アルカディア

人口800万人。女王はレイヴェスナ・クレッシェンド。

魔法との調和を根幹とする魔法国家あるいは宗教国家。伝統あるゴシック調の街並みが広がり、音楽にルーツを持つ文化が有名。現在では魔力による影響により、それらの景色は緑に覆い尽くされている。自然に飲み込まれた街というと退廃的なイメージを持つかもしれないが、魔法や自然だけでなくあらゆる命と共生することを掲げる国だからこその賜物。その神秘的な街並みから絵本の中の世界と喩えられることも多々ある。

立憲君主制の統治形態をとるアルカディアでは王とは別にコンツェルト評議会が置かれ、王と同等かそれ以上の実質的な主権を握る。各地区はアルカディア・タクト、通称『アルカディア楽団』によって管理され、治安維持を担当する『リリック』、経済査察を担当する『コンポーズ』、環境保全を担当する『アレンジ』の部署に分けられる。楽団のトップは『楽団長(グランドマエストロ)』が務め、部署毎の指揮官は『マエストロ』という階級を持ち、職員は『楽団員』と称される。また、彼らを一括りにした俗称として、市民からは『指揮者』と呼ばれることが多い。秘匿された事実として、女王直属の執行部隊『ボーカル』という部署が存在する。

アルカディアの地区はソプラノ、アルト、テノール、バリトン、バスの五つに大別される。ソプラノ地区は行政の中心部でありフォルテシモ宮殿・大聖堂やアルカディアスコア裁判所、多数の貴族領、魔導図書館があり、アルト地区は商業の中心部でありグランドスケール時計台やヴォイスフレークホテル、ヴォイスフレーク広場など、テノール地区は庶民の居住区でありユレケラスの大樹(又の名をレミューリアの楽譜)を中心としたルズティカーナ村が栄え、テノール地区とバリトン地区を別つピアニシモキャニオンを結ぶグランドノートブリッジ、バリトン地区にはファンタジアの森や遺跡となった旧貴族の館、バス地区にはコーダ火山など特徴的なランドマークが存在する。バリトン地区以降はそれまでの自然との調和が取れた街並みは失われ、未開拓の自然と砂漠が覆い尽くしている。また各地区にはドレミファソラシドを割り振った番街があり、ド番街、レ番街、ミ番街というふうに呼ばれる。伝承によれば五つの地区は五本の聖剣が守護しているとされ、それぞれの守護聖剣を持つ五人の騎士からなる聖奏騎士団があった。五本の聖剣を要とする聖奏騎士団ナイツ・オブ・オブリガートは現在では存在せず、魔法戦争中にアルカディアを守って散ったとされる。爵位制度が形骸化して残っているほか、血統に依らない偉人には「卿」という称号が与えられる。


アルカディアが魔法国家、あるいは魔法郷と呼ばれるようになったのはフェイズシフト発生からすぐのことであり、ラストリゾートが完成するよりも前のこと。その発端はフェイズシフト以前、ユリウス・フリゲートという魔女がアルカディアに現れた2038年にまで遡る。ユリウスは世界に初めて魔法をもたらした人物として知られ、コンツェルト評議会も彼女の魔法を本物と認めたほどである。それから間もなくフェイズシフトが起きユリウスが失踪するも、ユリウスの愛弟子として魔法の教えを受けていたレイヴェスナ・クレッシェンドがアルカディアを魔法郷へと導いた。つまり事実として、アルカディアはラストリゾートより先に文明に魔法を組み込んだ史上初の国家なのである。


魔法国家となる以前から宗教国家として繁栄していたアルカディアだが、主に信仰されているのはレミューリア神話である。アルカディアの民衆には文化レベルで根ざしており、誕生月によって守護天使が割り当てられたり、各家庭には必ず聖書が置かれている。このような文化があったからこそ、フェイズシフト以降の堕天使の出現は世間を大いに混乱させた。当時、民衆を支えてきた神話の崩壊が危惧されたが、堕天使の存在がかえってアルカディア市民の信仰心をより厚くさせている。レイヴェスナ・クレッシェンドへの崇拝的な礼賛もまた、亡き神々の面影を彼女に重ねた結果だとされる。


誕生月と守護天使の相関とそれによる性格診断は以下の通り

1月・2月 「勇気」を司るベオレーク 勇敢かつ親切で楽観的だが、失敗が多い

3月・4月 「正義」を司るフリゲート 誇りを持った自信家で完璧主義だが、常識外れ

5月・6月 「神聖」を司るユヴェリナス 寛大な心を持つ天才肌で夢見がちだが、悲観的な皮肉屋

7月・8月 「淘汰」を司るラヴドゥーム 淡白で秘密が多く依存しやすいが、忍耐強い努力家

9月・10月 「知恵」を司るアストレア 気まぐれな芸術家で思慮深いが、こだわりが強い頑固者

11月・12月 「慈愛」を司るエヴァフレイ 愛情深く純粋で計算高いが、自己中心的

13月 「審判」を司るサルバトーレ 現実的かつ孤独で見切りがいいが、達観している


古来よりアルカディアは王とその恩寵を受ける貴族たちによって統治されてきた。貴族社会の中には爵位制度が設けられており、王家でないレイヴェスナ・クレッシェンドが女王の座に就いた今でも残っている。爵位を持つ者にはコンツェルト評議会に席を持つ権利が与えられるほか、それぞれ以下のような権能がある。

・『公爵』はアルカディア王室とその分家に与えられた。レイヴェスナ・クレッシェンドは王族でないため、現在は旧王族であるヴォイスフレーク家の分家が占める。コンツェルト評議会においては王に並ぶ発言力を持つ。公爵領はアルカディアの5地区を3人の公爵で統治していた。

・『辺境伯』はアルカディアの国境防衛と各領地間の管理及び仲裁を任された。現在は国境が存在しないため、後者の任のみがある。また、アルカディアの5地区以外、即ち国外の一部を国土と見なす特権が認められている。

・『伯爵』はアルカディアの5地区に1つ以上の領地を持つ者に与えられる。領地は公爵領の一部を貸す形で分譲され、そこを伯爵領として統治する役目を持つ。

・『男爵』は伯爵や辺境伯によって任命される。伯爵や辺境伯と違い、自分の領地を持たない。

・『士爵』は勲功者に与えられる。該当者はコンツェルト評議会に席を持つことができ、各方面にて優遇される。贈られる褒章には相応の権威が認められている。単に『卿』とも。


アルカディアの栄光を語るに欠かせない存在が、『聖奏騎士団ナイツ・オブ・オブリガート』である。聖奏騎士団にはそれぞれに王の加護が与えられた守護聖剣が授けられる。王と国と命を共にする騎士たちで構成され、その聖剣で歴史に降り積もる穢れを斬り祓う。アルカディアの歴史を形作る戦に降臨し、勝利を確約してきた。彼らは王の手足であり、その言葉は王の羽筆であり、その眼差しは国の未来である。国内においても国民たちの模範となり、彼らに憧れる者も多かった。2043年から2045年に起きた魔法戦争においても活躍したが、数名の殉死者を出し事実上の解散となった。現在でも元騎士団の者は伝説の聖騎士として敬われる存在である。

騎士団は300年以上の歴史を持つが、フェイズシフト以降はレイヴェスナ・クレッシェンドが与した女王の加護を持つ守護聖剣が軸となっていた。守護聖剣はいずれもレミューリア神話に登場する神々の名を冠し、神話上の鉱石とされるイマキュライトによって鋳造された逸話を持つ。

・守護聖剣ベオレーク 所有者:騎士団長カドラニス・プラズニル 

・守護聖剣アストレア 所有者:エルヴェ・ジュリアス・ド・ウォルザーク 

・守護聖剣エヴァフレイ 所有者:ルキナ・アルベール・ラナンキュラス 

・守護聖剣フリゲート 所有者:ライム・ルズティカーナ1世 

・守護聖剣ユヴェリナス 所有者:ヴィルフレッド・フォン・アインザッツ 

このほか、守護聖剣ラヴドゥーム、守護聖剣サルバトーレの二振りが存在したが、それぞれがアルカディアの終末と共に葬られた。余談だが、この二本には神聖なイマキュライトとは対をなす邪悪なオブスキュライトも用いられて鋳造されたという。

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