後悔してる。1

 トモが遠くに引っ越ししていなくなって、私は中学校へ入学した。複数の小学校から一つの中学校に集められるような形で、学年の人数は2、3倍になった。私は友達と呼べるような人間もおらず、すぐに孤立し、当たり前のようにいじめの標的になった。いじめはそこまで苛烈なものではなかったが、私の精神にヒビを入れるには十分過ぎた。唯一の逃げ場だった学校が地獄みたいな家と大差なくなってしまって、私はもう限界だった。学校には行かず、かといって他に居場所は無く。ではどこにいたのか、実を言うとこの頃の記憶があまり無い。というのも、この状態は長くは続かなかったからだ。


 中学に入って1ヶ月ほど。私の母親が死んだ。その日家に帰ると警察がいて、母親の死を告げられた。昼から酔ってフラフラしているところを、車に撥ねられたらしい。母らしいといえばらしい。



 最悪な母親だった。必要がないから詳しくは言わないが、確か私が学校に行き始めた頃から、私に暴力を振るい始めた。怒鳴り散らして包丁を向けたかと思えば、突然それが嘘みたいに優しくなったり。母はいつも酒の匂いがした。本当に最悪だった。でも、どれだけ最悪だったとしても、事実として彼女は私のただ一人の母親だった。


 一体いつから?最初はそうじゃなかった筈だ。お風呂で私の体を洗っていた母親。私も笑いながら彼女の背中を泡で擦った。スーパーで一緒に買い物をして、ハンバーグを一緒に捏ねた。玉葱が目にしみることは母から教えてもらったこと。父がいないことを除けば、私たちはごく普通の親子だっただろう。


 一体何が彼女を狂わせてしまったのだろう。母親は私の父親の話を一切しなかった。もしかしたら、いつか話すつもりだったのかもしれない。もう分からないし、この類の妄想は何の役にも立たない。顔も名前も知らない父親だけど、ふざけんなと一言言って平手を食らわせ、ついでに股間を蹴り上げてやりたい。


 私は母親を許すことが出来ない。何が原因だったとしても、私にしたことの罪が消えるわけではない。だとしても、彼女は私の母親だから、私以外の誰かが彼女を悪く言うことは許せない。彼女が憎い。でもそれ以上に、私と彼女から幸福を奪ったそれが、憎くて憎くて堪らなかった。


 私はその日馬鹿みたいに泣いた。婦警さんが来てくれて、ひたすら背中を擦ってくれていたのを覚えている。あれほど泣いた日は今のところ無いけど、あの日以降母を思い出して泣くことはただの一度もない。



 私は一度も会ったことのない、親戚を名乗る夫婦に引き取られた。私は抜け殻になっていて、住む場所と食事さえ何とか出来れば後はどうでも良かった。もしその二つが無条件に与えられていなかったら、私は何もせずにそのまま死んでいったかもしれない。それほどに、気力という気力は私の中に一切残っていなかった。

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ブランコな彼女 小夜樹 @sayo_itsuki

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