニーナのことを心配していたのでしょう? 大丈夫です、数匹も倒せば散るでしょう」
「だが、ゴブリンと言えば……ッ!」
最悪の事態を想像してしまい、思わず言葉に詰まる。そしてそれと同時に自嘲する。
俺は一体何様だ? 俺の間抜けな行動のせいでこんな危機に陥っているというのに、巻き込んだアンネを偉そうに心配して。
「女性と見れば
「……ッ! 俺も精一杯魔法で援護する。これ以上足を引っ張ったりしない……!」
アンネが手に持っていた
俺も
「サイラス様、森での戦闘では……」
「分かっている、火属性は使わない。せっかく見付けたケナル草を燃やしたくないしな」
頭を戦いへと切り替える。先に戦った盗賊達の倍の数……しかも慈悲も容赦も無い魔物達だ。躊躇したり油断したりすれば、男の俺は即座に打ちのめされ、殺されるだろう。
「グギャギャギャァアーーッ!!」
一際体格の良いゴブリンが、聞くに耐えない咆哮を上げる。
あまり騒がせてもさらに魔物を呼び寄せかねないし、俺は奴等の出鼻を
「地よ弾けろ、我が敵を穿て――――【
地面から無数の
「ギギャッ!?」
「グガッ! ギャッ!?」
乱れ撃った
「ギャウッ!?」
「グピァッ!」
連中の動きが止まった隙を突き、アンネが逆手に持った二本の短剣で近場の二匹を仕留めた。
なるほど。先の盗賊との戦いでも喉を狙っていたが、比較的柔らかく、かつ当たれば効果が高くて動きも止められるからなのか。
森の中だというのに素早く動くアンネに喉を裂かれたゴブリンが、首を押さえて膝から崩れ落ちる。
「サイラス様、弓を持った個体が居ます。そちらをお願いできますか?」
痛撃を与えてすぐに距離を取ったアンネから指示を受ける。
集団を見回すと、確かに弓を装備したゴブリンが二匹、後方で仲間の陰に隠れるようにして矢を
「任せろ! 水よ集え、束ね織り成し鋭く穿て――――【
空中に水を生成し凝縮させ、鋭い槍を創り出して放つ。
今生成できる限界である五本の水で出来た槍は、高速で飛翔し奥に居るゴブリンアーチャー二匹を目掛けて突き進む。
「ギャウッ!?」
よし、一匹には命中した。放った水の槍が腹部に刺さり、アーチャーの一匹が地面をのたうち回る。
もう一匹は――――
「――――ぐあッ!?」
「サイラス様!?」
腕に鋭い痛みを感じ、思わず膝を着く。突然の痛みにその箇所を見れば、左の二の腕にアーチャーが放ったであろう矢が突き立っていた。
俺が魔法を放ったと同時にアーチャーも矢を放っていたんだろう。痛みに集中を乱しながらも視界を巡らせれば、体格の良い個体に庇われるようにして、顔を笑みに歪めるアーチャーの一匹が見えた。
「大丈夫ですかサイラス様!?」
くそっ! 何をしているんだ俺はッ!
「立てますか!? 集団相手に足を止めては囲まれるだけです!」
「ぐっ……! 分かった……ッ!」
何とか遠距離攻撃のできるアーチャーを仕留めたいところだ。痛む腕を無視して、俺は足を踏ん張り立ち上がる。
なんとか……なんとか連中の意表を突き、行動を阻害できないか――――
「――――ッ!?」
再び俺を狙ったであろう飛来する矢を、短剣でアンネが打ち払った。チラリと窺えたその横顔は普段通りの無表情だったが、少し顔色が悪く見えた。
俺のせいで。俺が間抜けだったから、彼女をこんな窮地に追い込んでしまった。
「アンネ、バカな俺のせいで……本当に済まない……!」
俺はせめてアンネの盾になろうと、そしてせめてアーチャーだけでも倒そうと、
《心よりの誠意ある謝罪を確認しました。ユニークスキル【土下座】をアクティベートします。条件を満たしました。ユニークスキル【土下座】の派生スキルを解放します。戦闘用スキル【スライディング土下座】をアクティベートします》
そして戦闘中であるにも関わらず、頭の中にあのアナウンスが響い――――なんですって?
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